第19話 行方を追って

 俺は姉ちゃんを探し回った。

 リーチ伯爵家のオープンにこれ以上関わるな! と姉ちゃんを強く引き留めるために。

 だが、姉ちゃんの姿は学園内のどこにもない。

 姉ちゃん、ついさっきロイヤルルームを飛び出したばかりだというのに……。

 俺は女子寮にも侵入して、姉ちゃんの部屋に押し入った。

 だが、そこもすでにもぬけの殻。


「……まさか本当にあの男の元に行っちまったのか?」


 俺は姉ちゃんの部屋で脱ぎ散らかされていた、アネットの制服を握り締めて呟く。

 くんくん。

 ……甘い香り……。

 まだ温かい。

 この制服の持ち主、つまり姉ちゃんはまだこの近くにいる……?

 そう遠くには行っていないはず……。


 俺の眼差しはもはや獲物を追い詰める狩人のそれだ。


 ぺろっ……この味は……!?

 この甘じょっぱさは、大量に発汗した証……これが姉ちゃんの味かぁ……すげえ恥ずかしがってるか緊張しているときの味だぜ……!


 これらはすべて姉ちゃんの行方を探るための行為……!

 俺はなにも非難されるようなことはしてねえ。


 この証拠物件から推察するに、姉ちゃん、あのプレゼントされたエロ服を着て、出かけたようだ。

 くそ! 俺がさっき見た白昼夢と同じように事態が進行してやがる……!

 ここで鼻の利く動物でもいれば、この制服を使って匂いを追わせることもできるだろうに……!

 いや、待てよ?

 もし、俺の見た白昼夢と同じなら……姉ちゃんは王都下町の歓楽街……その広場でオープンと待ち合わせしているはずだ……!


「あの、ジナン王子殿下……? このような女子寮に押し入るなどという無体は金輪際おやめいただきたく……ひぇっ!? な、なにをしておられますっ!?」


 女子寮の寮監が慇懃に、俺への抗議をしにきた。

 俺は姉ちゃんの制服を味わうのをやめ、口から出す。


「許せ。これも姉ちゃ……アネット殿を救うためなれば……!」

「お、王子といえど、さ、さすがにこれは……こ、この件は上に報告させていただきます」

「理解されずとも構わん、好きにするがいい!」


 俺はかっこよく言い捨てると、姉ちゃんの部屋から飛び出した。


  ◆


 姉ちゃんを目に見えている不幸から救うためだ。

 俺はなんだってやってやる。


 そう覚悟して、俺は王都の裏道を走る。

 その手には剣。

 いざとなったら……俺はこれを抜くことも厭わない……!


「おい、なんだあいつあぶねーな……」

「刃物持って走ってやがる……」


 道すがら、そんな声も聞こえてきた気がするが無視。

 そうしてようやく、歓楽街の広場へと辿り着いた。


 畜生、どこだったっけ!?

 俺は息を切らしながら、姉ちゃんとオープンの姿を探す。

 もしかして、姉ちゃんはもう変な店に連れ込まれた後なんじゃ……。

 俺は間に合わなかったんじゃないのか……?

 そんな不安に押しつぶされそうになりながら。


 ……いた……!

 間に合った!

 姉ちゃんとオープンがなにやらやり取りをしている。


「い、言われた通り、き、着てきた……けど……」

「言われた通り? 違うだろ!」


 オープンに服を剥ぎ取られる姉ちゃん。


「ぎゃあ!? 上着ぃ!?」

「誰がこんなもん上に着てこいなんて言ったぁ?」


 そして、オープンは姉ちゃんの肩を抱き、自分に引き寄せる。

 更に、へらへらしながら姉ちゃんの乳を揉むなどの悪行三昧……!

 姉ちゃんに凄むように言っている。


「大丈夫大丈夫、これからはなにがあっても俺がお前を守ってやるからよ」


 姉ちゃんの目が盛大に泳いで、震えているのが見てとれた。

 どうしようもなくなって助けを求めている時の、あれは姉ちゃんのいつもの仕草……!

 俺は2人の前に飛び出した。


「そこまでにしてもらおうか!」

「……タカアキ……!」


 姉ちゃんの表情がぱあっと明るくなった。

 が、すぐに自分の状況、オープンに乳をまさぐられてべたべたされているのを自覚したのか真っ赤になる。


「ち、違……これ、ち、違うからね!?」

「なにが違うんだ、ああ!?」

「いひぃ……」


 オープンが乱暴に姉ちゃんの乳房を揉みしだいたらしい。

 姉ちゃんが変な声をあげて身をよじり出す。


「止めろって言ってんだろ!」

「王子様こそわかんねえ奴だなあ? こいつはもう俺のオンナなんだよ。それを横からみっともねえ。すっこんでな」


 そう言って、オープンは姉ちゃんに促す。


「さあ、お前からも言ってやれよ? お前は俺のオンナだってなあ。俺の贈った服を着てきた時点で、お前はもう俺を受け入れたってことだもんなあ?」

「あ、あのっ、ん、んひ、そ、それっ、や、やめっ」

「我慢するなよ、声出していいんだぜえ?」

「おっ、おっ、さ、さわ、あっ、触らない、いひぃえ!」

「もうお前は俺のもんだ。俺の女として印を刻んでやる。まずは肩にでも俺の女を示すタトゥーを入れさせる。それから淫紋だ。俺好みのどんなメシでも受け入れる、ドスケベビッチに変えてやるぜ」

「なっ、なに? やっ、怖、い……」

「嬉しいだろうが!」

「ひ……ん……!」

「さあ、言えや! 俺のオンナになれて幸せだって、この王子様に向かってよぉ!」


 怒鳴り付けられて委縮した姉ちゃん。

 俺を見て、息も絶え絶えに呟く。


「……タカアキ、ごめんね……」

「姉ちゃん!?」

「……これまで素直になれなくて……大好きだよ……助けて……」


 もう十分だ。

 俺は剣を抜いた。

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