第20話 雪の日の過ごし方

 やあ、君か。

ここ最近、寒い日が続いてるね。

昨日は広い範囲で雪が降ったよ。

この辺りでもかなり積もったものだから

一部のスタッフが通勤困難になってね。

可能な者はリモートワークとなってるよ。

その点君はほぼ住み込みでここにいるから

問題は無かったね。


 昨日の夜も翡翠と長電話して

またまた楽しく面白い話を沢山聞いたんだよ。

特にキニップのはしゃぎぶりがね。

今日は仔山村の雪の日のお話をしてあげるよ。


   * * * * * * *


 2021年2月7日。

仔山村では深夜から明け方にかけて

雪が降った。

蒼穹は目を覚まし、窓から外を見ると

辺り一面銀世界となっていた。


「今年も、積もったんだね」


 蒼穹は仔山村に来てからの冬に

何度か雪景色を見てきたので

それ程驚いてはいない。


「キニィちゃんが見たら驚くかな」

「きっとそうかもしれないわね。

温かいシチューを用意するわ」

「うん、お母さん」


 蒼穹はすぐさま着替えて

翡翠の用意したシチューを召し上がった。


「温かくて美味しいね」

「外はまだ少量雪が降っているけど

外に出て遊ぶには丁度いい感じね」

「今日はキニィちゃんと雪遊び出来るかな」

「私も付き添うから安心してね。さてと

こちらも暖かい服装に着替えたら

外に出てみましょ」


 蒼穹は寒さを防ぐために水色セーターの上に

青いコートを着て、厚手のジーンズを穿いて

青い手袋もして、温かい靴下の上に

黒い長靴を履いて外に出た。

翡翠は緑色のコートを着て外に出た。


 一方でキニップは朝から凄く興奮していた。


「わ!なにこれなにこれ!すごーい!!!」


 キニップは生まれて初めて雪を見ている。

その声はモアの所に届いた。


「雪積もっているネ。そういえば私が去年まで

暮らしてた所じゃ雪は全然降って無かったネ。」

「え?何?この白いのはゆきっていうの!?」

「雨が柔らかく凍ったっていえば

説明出来るかしラ……憶測ダケド」

「でも外はいつもよりもっと寒い……

ちょっと窓開けただけでピューピューするよ」

「あっそういえばワタシ達ここに来てからも

冬服みたいなものを全然持ってなかったネ。

そういえばこの村には雑貨屋があったよネ。

そこに行けば良さげな物が見つかるかもだヨ」

「えーと、まずは温かいご飯が食べたーい!」


 キニップとモアは温めたコーンスープを飲み

今持ってる中で一番暖かい服を着て

外に出た所で蒼穹達と合理した。


「あっ、キニィちゃん!」

「ソウくん……雑貨屋に連れて行って……!」

「キニップもモアもそれじゃあ雪の日は

大変そうね。すぐ案内するわ。」

「ドウカ、よろしくお願いしまス……」


 キニップとモアは蒼穹と翡翠に案内され

この村唯一の雑貨店にやって来たのであった。


「いらっしゃい……ってなんかゾロゾロ

入ってきたな」

「おはよう翔多。今日はキニップちゃんと

モアさんの服を探しに来たの」

「冬服なら、こっちにあるよ」

「ありがとう!」

「翔多さん、今日も仕事熱心ネ」


 翔多はこの雑貨屋で働いて5年以上経つ。

一方でガンツは薄着のままベリーニ号に乗り

都会でサンドイッチを売っていた。


 キニップが服を選び試着室から出ると

すぐそこには蒼穹と翡翠が待っていた。


「どうかな、ソウくん……」


 キニップは桃色のコートを纏い

茶色のレギンスを穿いて

紫の長靴を履いていた。

手には桃色の手袋もしている。


「似合ってるよ、キニィちゃん」

「あなたらしくて、素敵よ」

「ソウくん!翡翠せんせぇ!ありがとう!」

「ワタシも選んだわヨ。今度来た時には

ガンツの服も買ってあげないとネ」


 モアは黒のロングコートを着ていた。

そして着衣のまま二人分の会計を

済ませたのである。


「ありがとうございました!

