最終話 夢の中へ

 手を伸ばせば炎に触ってしまうという所にまで俺は2人を呼び出した。


「急にごめん2人とも」


「……何の用? 双葉と今食べ歩きしてたんだけど」


 俺は何も言わずにただ儀式人形を双葉の胸元に近づけた。

 すると、ピタピタと雫が目の前であふれ始め、30秒もしないうちに水は赤黒く変色し、滝のように手からあふれ出た。


「――――っ!」


「3組に混ざった死者は……だ」


「そんなわけないじゃない! 双葉は私とずっと一緒にいたのよ!? 産まれた時からずっと!!」


 若葉が大きな声をあげる。


「この儀式人形は女子に反応を示して、塩水を流すんだ。けど……双葉の時だけ……塩水じゃない。まるで血と砂が混じったような色だ……」


「…………」


「…………」


「知ってたんだろ? 若葉」


 若葉は唇を強く嚙んで、真っ直ぐな涙を流していた。


「ショッピングに行った帰り、この人形はバスの中で塩水を流していたんだ。それは2人とも生きていたという意味……だ。けど……今はそうじゃない。2年3組の厄災の犠牲者は合計でだった」


 残酷な役は他の優しすぎるみんなにはきっとできない。俺がやると決めた以上、俺が最後まで説明する必要がある。

 ――覚悟を決めた。


「幽夏さん、中村くん、委員長、副委員長。そして……若葉さん。中村くんが死んだ後、ショッピングに行った後、に……だ」


「噓よ! あんた聞いたんでしょ? 若葉から。幼い頃にお母さんが死んで……その日から幸せを掴もうって2人で生きてきたのよ! デザイナーになるって夢もまだ……! ……そんなのあまりにも残酷すぎるじゃない!」


「…………」


「……お姉ちゃん。の。あのショッピングに行った後……次の日だったかな……。委員長とひばりちゃんとあんなに仲が良かったのに……葬式の夜。全く涙が出なかったの。……私、」


 双葉はそう消えそうな声で呟いた。


「お姉ちゃんその時、気づいてたんでしょ。あの葬式の夜からお姉ちゃんずっとクラスのことなんて無視して私と遊ぼう遊ぼうって言ってきて……今日もずっと……ずっと……」


「……双葉!!」


 若葉が双葉に泣きながら抱きつく。


「……やだよぉ……私一人なんて……双葉ぁ」


「彼方くん、ありがとう。最後に私たちに学園祭をプレゼントしてくれたんでしょ? 彼方くんが気づいてくれなかったら、私……大切なみんなを……もっと、無くしちゃうところだったよ」


「……ごめん、俺。気づいた時……これくらいのことしかできないって思って……」


 火の粉が双葉の手や頭を溶かし始めていた。溶けた手は砂のようにサラサラと炎の中へと消えていくのが見えた。


「……私、もう行かなきゃ。お姉ちゃん」


「やだやだやだ!! そうだ! 2人で学校辞めれば厄災は止まるし、これからもずっと!! ね? まだ……何もかも途中で終わっちゃん……だよ?」


「……私の夢はお姉ちゃんの幸せでもあるから、まだ終わってないよ。お母さんにお姉ちゃんと頑張ってきたことちゃんと話すよ……! バイバイ……お姉ちゃん」


「―――――っ!」



 瞬きをした瞬間、双葉は炎の中に消えてしまっていた。

 


「若葉……ソレ……は」

「これ……お揃いだった……ミサンガだ」


 そのミサンガはまるで――。

 双葉の想いが若葉に託されたかのように、腕に強く結ばれていた。




「ありがとう……双葉」






 

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