第11話 茜色の連想



私の職場に茜(あかね)さんという名の女性がいる。その茜さん本人とは何の関係もなく、何か、茜という文字には惹かれるものがある。


よく夕日の色にたとえられる茜だが、実際その色を調べてみると、ひどく赤くて夕日とはかけ離れている。決して綺麗な色とは思わない。


しかし茜から連想する言葉を並べてみると、夕日、黄昏、夕焼けなど、やはり少し寂しいイメージが出てくる。


その茜さんだが、なかなか綺麗だが、不思議に寂しい印象の方だ。


年齢は30過ぎくらい、いつも1人黙々と仕事をしていて、挨拶くらいしかした事がない。

名は体を表すというが、茜さんの場合、ちょっと当てはまる印象がある。


先日、仕事の合間に少しだけ2人になった時、○○さん、お正月はいかがでしたか?と尋ねたところ、海外へ行っていたという。

何でも叔母さんがパリに住んでいるとの事で、1週間ほど、そこへ泊まりに行ったのだそうだ。


「私は昔からフランスの田舎に憧れがあって、若い頃行くチャンスがあったんだけど、とうとう未だに行っていない。このまま行かずに終わるのかな?」

そう言うと、

「行ってしまうと、ああこんなもんか、ですもんね。行かないで、憧れている方がいいかもですね」

というちょっと大人びた言葉が返ってきた。


実はフランスの田舎に憧れがあっても、行かずにいようと思ってたところだった。ひとつくらい、現実を見ないで、永遠の憧れに終わるものがあった方がいい。


「茜さんはどこかフランスの田舎に行ったことは?」

「いえ、私はないです。私、日本の田舎が好きです」

「なるほど。日本も、美しい田舎の町や村が沢山ありますもんね」

「そうですね」

それは具体的にどこなのか。

話す時間はなく、すぐに2人とも仕事に戻った。


夕暮れ時の田舎の村が脳裏にぼんやり浮かんだ。

いつか仕事を辞めたら、田舎の村をゆっくり旅してみたい。


茜さんと?

いやいや、妻と。

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