第14話

 人差し指が迷い猫のようにあちらこちらと移動している。これはウネが行動順序を精査している際の所作。彼女が本気でこの食い違い疑惑を晴らそうとしているらしい。


「……分かったよサイ。おそらく矛盾はないと思う」

「お……それ、僕にも分かるように説明とか出来たりする?」


 少々遠慮がちにサイはウネに訊く。

 そのウネはサイを直視したまま頷く。


「うん。まず私はヨコとメグの3人でここに居て、メグが先に校舎に向かったため離れ、しばらくしてヨコもフラを探しに行って、私1人のときがあるの。そこで私は校庭をぐるりしてた……そのときに体育館からプールに向かうサイを目撃。それを終えた後に校舎裏に行った……だから私の伝え方が良くなくて、経緯を省き過ぎたせいだね、これは。サイに落ち度は全く無い、ごめん」


 そう言うとウネは双眸を長々と閉ざす。

 末尾の言葉と同様、そこはかとない謝意が込められている。


「いや、多少の認識の違いは仕方ねえよ。僕もそうだけど、ヨコも、フラも、この学校での出来事をこんなに詰問されるとは思ってなかっただろうし……」

「うん……言い訳になるかもだけど、校庭を歩いて回っていたのだって大した意味も無かった。ぼんやりと別のことを考えてたくらい……これから先、どうしようかみたいな、漠然としたビジョンとかね」


 4人で体育館に集まって行動経路を述べたいった後には、大きな齟齬は一聞して無かった。けれどそれらはあくまで、各自視点の主観に基づいたものだ。説明不足な箇所や逆に盛り過ぎた箇所、曖昧な場面を適当に断言したり、不用意に補完したりも考えられるし……意図的に秘密にした部分もあるかもしれない。


「……今の話は、あとでヨコやフラに共有しても、問題なさそうか?」

「もちろん。私が伝え損ねてるだけだし。特別おかしなところもないよね?」

「多分な……でも、ウネが見た人影が一体誰だったのかっていう謎は残ったな」

「もしかしたらヨコかフラの場合もあるよね? ならなおさら2人にも言わないと」

「そうだな。みんなの行動をより深掘り出来るし、あと……いや、やっぱなんでもない」


 サイは自粛する。喋り出そうとしていた内容が、外部犯である確率も無きにしも非ずなこと、そしてメグの自殺未遂である線を変わらず追っていることだったからだ。

 体育館でメグの自殺かもしれない旨を仄めかしたところ、ウネの逆鱗に触れてしまった一件を思い出して、言葉を慎むために唇を結んだ。


「……サイは、随分と頭を働かせてるね?」

「え? そりゃあ事が事だからな。診療所では先生が頑張って懸命な治療を施してくれてる。その間に何か出来ないことはないかって。どうしてメグが、なんでああなっちまったのか、知らないままじゃ居られないし、納得だってしようがない。ウネは、違うのか?」

「……違わないよ。私も、よく分かってないからさ」


 自他どちらの殺意のせいであれ、メグの腹部に刃物が刺さる原因は必ずある。本来なら祈りを捧げるだけで、ただじっと待ち惚けるだけ。それでは友達なのに、どこか他人事で薄情な気がした。

 だからサイは、メグの身に起きてしまった惨劇と、未然に防げなかった悔いが残る。ならばせめて真相とまではいかずとも、メグの心理に近付きたいと固く決意する。

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