第33話 怪しすぎる 

「マイル、お前はこの妙な洞窟を探していたのか?」

「その通りよ。ここに来るのが今回の遺跡探索の目的だった」


 今まで未発見だったこの遺跡にこんな洞窟があることを知っていたって事か?

 正直この場で理解出来る様に説明してほしい所だな。


「一つ聞くがここから先に俺はついていって良いのか? 面倒事はごめんなんだが…」

「ついてきて、多分私の依頼人は文句は言わないから」


「…………分かった」

 まあついてこいと言うのならついていくけど。

 俺とマイルは洞窟を探索する、そして進みながら考えた。


 多分今回の遺跡探索をマイルが受けた理由はここに来るまでの邪魔な魔物を他の冒険者に処理させるのが目的だったんだろう、やっぱりコイツ碌でもない性格してるよな。


 本当にこんな奴について行って大丈夫なんだろうか? いざって時に身を守れる力のない俺は不安で仕方ないな。


 洞窟内はとても静かだ、そして魔物の気配も全くない。ゲームとかの経験で言うと、こう言う一本道で魔物がゼロってさ……。


 ボスのいる部屋に向かってる時なんだよな。

 考えると嫌な想像をしてしまった、俺は別の事を考える事にした。


「………あったわ」

「うっわぁ…」


 洞窟を歩いて先にはやたらと重厚感のある黒くて大きな両開きの門があった。

 これ完全に中になんかあるヤツだろ、当然お宝とかじゃなくてもっと碌でもないのがさ。


「俺、こんなかには入りたくないぞ」

「………それは困るわね」

「は?」


「私が受けた依頼はね。アンタを依頼人の元まで連れて来る事だから」

「!」


 大きな門が勝手にバンッと開いた。

 それと同時にマイルが腰の剣を抜き、俺に斬り掛かって来た。


 俺は部屋の中に転がり込んで攻撃を回避する。

 あっ! 棒落としちまったクソッ!

「ちっ! マジかお前……!」


 このクソ赤髪、マジで何のつもりだ!?

 一度は助けられたとはいえ、ここまで舐めた真似をされれば流石の俺もキレるぞ。


 アイテム作成ツールの鞄に手を突っ込んで青い丸薬を手に取る。

 俺はマイルと対峙した。


 マイルは無言で接近してくる、情けないが俺にはマイルに勝てる可能性ない。この丸薬でヤツの視界と鼻を潰して逃げる事に全力を注ぐしかない。


 無論、チャンスがあれば尻でも蹴っ飛ばしてやる。

 人を良いように使おうとする人間も搾取する人間も利用しようとする人間も、全て等しくくたばれと常日頃かは思っている俺の一撃を食らわせてやっぞこらっ!


 鞄から調合用の小刀を出してマイルを牽制するが無視して突っ込んで来た。

 当たり前か、俺が雑魚な事をコイツはよく知っているからな。


 お互いの獲物がぶつかりカンカンっと音をたてる、防ぐのが精一杯だ。

 マイルの剣の方がリーチがあるし、何より俺の武器以下の小刀と違って向こうは普通に武器だ。


 まるで勝てる気がしない、そして体術的なのも使えるマイルは俺に足払いを仕掛けてきた。

 すっころぶ俺、手にした小刀も剣で弾かれて飛ばされる。


 まっマジで手も足も出ねぇ……。

 正直男と女だしもう少し何とかなると思っていたのに、本当にこの世界は俺に優しくないよな。


 「無駄な抵抗を何でするの? 私、無駄って嫌いなんだけど…」

「フンッ何でもかんでも自分の思った通りになると思うなよ………この偽物野郎が」


「……………」

 マイル…に化けた何者かはニヤリと笑った。

 普通に考えれば分かる、コイツが本当にマイルなら剣なんて使う必要もなく俺を倒せる。


 あのクマの太い首を簡単にチョンパ出来る風魔法、と言うかグリフォンを出されたら俺には降参しかないんだからな。思えばコイツがやたらと魔物との戦闘を避けていたのは戦闘スタイルの違いを俺に悟らせないようにするためだったのかも知れない。


 まあ何日も行動を共にしてまるで気付かなかった俺も間抜けだって話なんだけどな。

「せめてコイツで苦しめてやる……」


 俺は青い激くさ丸薬に火をつけようとした。


「まっ待ちなさい!」

「あ?」

「そんな臭い物をここで使うとか正気!?」


「正気に決まってるだろ、お前みたいな偽物にやられるくらいならコイツでせめて地獄を見せてやるからな! 死ねぇーーーーーーーーッ!」


 俺はやぶれかぶれになった。

 しかしそこに別の声の主が止めに入る。

「やっやめんか馬鹿者! 今すぐその危険物を捨てるのじゃーーーーーーーーー!」


 声のした方を見る、そこにはやたらと露出度の高い白い衣装を着たスタイル抜群の美女がいた。

 肌は褐色で髪は腰まであるアッシュブロンド、そして赤い瞳をしている。更に頭には二本のねじれた角を生やしている、完全に人間じゃないなあれは。


「おっおまえは何者だ!」

「フッフッフッようやくわれに気がついたたか?流石に暗いとは言え全く気がつかないからわざとかと思ったぞ?」


「すまん、完全にこっちの偽マイルに集中していた」

「偽マイル!?」


 何やら文句がありそうだが攻撃する手は止めている偽マイル、つまりコイツが俺をここまで来させた理由なんだな?


「改めて名乗ろう、我の名はエルゾア。かつては様々な呼び名で呼びれし偉大なる存在じゃ」

「偉大なる…………存在!」


 まさかこんなシャバイカスみたいな遺跡で異世界のテンプレの一つ『なんかやたらと凄そうなヤツ』が現れるとは!


「そうじゃ! 凄いじゃろう凄いじゃろう? もっとも~~と敬っても構わんぞ~?」


「……まあ、ブタ小屋に閉じ込められて手足を鎖で繋がれるヤツが偉そうにしても本当に凄いヤツなのか疑わしいけどな」


 そうっ檻に閉じ込められてるんだよコイツ、なんか封印とかされてるのか?

 後なんか物凄いぶーぶー言い出してきた。

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