第16話 稚気
リンドウらが四人
およそ中腹にまで至ったろうか。
ゆっくりと
――ぱん!
音高らかに一つ、打たれた
途端、四人の視界に映るものは
眼前の朱鳥居の向こうに見えるのは、延々と続く千本鳥居の風景ではない。
深く淡い霧に包まれた、神仙の
その時間と空間は、霧に包まれ閉ざされており、遠くに見える山の稜線は、薄墨色と白にぼかされていた。
四人は、ゆっくりとその境界を踏み越える。各々、越境時には当然
肌の上に触れたるは、
(相変わらず、作り物めいているな)
独り言めいた口調でそう言いながら、藤堂はリンドウの隣に立ち並ぶ。頭を
しかして、リンドウ自身の感想も藤堂のそれと代わりはしない。
じっと、目を
――牢獄だろうか。
リンドウにとっては二度目の
ここは全く、
思い出してほしい。
自分達の結びつきがどれ程までに強いものだったのかを自らで。
背信して悪びれない、死に別れた人の世での仮初の伴侶の事になどもう気を奪われず、意識の外に捨て置いてほしい。忘れてほしい。どうでもよいものなのだと悟って欲しい。
本当の貴女を、私達の日々を思い出してほしい。
――そう。それは願っていても口には出せない種のものだ。
一途で、真摯で、諦めを知らぬ男。それが
(まるで牢獄だな)
隣でぽつりと呟く藤堂に、リンドウは思わず
(
ああ、とリンドウはわずかばかりに胸をなでおろした。藤堂から見れば、
「――人の事を言えた義理ではないでしょう」
その言葉に含まれるのは、無論リンドウ藤堂諸共である。リンドウの言葉には答えずに、藤堂はにんまりとその大きな口を笑ませた。
相も変わらぬ白磁のような肌。すらりとした190近い高長身。短く刈り上げられた黒髪。鋭い
誰もが認める美貌ではないが、一度目にすれば容易には忘れられない顔立ち。印象深く残る、色鮮やかな一挙手一投足。
油断をすれば、対峙しているだけで酔いが回る――囚われる。
「お二人とも、参りましょうか」
涼やかに発せられた声に、リンドウ藤堂は二人同時に顔を上げる。言葉を発したのは赤髪の
と、ぎゅ、と。
「はぁ⁉」
思わずリンドウは
「ちょっと藤堂!」
(蛇がいる)
「ひっ」とリンドウの喉が鳴った。思わず手を繋ぐどころか藤堂の太い腕に全力でしがみついてしまった。
「どどど、どこっ、どこにへびっ……」
(そのまま伏見のの屋敷へ向かえば視界に入るだろうなぁ)
「やだやだ待って止めていやっ」
声にならない悲鳴交じりの哀願でリンドウは必死に藤堂を見上げる。何があろうと蛇など絶対に見たくはないのだ。故に視線を下げるなどもっての外。藤堂の顔から視線も外せない。そんなリンドウの様子を受けて、藤堂はにんまりと笑みながらゆっくりと
(間違っても踏まぬよう抱えて行ってやろうか? それとも手を引くだけに留めるか?)
「抱っこして!」
間髪入れず藤堂の首に両手でかじりついたリンドウに、今度は藤堂のほうが面食らった。間違いなく怒ったりすねたり
ふと見れば、笹の葉の眼をさらに細めた青髪の松岡が、声には発さず唇だけでこう
――このすけべいが。
そういうつもりではなかった
久方ぶりの恋しい女の重みと髪の香りを、藤堂は余すことなく満喫しつつ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます