第一部第一章 若き将星その三

「司令、敵軍が撤退していきます」

 参謀はモニターに映る敵軍が退いていく姿を見て言った。

「うむ、どうやら勝ったな」

 アジュラーンもそれは見ていた。満面に笑みを浮かべている。

「追いますか」

 参謀は問うた。

「いや」

 彼はそれに対して首を横に振った。

「これでカッサラ星系は我等のものになった。これ以上の戦闘は意味がないだろう」

「ですね」

 参謀はそれを聞いて頷いた。

「あとは政治の問題だ。外交部の連中に任せよう」

「はい。連中のお手並み拝見といきますか」

 オムダマーンの外交部は特に無能と評判があるわけではない。むしろ他国からは有能であると認識されている。

 しかし軍部との仲は悪かった。やり方が手ぬるい、腰抜けだというのだ。

「軍人はいつもそんなことを言う。あまり突出しては他国の恨みを買うだけだ」

 外交部の者はことあるごとにそう言う。彼等にしてみれば勢力均衡こそが一番の関心であり勝ち過ぎることはあまり喜ばしいことではないのである。

「確かにその通りだが」

 アジュラーンは外交部の高官達の言葉を脳裏に思い出しながら呟いた。

「そんなことを言っていたら何時まで経ってもこのままだぞ」

 彼はそう呟き顔を顰めた。彼はサハラが統一されエウロパの勢力を追い出すことを願っていたのだ。

  やがて停戦となり両国の外交官がこの星系に到着した。そして交渉が行なわれた。

 カッサラ星系はオムダマーン共和国の領土となった。この星系の権益も皆共和国のものとなった。

 サラーフ共和国の軍はこの地より撤退することとなった。賠償金は支払わずこの星系の割譲と近隣十光年の軍隊の立ち入りを禁止するという内容となった。

「とりあえずはこれでよし」

 交渉を終えたオムダマーンの外交官達はそう言ってカッサラ星系を後にした。

「今回は上手くまとめてくれたな」

 軍部はそれを見ていささか皮肉混じりに言った。

「我々とて遊んでいるわけではない。それに戦いに勝ったのだからこれ位は勝ち取らないとな」

 じゃあ賠償金も欲しかったな、といいたいところだがそれは出来ないのもわかっていた。サラーフはこの地域で最も勢力の大きい国であるサハラ全体でも三強に入るのである。

「まああのサラーフ相手に勝てたからよしとするか」

 軍部はそれで満足することにした。

「それに結構危ないところだったしな。一時は撤退すら考えていたそうじゃないか」

 軍の上層部は軍務部の会議室でこの戦いについての検証を行なっていた。

「そのようだな。不意打ちに遭い一時は劣勢に追い込まれている」

 高級参謀の一人がパンフレット状にまとめられた資料に目を通しながら言った。

「だが一隻の巡洋艦の活躍で我が軍の戦局は一変した」

「アタチュルクだ」

 それを聞いた提督の一人が言った。

「そうだ。アクバル=アッディーン中佐が艦長を務めているあの艦だ」

 参謀はそれに対して言った。

「アッディーンか。またやったのか」

「ああ。しかも今度は戦局を一変させた。それも僅か一隻で」

「戦法も見事だな。血気にはやる敵軍の前に来て総攻撃を仕掛けて止めるとは」

 別の提督が資料を読みながら言った。

「そうだな。そうそう出来るものではない」

 参謀の一人が言った。

「アジュラーン司令は何と言っている」

「かなり評価しているようだ」

「・・・・・・そうか」

 彼等はそれを聞いて何か意を決したようだ。

「これからは彼には思う存分働いてもらうか」

「そうだな。サハラの大義の為に」

 現在の軍上層部は強硬派の牙城と言われている。彼等はサハラ統一を掲げており民衆からも人気は高い。

「それでは彼を大佐にするとしよう」

「このままいくとすぐに将官になるだろうな」

「そうだな。そうなった時が楽しみだ」

 彼等はそう言って会議を終えた。この会議でアクバル=アッディーンの大佐への昇格及びカッサラ星系での大規模な軍事基地の建設が決定された。

 カッサラ星系への軍事基地建設は議会も承認した。それにより一個艦隊がこの星系に駐留することとなった。

「流石に軍部の人気は議会も無視出来ないか」

 アッディーンはこの星系に駐留する艦隊に配属されることとなった。今度は戦艦の艦長である。

「今度は戦艦か。それにしても大きい艦だな」

 彼は港にある今から自分が乗る艦を見て言った。

「それはそうですよ。特にこの艦は最新鋭の大型艦ですからね」

 傍らにいるガルシャースプが言った。

「最新鋭か。そういえばまだ綺麗なのものだな」

 彼は艦を見て言った。

「この艦はこれまでの艦とは違いますよ。何しろ我が国の技術の粋を結集させたものですから」

「それはいいな。今までの艦は少し設計思想が古いんじゃないかと思っていたところだ」

 二人は艦に続く桟橋を登りながら話している。

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