第49話 王大使

「今から話すことは嘘偽りのないものです」王大使は意を決したように言った。

「今は米軍の手に渡っている円盤状の物体は中華人民共和国の所有物です」

「なぜ今まで秘密にしていたのですか」「あれは土星の第2衛星エンケラドスを探査するために中国国家航天局が打ち上げた天問5号の探査機です。目的はエンケラドスの生命探査です」江角はエンケラドスの地下には海があり、それが南極の間欠泉から水蒸気となって噴出していることを知っていた。

「天問5号の探査機は噴出している水蒸気を回収して、地球に持ち帰ることに成功しました。そして、それは人類が初めて地球外生命を発見したという偉大な成果になるはずでした」「それがあの殺人ウイルスだったというわけか」

「探査機の回収はタクラマカン砂漠のはずでしたが、軌道修正に失敗して貴国領海内に落下してしまいました」「なぜ我が国に通知をしないで、極秘に回収をしようとしたんだ」「地球外生命の発見という快挙発表の前に恐るべき疾病の発生を知ったからです。COVID-19の発生源と言われた悪評の再来だけはなんとしても防ぎたかったのです」江角は王大使の身勝手な弁解に湧き上がる怒りを抑えられなかった。

「あなたがたはいつも真実を隠そうとする。そして、今回もその嘘によって、大勢の人間が死に追いやられ、米中の全面戦争を引き起こしてしまった。その責任をどうとるつもりですか」

「日本に米国との停戦の仲介をとってもらいたいのです」

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