第1章 第4話 神様になる

「リタ様のような美形が突然現れたら皆が驚いて当然です、リタ様の顔はもう神の作りだした素晴らしい芸術です!!」

「いや、僕の亡くなった両親から受け継いだ顔だから、神様は別に関係ないんじゃないかなぁ」


 僕の両親は僕が成人した頃に亡くなっている、とても仲が良かった二人は一緒に狩りに行き、何かの理由で崖の下に転落して死んだ。僕はその時とても悲しくて落ち込んだ、そんな僕にとってはソアンは残されたたった一人の家族であり、とても大切な子どものようなものだ。ただそんなソアンが言うことはちょっとぶっとんでいる、僕の顔は両親からの遺伝であって、どこかの神様の作り物ではないのだ。


「それじゃ、冒険者登録にいくかい」

「はい!! 楽しみですね!!」


 こうしてゼーエンの街に入った僕たちはまず冒険者登録にいくことにした、冒険者とは色んな依頼を受けてそれで金銭を得る職業だと聞いていた。荒々しい者も多いと聞いたが、プルエールの森にくる商人の護衛の冒険者は、大体が礼儀正しい者が多かった。冒険者も街や国によって傾向が変わるのだろう、冒険者ギルドという場所は街の中心にあった。


 そこで僕は吟遊詩人として、ソアンは大剣使いとして、それぞれ冒険者登録をした。合わせて銅貨10枚をとられたが、銅の身分証を貰えたので悪い取引ではないだろう。冒険者のランクは銅が新人、鉄で一人前、銀で熟練者、金は相当の実力者、白金はそれ以上で幾つかの功績を修めた者となっていた。ソアンは何で何も起こらないのかなとか不思議なことを言っていた、そんな間に全ての手続きをしてくれた受付のお姉さんに、僕は嫌な予感がして気になっていたことを聞いてみた。


「すみません、吟遊詩人とは冒険者でどういう位置にあるのですか?」

「吟遊詩人は大きなパーティにならいることがあります、大抵は魔法を使っての仲間の能力向上をする後衛です。小さなパーティでは必要とされない場合が多く、よほど大きなパーティでないと見かけません」


 ま、魔法!? うう、また嫌な予感が的中した。魔法が使えなくなっているエルフの僕になんて務まらない職業じゃないか、これからどうしようか悩ましい、僕は完全にソアンのお荷物になってしまう。そんなソアンはきょろきょろと周囲を見回していたが、僕も見てみたが特に怪しい人物は誰もいなかった。なんだか落ち着かないソアンの手を引いて、僕は依頼が貼ってある掲示板を見てみた。


 いろんな依頼があった、難しそうなものではワイバーンの討伐から、優しそうなものでは薬草採取などまである。この中で僕が役に立てそうなものといったら薬草採取くらいだ、あとは圧倒的に僕が戦力として役に立たないから引き受けられない。


「どうしようか、ソアン?」

「そうですね、それじゃ先に宿でも決めに行きませんか。今日はもう昼を大きく過ぎてますし、働くのは明日からでもいいと思います」


「それじゃ、そうしよう」

「はい、リタ様」


 そういえばこのリタ様というソアンの僕への呼び方もなおしたほうがいいのだが、昔にソアンにそう言ってみたらもう私の面倒はみてくれないんですか、と何日も物凄く泣かれたのでとてもなおせそうにないのだ。様付けでよばれる吟遊詩人なんて変だよね、ソアンは見た目はほとんど人間と変わらないから、エルフの僕に仕えてる人間のように見えて尚更変だが仕方がない。


 そんなことを考えながら街の宿屋をめぐり、安くてご飯が美味しいと評判の宿屋に一泊してみることにした。聞きこみをした噂が嘘なら、明日は別の宿にすればいいだけの話だ。そうして二人部屋を一つとった、代金は銅貨5枚だった。これが高いのか安いのかも分からない、ベットが一つしかない二人部屋だったが、僕とソアンは親子のようなものなので問題はない。


「ソアン、久しぶりに僕と二人部屋だけど大丈夫かい?」

「はい、リタ様と久しぶりに一緒にいられて嬉しいです!!」


 ソアンが嫌がっていないようだったので助かった、一人部屋を二つとると代金がまた高くなるからだ。それから僕は店主に吟遊詩人のことを聞いてみた、この宿屋兼酒場にも吟遊詩人がくることがあるのか、そもそも吟遊詩人がこの街にいるのかが気になっていたのだ。


「ああ、うちならミーティアっていう吟遊詩人が時々場所を借りにくる。別嬪さんだし歌も陽気でなかなか上手い」

「そうですか、僕も吟遊詩人の見習いのようなものでして、今夜いらっしゃるといいですね」

「リタ様の方がの歌が上手いです、リタ様に勝てる人間なんて信じられませ……むぐっ……」


 僕は余計なことを言いそうだったソアンの口に、その辺の露店で買っておいた焼き菓子を放り込んだ。ソアンはほっぺたを押さえて、もぐもぐと焼き菓子を幸せそうに咀嚼していた、そんなソアンもとっても可愛らしかった。さて吟遊詩人の世界がどんなものか分からないのだから、僕としてはやみくもに敵は作りたくないものだ。


 やがて夜になり人がだんだんと集まってきた、僕たちは店の邪魔にならないように端っこの席で、注文したご飯を食べながらのんびりと待つことにした。暖かくて新鮮な野菜と肉が入ったスープと、そのスープにつければ柔らかくなるパンで十分な食事だった。


店が半分ほど埋まったらようやくミーティアという吟遊詩人がやってきた、リュートという楽器を持っていて赤い髪に茶色い瞳を持つ少女だった。年は大体17か18くらいだろうか、それから彼女の歌を聞いてみたが、歌い手としてはまだ未熟だが内容がなかなか面白かった。


賑やかな曲を歌ったかと思えば、この国の周辺のことを歌い上げたりした。つまり吟遊詩人は情報屋でもあるわけだ、場を賑やかに楽しませるだけじゃなく、周辺の情報に疎くてもいけないのだ。


「リタ様の方が絶対に上手いじゃないですか」

「そうかい、僕はとても上手い歌い手だと思うよ。歌っている歌も知らない話ばかりで興味深い」


「ほらっまた音を外した。はぁ~、私は気に入りません」

「歌うことに一生懸命で楽器を使いこなせていない、確かにそうだが頑張っていて好感が持てる」


「いいえ、絶対にリタ様の方が上手いです!! むぐうっ!!」

「ソアン、しいっ!! 歌は静かに聞くものだよ、歌い手に失礼だろう」


 ソアンがミーティアという歌い手の文句をぶつぶつと言いだしたので、僕は慌ててその口にパンを放り込んだ。だが僕のそんな行動は既に遅かったようだ、燃えるような赤い髪の少女がいつの間にか、僕たちの前にリュートを肩に担いで立っていた。そして、僕たちにこう言い放った。


「ちょっとそこのお客さん!! あたしより歌が上手いっていうなら歌ってみな!!」

「ええっ!? こんな大勢の前で!!」


 僕はそのミーティアと言う少女にマントを掴まれて、そのままズルズルと引っ張られて店の中心に連れていかれた、そしてとにかく歌えと命令されてしまった。さて僕は一体どうしたらいいんだろうか、店の皆は早く歌えと歌えと野次をとばしている。仕方がなく僕は一曲だけ歌ってみることにする、荷物の中からハープを取り出して、歌う曲はさっきミーティアという少女が歌っていたこの国の成り立ちだ。


 フード付きのマントも外して僕はエルフの独特の耳も見える姿になる、普通の服に丈夫なブーツという冒険者見習いのようないでたちだが、フードを被ったまま歌うよりかはいくらか良いだろう。そうして僕が歌い出したら、何故だろうか賑やかだった酒場がだんだんと静かになっていった。歌っている曲こそ陽気なのだが、それとは逆に酒場を沈黙が支配していった。やがて僕が一曲を歌い終わった時、誰もお喋りをしていなかった、そんな中でミーティアという少女が一言だけこう言った。


「か、神や、音楽の神様がここにいる!!」

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