魔女と使用人と汚れないドレス

 物が雑然と溢れかえっている店内の一番奥で、とんがり帽子を被った気だるげな女性が紅茶を飲んで休憩をしていた。

 静かな時間を楽しむように、少しずつお茶請けのお菓子を食べ、紅茶を飲んでいた彼女だったが、来訪者に気付いてティーカップをソーサーの上に置いて、入ってきた人物に視線を向ける。

 その来訪者は、乱雑に積まれた魔道具の山を崩してしまわないように気を付けながら気だるげな女性の前にやってきた。

 黒のスーツをきっちりと着こなした初老の男性で、モノクルがとてもよく似合っていた。


「これはこれは、公爵様の使用人がこんな所に何の用だい?」

「この度はお嬢様のドレスのご相談に乗って頂きたく参りました」

「ここは服屋じゃないんだけどねぇ」

「存じております。ドレスは既に準備できておりますので、それに手を加えて欲しいのです」


 男性の後から入ってきた男が、背負い袋からドレスを取り出した。

 ドレスが入るような見た目をしていない背負い袋だったが、異空間へとつながっているアイテムバッグと呼ばれる魔道具だ。


「ドレスを着ていても、少々お転婆すぎるお嬢様なので、いっその事汚れが付かないか、魔力を流すだけですぐに汚れが取れるドレスにできたらと思います」

「なるほど。手を加える、となるとオーダーメイドだからそれ相応の料金を頂くんだけどね」

「問題ございません」

「それに、既製品と違って、職人の気分次第だからいつ作るか分からないけれど、それでもいいのかい?」

「存じております。できるだけ早く作って欲しいですが、今までなくとも何とかなっていましたので急いではおりません」

「そうかい。じゃあ、それを置いていきな。出来上がったら公爵様の所に届けてあげるさね」

「よろしくお願いします」


 使用人は豪華なドレスを置いていった。

 それからしばらくして、魔道具化したドレスを公爵の元へと届けた。

 公爵の娘がより活発に活動するようになったという噂が届いたが、気だるげな女性は気にせずのんびり紅茶を飲んでいた。

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