第28話 オーク討伐完了

 紅葉も史織も硬直して動けなくなっている。


「ふむ、どうやらあの声には束縛バインド効果があるようじゃの」


「どうする?」


「まあ、これで何とかなるじゃろ」


 鈴鹿が袖口からハリセンを取り出すと、ペシーンと二人をひっぱたいた。


「あうー痛いですーーー」


「な、なによ、今の」


「オークじゃよ、二人とも声でひるんでおったようじゃ」


 腰に巻いた毛皮のデザインが多少違うようだが、後は戦斧を持っているのも含めて前に倒したのとほとんど変わらない。

 間違い探しレベルの違いだな。


 思わずふふっと笑みがこぼれたのが気に障ったのか、怒って突っ込んでくるのまで全く同じなので、数歩前に出て、ハルバードをしまうと腰の刀に手を掛ける。


 緑の巨体を見て二人とも目を丸くしている。


「うわあ、マジファンタジーじゃん」


「あの……ほんとに、あんなのと戦うんですか?」


 そんなに心配しなくたって、しょせん雑魚だって。

 少し安心させておこう。


「あー、大丈夫大丈夫、直ぐに無力化するから」


「「アッ、ハイ」」


 歯を見せて笑みを見せ、親指を立てて首を搔き切るポーズをしたのがちょっとわざとらしかったのか、二人とも引きつっている。

 うーむ、今一つコミュニケーション能力には自信が無い。


 さっさと片付けよう。

 無造作にオークの間合いへと踏み込んでいく。

 

 目の前で風切り音を立てて戦斧を振り下ろしてきたので、素早く刀を抜いた勢いのままオークの右側に抜けて振り抜き、左手首を切る。

 くるりと体を回し、残った右の手首を切り飛ばすと、轟音と共に戦斧が握った手首ごと、目の前に落ちて来た。

 激昂げきこうしたオークが振り返ろうとするが、両足首の腱を斬ると膝をついた。

 目の前にある背中を蹴り飛ばし、うつ伏せになったオークを踏み付けると蛙を潰したような声がした。

 

 そういや、初級迷宮の蛙ウザかったなあ。

 さっさとあの虫階抜けて下に降りないと。

 

 まだビクビク動いているオークの腰を強く踏み付けると、汚い声と共に動かなくなった。


「……なんかヒュっとしてシュパってしたら、もうオークが倒れたんですけど」


「チョー速かったけど、やっても大丈夫?」


「うぬ、やるがよいぞ」


 鈴鹿に促されて、二人が恐る恐るオークに近寄って来る。


 手首が無い腕を二人に伸ばそうとするので、刀の峰で腕を殴ると動きが止まった。


 相手が大きくなったが、容赦なくガツガツと殴る紅葉。

 史織も腰が入った突きを繰り返し、教えていないのに上段から振りかぶって槍を勢いよく突き込んでいる。


 咆哮を上げようとしたところを、しゃがみこんだ鈴鹿が鼻先をマジカルメイスで殴りつける。

 頭に紅葉の追撃が入り、首筋に槍が突き立つ。


「なんか、紅葉ちゃんの方が威力ありそうだにゃー」


「そ、そうでしょうか……」


 二人とも息が切れてきた。

 紅葉は繰り返しメイスを上げ下げして、相当疲れたのか、額から滝のような汗が流れている。

 史織も同じように汗だくで、踏み込みの出足も悪くなってきたのか、その場で足が止めて突き刺している。


 これはもう少し手助けが必要かと思って、踵に力を入れる。

 ゴキっと鈍い音がして、足元で何かが折れたような感触の後、オークが絶叫した。


 その頭に紅葉のロングメイスが命中し、史織の槍が深々と突き刺さった。


「「あ」」


 直後、空気に溶け込むようにオークの巨体が消え去った。


「……やった、んですか?」


「……ああーーー疲れた~~」


 メイスを杖にして何とか立っている紅葉。

 その場に崩れるようにへたり込む史織。

 これで二人とも多少の迷宮力けいけんちを獲得しただろうか。

 レベルアップしてたらいいんだけど。


「ほら、水だ」


 ペットボトルを取り出して渡すと、むさぼるように飲み始めた。


「もう限界~~」


 汚れるのも気にせず、史織が床に大の字に寝転んだ。


「私もです……」


 紅葉もメイスにすがったまま、ずるずると座り込み、ペタリとお尻を床につける。

 二人とも汗が凄いので、タオルも渡しておく。


「どこから、ってのも聞いちゃダメなんですよね?」


「マジックバッグは結構迷宮で手に入るらしいぞ」


「えっ、マジ! アタシも欲しい!」


 寝っ転がっていた史織がガバっと上半身を起こす。


「このまま一緒に活動していたら、そのうち手に入るさ。その時考えよう」


「やったーーー!」


 バンザイしてそのまま倒れる史織。


「あのさ……これで終わり、だよ、ね?」


「これ以上は、もう無理です……」


 今ので元気を使い果たしたのか、消え入りそうな声が漏れてきた。


「安心しろ、後は帰るだけだ」


「えっ、まさかさっきの歩いて……」


 紅潮した顔のまま真っ青になる史織。

 器用だな。


「安心せい、こいつを持っておればすぐに帰れる」


 宝箱から攻略証を回収してきた鈴鹿が二人に渡している。


「何ですか、これは?」


「ここを踏破した証だそうじゃ。説明は後でぬし殿がするからとにかく今は大事に持っておれ」


 二人ともノロノロとした動きで攻略証をポケットにしまい込む。


「それとの、こんなのがあったぞ」


 くすんだ色の細いガラス瓶を見せる鈴鹿。  

 中には何か液体が入っているようだ。

 噂をすれば何とかで、これがポーションかもしれないが、今は調べようもない。


 紅葉も史織も目を閉じて動かない。

 これは本気で限界のようだから、さっさと出るか。

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