第37話 職業選択の自由

「さて、二人とも落ち着いたか?」


「あっ……はい」


「ふー、お腹いっぱい」


 〆の雑炊とパフェまで食べて幸せそうな顔になっている二人と、そろそろ今後の話をしよう。

 なお鈴鹿はまだのんびりパフェを食べている。


「まずはこの後はどうする?」


「えっ、あっ……」


 突然真っ赤になる紅葉。


「あうーーーー」


「あー、紅葉ちゃん暴走してる」


「暴走?」


「多分、変なこと想像してんだと思うヨ」


「変なことねぇ。将来の話をしようと思っているだけなんだが」


 ますます真っ赤になって、頭から湯気を上げてテーブルに突っ伏す紅葉。


「おーい、紅葉ちゃーーーん、帰ってこーーい」


 史織がパタパタ扇ぐが完全に暴走状態らしい。


「まあ話が進まないので、説明するぞ。二人ともレベルが5になって、初級職の幾つかが選択可能になった」


「ほへ?」


 紅葉が顔を上げる。


「あ、あの、この後とか将来とかって……」


「何の話だと思っているのか知らんが、迷宮職の話だ」


「あうううーーーー」


 また赤くなって突っ伏した。

 史織が苦笑して、話を促してくる。


「ほっといて先を進めよ?」


「そうだな、二人とも戦士ファイター闘士ウォリアー狩人ハンター盗賊シーフが選択可能になっている」


「ちょ、ちょっと待って。さっきレベル5って言った?」


「ああ、君たちはレベルが上がりやすいらしい。さっきちょっと潜っただけで、こんなにレベルが上がっているとは実に羨ましい」


「あの、本当は聞いちゃいけないんだろうけど、二人のレベルって幾つ?」


「ゼロだ」


「じゃぞ」


「うっそーー、あんなに強いのに?」


「嘘じゃないぞ。そして紅葉が僧兵モンク、君が槍兵スピアーを選択可能だ。これは二人ともが使っていた武器のせいだろう」


 基本職は一通り迷宮手帳に書いてあるので、ページを見せながら説明する。

 ここに載っているのは、取得も簡単で派生先も多い一般的なのばかりで、武士もののふのような職は図書館で調べなければ分からない。 

 大部分の生徒は基本職の戦士ファイター魔法使いマジシャン僧侶モンク辺りを選ぶそうだ。

 

 戦士ファイターは、戦闘職の基本中の基本で、大抵の武器と防具を使えて攻撃力と防御力が上がりやすく、取得も簡単で派生先も多い。

 もっとも攻撃力とか言っても、生徒手帳にパラメータは表示されていないので、武器や防具を装備しての体感に過ぎないそうだが。

 その代わり、魔法や遠距離攻撃は苦手で、魔法抵抗も弱い。

 レベルを上げて物理で殴る典型職だ。


 闘士ウォリアーは、戦士の亜流で主に両手武器を使用するか、もしくは全く武器を使わないで戦う職業となる。

 成長すると、前者は重装甲で大型武器を使う重戦士、後者はほぼ武器防具無しの武闘家方向に派生するらしい。

 全く正反対の戦い方が同じ職と言うのも何か不思議な感じがする。


 狩人ハンターは軽武装中心で機動性も高く、近距離攻撃以外に多少の遠距離攻撃が可能となる。

 まあ、弓は武器屋では売ってないので、ほぼ軽戦士扱いだ。

 それでも、専門職の盗賊ほどではないが、ある程度罠を見つけたり、モンスターの気配察知などもできる。

 一時期はモンスターを狩るゲームの影響で志望する生徒が多かったらしいが、あんな超人的な活動ができるわけでないと知った上に、器用貧乏なので今一つ不人気だとか。


 盗賊シーフは、狩人以上に軽戦士で武器と防具の制限が非常に大きいが、その代わり器用と敏捷がウリとなっている。

 隠密や気配察知、罠外しや鍵開けが得意となり、将来的には暗殺者アサシンや忍者にもなれるらしい。

 特に忍者は侍と並んで大人気だが、別に脱げば脱ぐほど強くなるわけじゃないし、カラテも駆使しない、イイネ?


 紅葉の僧兵モンクは、メイスを使っていたからだろうが、殴打系武器に特化した戦士だ。

 別に刃の付いた武器が使えないわけじゃないが、スキルが乗るのは殴打系の武器だけで、他に大抵の防具も使用可能、更にはちょっとした魔法も覚える。

 本職の僧侶クレリックに比べると劣るが、回復や治癒、状態異常の解除魔法が使えて、スケルトンや亡霊系特攻スキルがあるのは初級迷宮では役立ちそうだ。


 槍兵スピアーは、槍などの長柄武器特化の戦士で、複数目標攻撃や行動阻止関係スキルを使えて、将来的には騎乗スキルを覚えて騎士になる可能性もある。

 複数の槍兵スピアーがいれば、この間スケルトンがやっていたように戦列ファランクスを組んで攻防一体の鉄壁陣を作るのも可能だそうだが、迷宮だと使い勝手が悪い。


「他にはどんな職業があるんですか?」


 あ、紅葉が復活した。

 ようやく落ち着いたのか、むっくり起き上がって質問してきた。


「職は非常に多くて、全ては学院でも網羅していないそうだが、基本職は他に剣士ソードマン射手アーチャー、魔法使い《マジシャン》、僧侶クレリック商人マーチャント吟遊詩人バード職人ワーカー辺りがある」


「基本職?」


「ああ、割と取得条件が簡単で派生先が多い職だな。剣士から上位の侍や武将、騎士になったり、槍兵から騎士になったりするそうだ」


「騎士が被ってますが」


「これは派生してそうなったのか、経験を積むうちに上級職の取得条件を満たしたのかは研究中らしい」


 取得条件は解明されていても、その原理は研究中となっている。

 昔はもっと基本職も少なくて、戦士、魔法使い、僧侶、盗賊程度と非常にシンプルだったそうだが、ゲームなどの影響か、徐々に増えて行ったらしい。

 このことからも、迷宮は入る人間の認識を読み取ってそれによって変化、成長しているのではないかとの仮説が唱えられている。

 その読み取っているのが迷宮自体なのか、それともダンジョンマスターのような存在がいるのかは未だに解明されていない謎だ。

 迷宮自体が生き物だという説もあるし、量子論的存在との説もある。

 まあ自分的には迷宮の謎はどうでもいい。

 鈴鹿との約束を果たすために利用するだけだ。


 手帳を閉じると、二人に向かい直る。


「さて、ここで二人に聞きたい。君たちは何になりたい?」

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