ぼっちにラブコメはお似合いですか?

若吉たいら

第1話ぼっちとは

 ぼっちとは、社会から群れるという行為を半ば強制に強いられるのを跳ね除けて一人孤高に生きる勇者である。

 そして俺、白坂しらさか希桜斗きおとはその勇者の一人である。

 俺は横浜に住んでいる高校2年生だ。そして、今日もいつも通り妹に起こされていた。

「お兄ちゃーん!もう朝だよ、早く起きて!」

「うぅ……俺に朝は来なぃ……昨日そう念じておいたからな」

「なーにバカなこと言ってんの!まさか中学の時の厨二病再発したんじゃないよね!?」

「それはない。あのような醜態は二度と晒さないと心に決めているからな。」

 俺は中学の時に厨二病という不治の病を患っていた。厨二病は人によって異なり、俺の場合はアニメを元ネタに、闇の呪文を唱えたり、闇日記を書いたりしていた。

 しかし、ある日に突然とてつもない羞恥心に犯されて以降は厨二病は発症しなくなった。おそらくもう二度と厨二病にかかることはないだろう。

「じゃあ早く起きろ。」

「はい。今すぐ起きます。起きさせて頂きます」

「よろしい!じゃあ下で朝ごはん作って待ってるねー」

「……一日の始まりか」

身支度を終えて、下に降りた俺は妹の作った朝食を口にした。

 妹の名前はもも。中学3年生だ。桃は明るい性格で、桃の明るさ、元気さにはいつも力を貰っている。

 それにしても、桃の作った飯はめちゃくちゃ上手い。さすが俺の妹だ。

 うちは父親しかいなく、肝心のその父親は仕事で年中出張に行っているため、基本的には俺と桃の二人で暮らしている。家のことは桃が色々としてくれているため、桃には頭が上がらない。

「なーにニヤけてんのお兄ちゃん」

「いや、桃の作ったご飯が美味しくてつい頬が緩んでしまったんだよ」

「お兄ちゃん正直だねぇ。まぁ桃が作ったんだから美味しいに決まってるじゃありませんかぁー」

「はいはい。なんせウチの妹は外見も可愛くて料理ができる、おまけに優しいときました!世界に桃以上の妹がいるなら紹介してほしいものだな」

「相変わらずお兄ちゃんはシスコンだねぇ。うぅぅ…気持ちわる…」

「桃さん!?お兄ちゃんには桃さんしか居ないんだよ!そんなこと言わないでおくれ!」

「あ、そんなことよりお兄ちゃん、学校の帰りに洗剤買ってきておいてー。昨日切れちゃったんだよね」

「今日は放課後に友達とカラオケに行く約束があるから厳しいな」

「なーに言ってんのお兄ちゃん。お兄ちゃんにそんな友達いる訳ないでしょ」

「失礼な!お兄ちゃんだって友達の一人や二人いるさ!」

 今妹に初めて嘘をついた。いや、そう思いたいだけで、この同じ嘘を中学の時から既に数え切れないほどついている。本当はそんな友達はいない。

「はいはい。じゃあ洗剤よろしくねー。あ、それと、お隣に新しい住人が引っ越してきたらしいよ。また挨拶しないとだね。じゃあ桃、先に学校行くから」

「あぁ…行ってらっしゃい」

 桃は靴を履いて、ドアを勢いよく開けて出て行った。

 直後静まり返ったリビングにドアの閉まる音が聞こえた。

「俺も行くか」

 俺は家を出て、いつも通りの通学路を歩く。

 時期は夏に入っており、もう少しで7月になろうとしていた。

 高校に近づくにつれて同じ高校の連中の姿が多く見えるようになってきた。

 もちろん話しかけられることなどない。なぜならぼっちだからね。いや、訂正しよう。勇者だからね!