うちの蒼穹と翡翠をよろしくな」

「ハーイ!お仕事頑張ってネ、翔多君!」


 暖かい服装で外に出た蒼穹とキニップは

雪景色の仔山村を見つめている。


「真っ白な景色がどこまでも広がってるね。

ソウくんの住む所は寒い時はこうなるの?」

「たまに雪が積もらない年もあるけどね。

キニィちゃんといると、この景色も何だか

初めて見たような気がするよ」

「もしソウくんがいなかったらこの日が

怖くなってたかもしれないよ」

「僕も初めて雪を見た時は怖かった。けど

お母さんが雪だるまを作ってくれたから

雪が好きになったんだ」

「雪だるまって?」

「雪で作るだるまさんだよ」

「私も見てみたいな」


 お互いの手袋の上から温もりを分かち合う

蒼穹とキニップ。友達と共に過ごす雪の日は

特別な気持ちになるのは彼らも同じである。


 そこに翡翠が来て二人に提案する。


「これぐらい雪が積もっているなら

かまくらが作れそうね」

「かま……くら……?」

「雪で作るおうちみたいなものだよ」

「雪でおうちが出来るの!?すごーい!!!」

「それじゃあ、まずは一箇所に雪を沢山

集めてちょうだいね」


 翡翠の指示に従い、スコップで雪を集める

蒼穹とキニップ。モアも関心して見ている。

雪は蒼穹の家の空いているスペースに運ばれ

どんどん山積みになっていく。


「これぐらい溜まったら、スコップで

穴を掘って中に入れるようにしてちょうだい」

「キニィちゃん、どこから入りたい?」

「ここから入れば良い景色が

見れる気がするよ!」


 キニップは直感的にスコップで雪山に

穴を開けてどんどん掘り進む。


「あっ!スコップが外に出ちゃった!」

「大丈夫だよ。すぐにその穴を埋めてあげる。

あと掻き出した雪で雪だるまも作るからね」


 協力してかまくらを作る二人を見つめながら

翡翠とモアは語り合う。


「出会ってまだ半年なのにここまで仲良く

遊べる関係になって」

「ワタシもキニップに友達が出来るなんて

九割ほど信じられなかったヨ」

「これから普通に学校に通えるようになって

沢山友達を作ってさらに世界を広げたら

どんなに素晴らしい事でしょうね」

「翡翠さんとワタシも素敵な友達デショ!」

「それもそうね。感謝するわよ、モアさん」


 こうして二人の手でかまくらが完成した。

入口には蒼穹の作った雪だるまもいる。


「わあっ!可愛い!」

「この顔を見ると、初めて雪が好きになった

日を思い出すんだよ」

「それじゃあ、中に入ってみようよ!」


かまくらの中に入った蒼穹とキニップは

疲れながらも満足感のある笑顔を見せている。


「意外と風が入ってこなくて気持ちいいね」

「私の家、ちょっと窓を開けたら

寒い空気がピューピュー入ってくるのに

何だか寒くないね」

「二人で頑張って作ったから身体が

暖まったんじゃないかな」

「そうなんだ。でも本当に雪でおうちが

出来ちゃうなんてすごーい!たのしーい!」


 入り口から翡翠が顔を見せる。その手には

蜜柑が2個握られていた。


「二人共お疲れ様。美味しい蜜柑食べる?」

「うん」

「食べたーい!」


 かまくらの中で蜜柑を頬張る二人を

翡翠とモアはスマホで写真を撮っていた。

この共同作業を通して二人の仲は

さらに強まった気がするのである。


「蜜柑美味しいね!」

「しばらくは、雪で色々な遊びが出来るよ」

「明日も沢山雪が降るといいな!」

「みんなが外に出られる程度にね……」


   * * * * * * *


 以上が、キニップが過ごした

初めての雪の日の出来事だったんだ。

予定が合えば私もその様子を

直接見れたかもしれないが、翡翠の撮った

写真が全てを物語っている気がするよ。


 さて、季節も春へと移り変わる。

春は出会いの季節でもある。

そういえば、蒼穹達の新しい友達の遠君には

もうすぐ新しい家族が出来るらしいね。

もしその子が……いや、さすがにそれは、いや

有り得ないとも言い切れないかな。


 私はしばらく、遠君の動向に注目してみる。

新しい家族が増える事で心境の変化が

訪れるかどうか。これは眼光症の有り無しに

関係無く私個人の気になる所なのでね。

君も見守ってくれると嬉しいな。


 では、また次回。


 第21話へ続く。

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