第14話

「さあ、皆さん。食事は終わりましたか? それでは今夜から使う皆さんの部屋を書いた紙を配ります。受け取ったら各自、自分の部屋を確認してください」

 アラン先生はそう言うと、食堂の端からプリントを配り始めた。

「Aクラスが一階、Bクラスが二階なのか」

 ベンジャミンが受け取ったプリントを見て言った。

「そうだね。あ、僕と君は同じ部屋みたい」

 カノンがベンジャミンに言った。

「本当だ! あらためて、よろしく!」

 ベンジャミンがカノンに微笑んだ。

「うん、僕こそよろしく」


 カノンとベンジャミンの会話に、アデルが加わった。

「私はちょっと離れた部屋ね。女子と男子はちょっと違う場所なのね」

 アデルがさみしそうに言った。

「私の同室は……サリー・ミラスさん? うーんと……」

「はい! アデル? 私のこと呼んだ?」

 少し離れた席から、ダークブラウンの髪をみつあみにした小柄な少女が笑顔で手をふっている。


「あ、あの……」

「同じ部屋だね! よろしく!」

 サリーは明るい声で言った。アデルはすこし緊張した面持ちでぎこちない笑顔を浮かべている。

「皆さん、食事の時間は終わりです。急いで部屋に入ってください。荷物はすでに運び込まれているはずです」

 アラン先生がみんなに声をかけると、生徒たちは食堂を出て寮のある棟に移動した。


 カノンとベンジャミンは自分の部屋につくと、深呼吸をしてから扉を開いた。

「わあ、意外と……いい感じじゃない?」

 ベンジャミンは部屋の中に進んだ。ちょっと古びた部屋の中をきょろきょろと見回した。

「そうだね。落ち着いた部屋だね」

 カノンは木製の二段ベッドと、二つの机と棚を見てにっこりとほほ笑んだ。

「そろそろ荷物を片付けようよ。ベンジャミンはどっちの机と棚を使う?」


 カノンは自分のカバンを広げながらベンジャミンに聞いた。

「そうだな、入口に近いほうを使ってもいいかな?」

「わかった。じゃあ、僕は入口から遠いほうを使わせてもらうね」

 カノンは広げた荷物を、自分の机と棚に片づけていった。

「俺も片づけようっと」

 ベンジャミンも自分の荷物を棚にしまい始めた。


 カノンは着替えてベッドに向かった。

「上のベッドと下のベッド、どっちにする?」

「今度はカノンが好きなほう選んでいいよ」

「……じゃあ、僕は下のベッドを使うよ」

「それじゃ、俺は上のベッドだな」

 ベンジャミンも着替えて、上のベッドに入った。


「明日のエリス先生の魔法の授業、楽しみだね」

 カノンが話しかけると、ベンジャミンは答えた。

「そうだな。調律魔法を見るのは初めてだし」

「……うん」

 カノンは自分以外の人間がつかう調律魔法のことを考えると、気持ちがそわそわとして落ち着かなかった。


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