第3話 偽の世界

ここでなぜ父の名前が出てくるのか。

なぜこいつが父の名を知っているのか。

様々な疑問が浮かんできたが、次の言葉で大体のことが解決した。

「あなたの父:孝明はCode開発の関係者よ。あなたも知っているでしょう?」


父がIT関連の技術者ということまでは知っていたが「Code」の開発に関わっていたというのは初耳であった。

こいつが父の名前を知っている理由はまだ分からないが、開発時に関わったとかそんなところだろう。


「その反応だと、初めて知った感じに見えるわね。まあ、聞きたいことがたくさんあるでしょうけど、色々片付けてからにしましょうか。」

リーパーは魔物たちの方を見ながらそう言った。


「片付けるって言ったって、か弱い乙女にどうしろと…」

特に格闘技なども習っていない平凡な17歳女子には不可能と言っていいほどの難題だった。


不安そうな顔をしていた私に、リーパーは落ち着いた表情でこう言った。

「翠。あなたのCodeは"特別製"よ。あんな奴ら相手にもならないわ。」

「私を信じて。」と。


その瞬間、全身に何かに包み込むような感覚に襲われ、

気が付くとリーパーが目の前から消え去っていた。


目が覚めた時のような感覚に近かったため、

長い夢から覚めたと思ったのだが、どうやら違うようだ。

服装が明らかにおかしい・・・

「黒と赤の古びたローブに大鎌?まるで死神じゃん!」

コスプレは嫌いじゃないから別にいいけどっ。


「これがあなたの力。そしてCodeの解放よ。」

周りに姿は見えないが、突然リーパーの声が聞こえてきた。


「Codeの解放?よく分からないけど、とりあえずこの力であいつらを倒せばいいってことよね?」

見るからに命を刈り取るような形の大鎌だし。


リーパーは微笑みながらこう言った。

「物わかりのいい子は好きよ。私がサポートするから安心しなさいな。」

そう言い終わると、翠の体が突然動き始めた。

「えっ、ちょ、待ってなにこれえええええええええ」


翠の足が家のフロアがめくれ上がるような強さで地面を蹴ったと思えば、右手に持ってる鎌をチアリーダーが使うバトンのようにグルグル回しながら魔物たちを引き裂いていく。


これあれだよな。絶対そうだ。自動運転的なアレだ。

だって、私一切自分の意志で体動かしてないもん。

「サポートとはなんだったのだろうか…まるで魔物というゴミを掃除しているルンバだ。」


翠が不満をこぼしているとリーパーはこう言った。

「だってあなた、戦い方知らないでしょう?」

全くもっておっしゃる通りでぐうの音もでません。はい。


そんなこんなで、翠が不満を言っているうちにお掃除は完了していた。


「ル〇バ顔負けの完璧なお掃除ね!」

小馬鹿にしたような言い方に少しイラっとした翠だったが、他に聞きたいことがたくさんあったため、グッとこらえてこう言った。

「で?そもそもここはどこなの?あの魔物はなに?Codeの解放って?」


「あら、中々欲張りさんね。じゃあ一つずつ説明していこうかしら。まずは、この世界について説明するわ」

リーパーはそういうと目の前の空間を切り裂いた。

空間の裂け目からは生活音や車の走る音が聞こえてくる。

「あれは、元の世界?」


リーパーは微笑みながらこう言った。

「さすが翠ね。そう、あれが元の世界よ。あなたが暮らしていた正しい世界。」


「正しい世界?じゃあ今いる世界は正しくないってこと?」

世界に正しいも、正しくないもあるのだろうか。


リーパーは話を続ける。

「そうね。あっちが正しい世界であれば、今いるこの世界は正しくない、つまり偽の世界となるのだけれども、人が築き上げてきた世界という点では共通しているわ」

人が築き上げた?この世界は誰かの意思によって作られたものなのだろうか。


「Codeが人の記憶を忘れないようにバックアップしているということは翠も知っているでしょう?」


「もちろん知っている。むしろ知らない人のほうがいないんじゃないかしら。」

自身満々に翠は答える。


「じゃあ、その記憶はどこに保管されていると思う?」


そんなこと考えたこともなかったが、Code自体にバックアップ機能が存在しているのだからCode内に保管されていると考えるのが一般的だ。

「Codeが記憶をバックアップしているわけだからCodeの中に決まってるじゃない。」


リーパーは私の回答に笑いながらこう言った。

「Codeに記憶という膨大なデータを保存しておける容量があるわけないでしょう。人の見たもの聞いたもの、全てを保存するためには膨大な容量が必要なのよ?別に保存する場所がないと無理に決まっているでしょうに。」


たしかにリーパーの言っていることは正しい。そもそも冷静に考えればごく当たり前のことだ。音声データのみであれば容量は小さいため可能かもしれないが、見たものつまり映像としての記憶となると、音声データとは比較できないほど膨大なデータ量になるからだ。


「別の場所に保管されているってことは今の説明で納得できたけど、それとこの世界にどんな関係があるの?」

まだ、人々の記憶とこの世界の関係が理解できない。


リーパーは説明を続けた。

「人々の思い出や、気持ちなど人の記憶というものは強い力を持っているの。現代でも怨霊や呪いといった類の言葉が残っていることが証明しているようにね。その大きな力が一つの場所に集められたらどうなると思うかしら?」

翠はようやく理解ができた。"人々が築き上げた世界"という意味を。


「そう、この世界はCodeの記憶、つまり人々の記憶が作り上げた。"False World"と呼ばれる世界よ。」









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