第13話 同時進行

「江角首相、君は戦争を始めたんだぞ。その現実を理解しているのか」ブラウンアメリカ合衆国大統領は正体不明の疫病のことより海上自衛隊の潜水艦が国籍不明の潜水艦を撃沈したことの方を重視しているようだった。

「大統領、魚雷を最初に発射したのは日本の領海を侵犯した潜水艦の方です。海上自衛隊は自衛のために反撃しただけです」

「正当防衛ということか。米国も共有する情報と独自の情報の両方から分析を進めている。国籍不明の潜水艦の正体はすぐに明らかになるだろう。相手がどうでてくるかだな」江角は撃沈したのは十中八九、中国の潜水艦だと思っていた。

「大統領、毒性の極めて高いウイルスのことですが、人間だけではなく、鳥類、魚類にまで急速に感染が拡大しています。このウイルスは人類が初めて見る未知のウイルスです。極めて迅速の対応が必要だと考えます」江角はこのウイルスの情報を当面極秘扱いにして、WHO(世界保健機構)への報告を遅らせるように米国に要請されていた。

「そのウイルスについては、提供された分子構造のデータをもとにCDCが詳細な解析を開始している。日本で分離されたウイルスも横田基地から米国に空輸中だ」「未知のウイルスですが、現在分かっていることは最初は13種類でしたが、通常では考えられないスピードで突然変異をしています」

「江角首相、米国には世界に誇るバイオ製薬会社がいくつもあるんだよ。RNAウイルスに効果があるワクチンを短時間で製造出来ることは過去のパンデミックですでに証明済みだ。安心したまえ」大統領の自信に溢れた言葉を信じたかったが、進行している現実は江角の想像を遥かに超えようとしていた。

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