第14話 夜と凪沙➀

 放課後――。


「彼方、この後道場に来てよ。場所が分からなかったら夜聞いて。彼女も来るだろうから」

「は、はい」


 前にいきなり案内された旧音楽室がふと思い出される。

 今度は普通に部活動の場所のようだが、何か個人的な話でもあるのだろうか。


 放課後。俺は言われた通りに守屋夜さんを誘って、道場に向かっていた。


「今日は剣道部の勧誘、かな?」

「なんもきいてないから知らなーい。でも凪沙は滅多に男の子を誘うような性格じゃないんだよ? もしかしたら告白かもね~~!」

「……そんなふうに見えなかったけど」

「……凪沙もそろそろ忘れちゃってもいいのに」

「ん? 忘れる?」

「……」


 道場に着くと、剣持さんは1人で素振りを始めていた。足を大きく捌き、素早く振り下ろすの繰り返しだが、1つ1つの動作に無駄がなく、美しい。

 「ポンポン」と後ろから肩を守屋さんに叩かれ、小声で外から少し見ていようと言われた。


「自主稽古中? 他の部員はまだ来てないの?」

「ううん。みんな2年3組には近づかないようにしてるんだよ。凪沙だけじゃない、美和くんは自分から近づかないために河川敷のバスケットコート使ってるし、早瀬さんもみんなのいる校庭じゃなくて裏山での自主練に切り替えてる」

「……そうなのか」

「今まだお面を付けてないから見えるけどさ。凪沙って実は結構可愛いでしょ?」

「へ?!」


 思わず大きな声が出てしまった。

 剣持さんの方を見て、気づかれていないことに一安心し、どういうことだという顔を守屋さんに向けた。 


「一に稽古、二に稽古みたいなイメージでしょ今?」

「まぁ、剣道好きなんだなって……あと委員長とはまた違った行動で慕われるリーダーだなって思ってるよ」

「昔はね、普通に可愛い女の子だったんだよ、凪沙」

「そうなのか? 実力的にも幼い頃から剣道やってたんじゃないのか?」

「中学からだよ。あんなことがなければ剣道なんて無縁だったはず……なの……に」

「あっ、剣持さん今休憩してるよ! 入ろう!」


 …………。


 剣持さんの基礎稽古が終わったのを見計らって、今来たような素振りを見せながら道場に一礼して中に入った。


「彼方、夜は一緒じゃないのか?」

「さっきまで一緒だったんだけど……なんか用事があって部室の方に行ったみたい。先に行っててって言われて……」

「夜に何か言ったのか?」

「何も言ってないよ。けど、剣持さんが本当は剣道なんて無縁だったとかなんとかって、」

「……っ!」

「俺、ちょっと見てくるよ!」

「待て!」


 話から察することはできた。

 俺の知らない、二人の過去。それも、おそらく目を背けたいような出来事があったに違いない。それを守屋さんは勇気を振り絞って俺に話そうとしてくれたんだ。


 それを、俺はさっき遮ってしまったんだ……。


「守屋! さっきはごm、わっ!?」

「……へ?」

「ごごめん!! 着替えてるなんて思わなくて!」


 部室を開けた瞬間に空手着を今にも羽織ろうとしていた守屋の姿が見え、俺は急いでドアを閉めた。


「……見た?」

「……見てない」

「ソレ絶対見た反応!」

「てか、何で体操着の上から着ないんだよ!」

「胸の包帯がズレちゃったから巻きなおしてたの!!」

「……怪我してたのか? その……、」

「大丈夫! 血とか出てるわけじゃないから……。傷跡が擦れないようにしてるだけ……昔の」

 

 その直後に駆け寄ってきた剣持さんに頭を持っていた竹刀でコツンと叩かれた。


「馬鹿者。部室を勝手に開けるな」

「ごめんなさい」


 考えなしに突っ走るのはもうやめようと思った瞬間だった。


「それと夜も……彼方に着替えてくると言えば良かったろうに」

「……うん」


 …………。


「……何かさ。昔にあったんでしょ? 教えてよ」


 俺はこのタイミングで先ほど気になっていたことを切り出した。



「さっきも言おうとしたんだけどね。その……」


 俺は再び道場に戻って話を聞くことにした。

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