代表選抜戦 開会式

代表選抜戦当日を迎えた。

今月の末に開かれるヤマト皇国との交流会で行われる親善試合に出る代表者を選定するための闘技大会。

出場者は各学年から2名ずつ選ばれることになっている。場所はいつものコロシアム。大会はトーナメント形式となっており、決勝まで進んだ上位2名が代表の切符を手にすることができる。1年生の出場希望者数は45人。決勝まで勝ち進むためには4または5回勝利しなければならない。

代表選抜戦は2日間に分けて行われる。初日に1,2回戦を、それ以降を2日目に行う予定になっている。


この期間は授業は行われない。大会に参加しないものは、出場者の試合を観戦し学ぶようにと言われている。が、その実態はユルユルで実際は気楽に応援しているものが多い。酷いやつだと寝ているものもいる。結構自由に過ごしていい。

授業がない分ボーナスデーだったりする。

本来は俺もそのボーナスデーにあやかって、のんびりとオレンジジュースでも飲みながら試合観戦を決め込む予定だったのだが……。


「いやあ。まさかジュールも参加してくれてるなんて思わなかったわ」

「はは、色々あってな」


こうして開会式を前にフレンとともに闘技場に並ばされているのが現実だ。

見上げれば、観客席から向けられる無数の視線。

もちろん俺なんかを見てるやつはいないだろうけれど、それでもなんか見られているような気がして緊張する。決して心地がいいとは言えない。のんきに応援している1年生、上級生たちの姿を見ていると羨ましくなる。本来なら俺も向こう側の人間のはずだった。ああ、どうしてこんなことになってしまったのだろうか、うぅ。


「私が誘ってもあれだけ嫌がってたのに、不思議なものね」

「まあちょっとした風の吹きまし的なやつだよ」


そりゃ参加しなくていいなら参加しなかったよ?

こっちにも事情があるんだよ。会長のルシファーに脅されさえしなければ。

せっかくワイバーン倒さずに上手くやれたと思ったのにこれだよ。ホントついてないわ。

でもいいや。あくまでも契約の内容は参加するということだけ。テキトーに手を抜いて1.2回戦で敗退すればいいや。


『代表選抜戦への出場を志願していただいたこと嬉しく思います。名目としては先の親善試合で出場する代表を決めるもののためにすぎませんが、これは当学院を……王国を背負って立つということを忘れてはいけません。医療体制も万全です。みなさまには全力を出して戦っていただきたいと考えています』


俺を脅してきた張本人であるルシファー生徒会長が開会式の挨拶を始める。

観客席の中でも上の方にあるガラス張りのVIP席のようなところでマイクを握るルシファー。

ルシファーが話し始めると、恒例行事のようにして黄色い歓声が湧き上がる。

まったくあの男のどこがいいんだか。確かにイケメンだしクールな素振りが魅力的に映るのかもしれないが、本当は腹黒野郎だぞ。


『――みなさんのご健闘をお祈りいたします。以上で私からの開会の挨拶とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました』


パチパチパチパチーと会場から拍手がを湧き上が、開会式が終了した。





開会式が終わり、自クラスの観客席に戻ろうと闘技場の入退口を歩いているところをレイヴンに呼び止められた。


「貴様まで出場することになっていたとはたなあ。ジュール・ガンブレット」

「レイヴンか。勝負に負けたというのにまだつきまとってくる気か?」


相変わらずしつこい男だな。


「ふん。あんな勝負ボクは認めない、無効だ。貴様がセコいことをしたからだ。貴様さえいなければボクが勝っていた!」

「なんだと。それがあのとき助けてもらったやつの言葉か?」

「誰も助けてくれなんて言った覚えはない!」


自分であれだけ問題を起しておいて反省なしか。人助けしてここまで感謝されないことってあるんだな。


「それで? 今日は何のようだ?」

「宣戦布告に来た。知ってるか? ボクと貴様は2回戦で当たる」

「え、そうなの!?」

「その反応、まさか貴様知らなかったのか!?」


全然興味なかったから知らなかった。すぐ負けよって思ってたから、トーナメント表なんて自分のところしか見てなかった。


「まあいい。そういえば噂にも聞いたぞ。シルバーをやったってFクラスの生徒。まさかそれが貴様だったとはなあ。なんでも変な武器を使うそうじゃないか。だがその程度で調子に乗ってるんじゃない。貴様をこの槍でボコボコにしてやる」


ふん、甘いなレイヴン。それなら1回戦で敗退すればいいだけのこと。俺は脅されたから形式的に参加してるだけ。そもそも勝ち上がるつもりなんてこれっぽちもないのだ。


「それと先週の探索授業、無効になった勝負があっただろ?」


え、なんか無効試合にされてる?


「無効にした覚えはないのだが?」

「う、うるさい! 黙ってろ!」


あ、怒られた。まあいい、五十歩譲ってあれは無効試合と認めてやろう。確かにあの先回り作戦を実行していなければ確実に負けていただろうしな。


「そもそもモンスターの討伐数なんかで勝負しようとしたのが間違いだった。あのルールじゃ貴様がやったようなズルができてしまう。しかし今回は人対人の真剣勝負。これなら逃げることもズルすることもできない。この勝負で勝った方がフレン様とお近づきになれる!」

「わかった。その勝負受けた」


1回戦で負けてやろうと思ったが予定変更だ。3回戦で負けることにしよう。


「今度こそ無効とかなしだぞ? 本当にこれが最後だぞ?」

「当然だ! ボクには負けられない理由がある。今度こそ貴様のその鼻っ柱をへし折ってやる!」


こうして俺はレイヴン・マスカーレとの再勝負を受け入れることにした。

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