第2話


「青の看板で店名がミス……どこだ?」


 俺は彼女から聞いたヒントを元にスマホのマップアプリを開いて検索しまくっていた。

 しかし、彼女言うヒントに当てはまる喫茶店は見つからない。

 一体なんていう店なんだ?


「す、すいません。御面倒を掛けてしまいまして……」


「いや、大丈夫ですよ。どうせ暇ですし」


 とは言っても早く探さないと暗くなってしまう。

 

「あ、そうだ! 俺のスマホ貸しますから、約束してた方に連絡を取ってみたらどうですか?」


「すみません、実はスマホの中に連絡先があって電話番号などを覚えていないんです……」


「あぁ……まぁそうだよね……」


 俺だって母親と父親の電話番号なんて覚えてないしなぁ……。

 どうするかなぁ……連絡を取る手段がない、店の名前も分からない。

 困ったなぁ……もしかしたらヒントに何か間違いがあるのか?

 店の名前が実は全然違うとか、看板の色が違うとかか?


「仕方ない! ここら辺の喫茶店片っ端から探しましょう!!」


「え? で、でもそれでは貴方にご迷惑が……」


「大丈夫です、それに手を貸すって言いましたし、最後まで付き合いますよ」


「……ありがとうございます」


 そうして俺は彼女を連れて周辺の喫茶店に片っ端から向かった。

 そして、一時間ほど回ったところでようやく……。


「ありました!! ここです! 喫茶リリアン!」


 全然名前違うし、看板もピンクじゃねーかよ。

 なんて思ったけど、見つかって良かった。

 話し方とか立ち振る舞いとか上品だし、もしかして良いところのお嬢さんで、結構世間知らずだったりするのか?

 まぁこれで俺の役割も終わりだし、さっさと帰るか。

 なんて事を考えていると、店の中から優しそうなお婆さんが現れた。


「優愛(ゆあ)」


「おばあさま!」


「遅かったので心配しましたよ、無事に会えて良かった」


「間に合って良かったですわ」


 どうやらお婆さんのようだ。

 まぁ、何にしても会えて良かった。

 俺はさっさと家に帰ってゴロゴロしよう。


「おばあさま、こちらの方が困っている私を助けて、ここまで連れてきてくださったんです」


「まぁ、孫がお世話になりまして」


「あぁ、いえいえ」


「私は今日北海道に帰る予定だったんですけど、最後に孫とこの喫茶店で待ち合わせをしていたんです。貴方がいなかったら孫と会えずに北海道に帰らなくてはいけなかったわ。本当にありがとうございます」


「いや、自分はただ一緒に喫茶店探しただけですし」


「本当にありがとうございます。あ、私は木城(きじょう)優愛(ゆあ)と申します。本日は時間がありませんので、後日お礼をさせていただきたいので、ご連絡先をお聞かせ願えないでしょうか?」


「あぁ、そう言うのは良いですよ。困ってたらお互い様じゃないですか?」


「ですが!!」


「本当に大丈夫です。お婆さんと会えて良かったですね。じゃぁ自分はこれで」


「あっ!」


 俺はお婆さんと木城さんに別れを告げてそのまま家に向かって走りだした。

 別にお礼が欲しくて助けたわけではないし、それにこれ以上美少女に絡まれても良いことなんて無いと思う。

 まぁ、俺の勝手な偏見だけど。



「行ってしまいましたわ……」


「心優しい良い殿方でしたね。優愛、貴方はとても良い出会いをしたのですね」


「はい、おばあさま。私が婚約する方もあの方のような人だと良いのですが……」


「……婚約が嫌な時はいつでも私の元に来なさい。無理をすることは無いのですよ?」


「ありがとうございます。でもお父様に恥をかかせるわけにはいきません。とにかく会って見ます」


「……そうですか。私は優愛の味方ですからね」


「はい、おばあさま!」



 家に帰ってまず驚いたことがある。

 霞夜の連絡先をブロックしていなかったので、霞夜から電話とメッセ―ジの嵐が来ていたのだ。

 色々な事を送ってきてはいるが、内容は三通りだけだ。


「謝るなら許してあげる」

「アンタ以外にも良い男はいる」

「もう知らない」


 この内容がローテーションで送られて来ている。

 まったく何が言いたいんだか……。

 俺はメッセージを確認するのも面倒になり、途中までメッセージを呼んで霞夜をブロック。

 そのまま風呂に入って飯を食って眠った。

 明日からは霞夜に振り回されない生活が始まる。

 まぁ学校での俺の評判は下がるんだろうなぁ……きっと霞夜の奴が俺が情けない奴で愛想つかしたとか言いふらしてんだろうし。

 元々あいつと付き合ってるって話しが学校で噂になってたから、彼女なんて出来るわけ無かったけど、残りの学校生活でもどうせ俺みたいなつまらない奴には彼女なんて出来ないだろうし。


「大学生活にかけてみるか……」

 

 これから俺の新しい学園生活が始まる。

 もうあのわがまま偽彼女に振り回されることなんてないんだ。

 そう考えるだけで登校する足取りが軽くなった。


「意外と誰も触れて来ないな……」


 霞夜と別れた翌日。

 学校の奴らは皆何も言っては来なかった。

 まぁ、別れたのは昨日の放課後だし、まだ噂が広まってないのかもしれない。

 

「おはよう」


「おぉ、おはよう慶史郎。彼女は?」


「え? あぁ……別れた」


「ふーん、そっか……え、別れた!?」


 この俺と霞夜が別れたことに驚いた男子生徒は大崎英志(おおざき えいし)。

 一番仲の良い男子生徒で俺と霞夜の関係を知っている数少ない人物だ。


「もう俺はあいつに付き合いきれない。無理無理」


「……まぁ、あんな扱いされてれば気持ちは分かるけど……でも……いや、俺が言うことじゃないな……」


「なんだよ、なんかあるのか?」


「何でもねぇよ。でもそれならこれから美月の奴大変だぞ」


「まぁだろうな。でも美月だって馬鹿じゃないし、俺の代わりを探すか何かするだろ?」


「……代わりか……お前の代わりはそうそう見つかんねーと思うぞ」


「そうか? 今度はもっとイケメンな代わりを見つけるだろ? あいつなら簡単だ。いつもは周囲に猫被ってるし」


「……まぁ見つけるのは簡単だろうけど、美月の気持ちの問題だな」


「どういうことだ? 別に偽物の彼氏だし、何も問題ないだろ?」


「心を許していない間に偽でも彼氏役なんて頼まねーよ」


「じゃぁお前がやれば良いだろ?」


「俺は無理、好きなやついるし」


「だよなぁ……でももう俺には関係ないし」

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