 そんなこんなで高校に着き、上履きに履き替えて教室に向かう。

 教室に着くなり、いつもと違う雰囲気を感じ取った。

 教室が妙にざわついている。何故だ?今日は何か特別な行事などがあるわけじゃないが…

 しかし、それはすぐに晴らされることになる。

「全員席に着けー。ホームルームを始めるぞ」

 そう言って教室に入ってきたのは担任の立花たちばなかおる先生。もう少しで30歳になるというのに独身で彼氏もいないアラサーだ。

 立花先生が来たことにより、全員が席に着いて朝のホームルームが始まる。

 諸々の連絡事項が終わった後に先生が思いがけないことを口にした。

「転校生を紹介する。入ってくれ」

 朝の妙なざわつきの正体はこれか。みんな転校生のことが気になり落ち着かなかったんだろう。

 いや待て、なんでそのことをクラスメイトたちは知っていて俺は知らないんだ?

 時刻は昨日に遡る。

 俺は昨日夜更かしをしたせいで眠気が取れず、朝のホームルーム中に寝落ちをかましてしまっていた。

 そういえばあの時……

「今日は大事な話がある」

 とかなんとか言ってたな。その大事な話っていうのはおそらくこの事だったのだろう。

 それにしても、その話を今になって知ることになるとは…。

 改めて、俺って……友達いないんだな。

そんなことはともかく、転校生が一体どんなやつか見てやろうじゃないか。

「失礼します」

 そう言うと、ドアがゆっくりと開かれた。

 そこに居たのは長い髪の少女。教壇まで歩き、こちら側を向いた。

「今日からお前たちと共にこの学校で学ぶことになる新しい仲間だ。自己紹介を頼めるか」

「はい」

 そう言うと一歩前に出て、自己紹介を始める。

天明屋あまみや星那せなです。よろしくお願いします」

「天明屋、お前は一番後ろの白坂の隣の席に座ってくれ」

 立花先生の案内で、俺の隣の席に座った天明屋はどことなく緊張しているのが伝わってくる。

 転校初日だ。これが当たり前と言っていいだろう。

「天明屋、何か分からないことがあれば隣の白坂に聞いてくれ。彼はいつも暇しているからな」

 おいおい嘘だろ。あの先生、面倒なことを全部俺に押し付けてきやがった。

「いや、ちょっと待って!」

「それではホームルームは以上。」

 俺の意思など関係ないと言わんばかりに立花先生はホームルームを終え、廊下に出ていった。

 俺はすぐに席を立ち、慌てて立花先生を追いかけた。

「ちょっと先生!」

「白坂か。どうかしたか」

「どうかしたかじゃないですよ!僕に面倒事押し付けましたね!」

「なーにを人聞きの悪いことを言っているんだ。私は君に友人を作るチャンスを与えてやったんじゃないか」

「余計なお世話ですよ!友達の一人や二人、自分で作れます」

「2年の7月にもなって、まともな友達一人もいない君が何を言っているだ」

 くっ……、事実の上、反論できずに言葉を詰まらす。

「まぁこれを機に交友関係を持てるよう善処することだな。もしかするとその先にまでも……、それはまだ君には早いか。とにかく!頑張りたまえよ!青春が君を待っている!」

 そう言い残し、立花先生は職員室に入っていった。

「青春ねぇ……」

 俺は中学時代のことを思い出していた。

 それは中1の時。隣の席になった女子に勇気を振り絞って話かけた時の話だ。

「よ…よろしくな…!」

「え……あ、よろしくね…。」

 返事が返ってきたことに手応えを感じた俺は、思い切って連絡先を聞いた。

「あのさ…!よかったら連絡先交換しないか!」

「え…、えーっと……私スマホ持ってないんだよね…」

 そういうことなら仕方ないと俺は潔く諦めた。

 その日の放課後、俺は教室に忘れ物をしてしまったのに気づき、教室に取りに戻った。

 教室のドアを開けようとすると、中から話声が聞こえてきた。

 そこには、俺との連絡先交換をスマホを持っていないと断った女子と同じクラスのサッカー部の男が楽しそうに話していた。

「ねぇねぇ、もしよかったらさ!私と連絡先…交換しない…?」

「おう!もちろんいいぜ!」

「ほんと!?嬉しい!!」

 そうか、スマホを持っていないというのは嘘だったのか。俺に連絡先を知られるのが嫌で嘘をついていたんだ…。

 そこで俺は思い知らせることになった。

 青春なんぞは、選ばれた人間にしかできない貴族の遊びのようなものなのだと。

 「俺はラブコメとは無縁の人間だな。」

そんな中学の出来事を思い出しつつ、俺は教室に戻ることにした。


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