第11話 危機

 潜水艦ずいりゅうは国籍不明の潜水艦を追尾し続けていた。4回目の周回が終わろうとしていた時、突然スクリュー音が途絶えた。住谷は潜水艦の発するどんな音も聞き漏らさないように全神経を集中した。

「艦長、探針音(ピンガー)を海底に向けて発射しています」篠田艦長は日本の領海内でアクティブソナーを使うという自らの存在を暴露する行動に驚いた。

「こちらの存在に気が付いたのか」「海底にある何かを探しているようです」住谷はピンガーが発射されたことによって、我が艦が発見されないことを祈った。

 だが、その期待は広・狭帯域ディスプレイが示すスペクトルとソナーアレイが捉えた聞き覚えのある音であえなく裏切られた。

「艦長、魚雷発射管の注水音を探知しました」国籍不明鑑は戦闘準備を開始した。篠田艦長は即座に命令を下した。「総員、戦闘配置、魚雷戦用意」艦内の緊張が一気に極限まで高まった。

「一番、魚雷装填よし」「取り舵一杯、デコイ用意」住谷は敵艦の魚雷発射管の前扉が開く音を探知した。「発射口の開音を探知」「一番、注水開始」「魚雷発射音を探知」悪夢のような戦闘が始まろうとしていた。「全速前進、デコイ発射、衝撃に備えろ」数秒後凄まじい衝撃が潜水艦ずいりゅうを襲った。

「被害状況を報告しろ」「電動機室一部浸水」「機械室異常なし」

「一番、注水完了」「一番発射口を開け」「敵艦、取り舵、方位2-8-6」

「一番、発射」篠田は時間を測っていた。もし、命中しなければ次が無いことが分かっていたからだ。「船殻破壊音を探知、敵潜水艦撃沈です」住谷の声が震えていた。艦内が歓喜に沸いた。喜びに浸るのはこの一瞬だけだと篠田は気を引き締めるように自分に言った。

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