7 騎士は急ぐ
驚いて、
「カイル?!」
と振り向くと
カイルの端正な顔がすぐ近くにあった。
カイルも無意識のうちに私の手を掴んでしまったのか、自分でも驚いた顔ですぐその手を離してくれたが、振り向いた時に髪がひっかかっていたらしい。
思わずカイルの胸元あたりを手で引っ掻くように触ってたら、カイルがハッとしたように金の瞳をまん丸にして私の手を凝視している。
勇ましいことを言う割に、こんなことで体勢を崩し、ずいぶん情けない姫だと思われてるのかしら•••
「カイル?」
と問うと
「姫さま•••」
カイルの頬はうっすら赤くなっていて妙な色気があった。
そしてその透き通った瞳が心配そうに揺れ、そっと抑えた声で言う。
「これだけは守ってくれ。絶対に一人で無鉄砲な行動しないように。そして充分に注意してくれ。」
以前の私なら、同じことを言われても何とも思わなかっただろう。
でも今は、、
「ありがとう」
カイルの瞳を見つめてはっきりと口にする。
彼は
「分かってくれたならそれでいいです。」
と微笑んだ。
「信じてくれるの?」
と問うと
「姫さまはわがままだし、世間知らずだし、時々突拍子もないことするし、王女としてまだまだですが••••」
ああ、やっぱり以前のアーシャって、相当酷かったのね。
また落ち込みそうだわ。
「でも、嘘をついたことは、これまで一度もなかった。」
意外な言葉にカイルを見る。
カイルなりに褒めてくれたのかしら?
また、思考に逃げそうになっていたら、気づくとカイルが私をじっと見つめている。
「行こう、姫さま」
真剣な彼の眼差しに、自分を叱咤する。
そうだ。
私はこのままゲームのシナリオ通りにさせるわけにはいかない。
「ええ、行きましょう。」
外は雲一つない満月。
身を隠すには不利だ。慎重に行かなければ。
街は人々の夕食を支度する匂いや仕事から解放された人々のざわめきなど活気に溢れている。
カイルが突然、
「姫さま、こちらへ。」
と目線を道の先に向ける。
わが国の騎士だ。
石の色が変化したことにより、おそらく父上が
見回りの騎士の数を増やしたのだろう。
私たちは迂回して他の道を通る。
先ほどの騎士は背中を向けていたから、多分見られてはいないはず!
でも、油断はできない。
雑踏の中、音もかき消されていて欲しいけれど、何らかの気配を感じこちらに向かってくるかもしれない。
急がなければ!
さらに走ること数刻後、ゲームでよく見た酒場が見えてきた。
看板は掠れているが、店の中からは、客で繁盛しているのか、男たちの笑い声とともに昔流行ったような音楽も聞こえてくる。
肉の美味しそうな匂いも漂ってきて、
そういえば昨日からまともに食事してないわ
などと急に空腹も襲ってきた。
「少しの間、静かにしていてね。」
白とこげ茶の二頭の馬を裏の茂みの中に繋ぎ、私たちは店内の様子を伺う。
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