訳者の感想文

#1 幸せになる義務(感想)

 『19世紀の異端科学者はかく語る』電子書籍化にともない、カクヨム版は序文を残して削除しました。規約の関係でURL載せませんが、書籍版タイトルは『十九世紀の異端科学者はかく語る: ダーウィンの愛弟子ラボックの思想と哲学 -The Pleasures of Life-』です。


 電子書籍版を出したからといって、小説投稿サイトを軽んじるつもりはまったくなく、棲み分けしつつ執筆活動を展開したいと考えています。


 そこで、ここから先は、翻訳文を引用しながら訳者主観で「感想と解説」を投稿しようかと。


「翻訳者だって、ひとりの読者として感想書きたい!」


 そんな主旨で、好き勝手に語ります。


(※引用文は改稿前のもので、書籍版とは異なる場合があります)





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#1 幸せになる義務(感想)

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 冒頭の短いこのフレーズにすべてが詰まっている。




> 人生とは偉大なギフトである。



 

 著者のジョン・ラボックは、第一部の序文で「若い頃の自分は、憂鬱になりがち・悲観的だった」と述べていました。そんな著者が「人生とは偉大なギフトである」と思うようになった理由が、本書に通底するテーマかもしれない。




> 分別のつく年齢になると、多くの人は「自分の存在理由は何か」を自然に自問するようになる。(中略)

> 自分自身が幸せになろうとすることは正しいのかと疑問に思う人も少なくないようだ。




 ラボックは、お人好しで善人のようです。

 人の善性が内包している苦悩、善性由来の厭世観。

 そういうものに一度でも悩んだことのある人なら、この本から「明るく生きる」ヒントを得られると思います。


 ラボックはお人好しで善人であると同時に、成功した実業家・科学者でもあるのでね。



> 教師が「義務を果たす幸せ」だけでなく、「幸せになる義務」にも言及するようになれば、世界はさらに良くなり、さらに明るくなると思う。

> 自分自身が幸せであることは、他人の幸せに最も効果的な貢献となるからだ。


> 明るい友人は晴れた日のように周囲を明るく照らす。

> 私たちは自分自身の選択で、この世界を宮殿にも牢獄にもすることができる。




 最近よく見かける「自称・繊細な人」にとって、下の言葉は耳が痛いかもしれない。




> 憂鬱な気分に浸ったり、運命の犠牲者だと嘆いたり、多かれ少なかれ想像上の不幸を思い悩んだりすることには、間違いなく利己的な満足感があるものだ。




 私も人並みに(もしかしたら人並み以上に)苦労をしたと自負している。助けてくれた人も、嫌な人もいたし、自力で解決したこともあるし、どうしようもなくて悲嘆や傷心を飲み込んだこともある。

 解決しなければならない問題が今起きているならともかく、過去の不幸や苦悩を「同情を引くため」に話すことはしたくないと思っている。(ただし、同じ悩みを抱えている人に「教訓」または「今だから話せるネタ」として打ち明けることはある)


 だから、ラボックの話にとても共感する。




> 明るく元気でいるためには、しばしば努力が必要だ。

> 自分自身を幸せに保つには、ある種の芸術が必要なのだ。




 信頼できる友達にちょっとした昔話をしたら「なぜ、そんな経験をしながら平然としていられる? 笑って生活できるの?」と聞かれたことがある。

 そのときになんと答えたか忘れたけど、こういうこと(↑)なのかもしれない。私なりの美学・哲学があるのかも。




> 私たちは前と後を見て、ないものねだりをする

> 私たちの真心からの笑いは、痛みを伴うもので

> 私たちの最も甘い歌は、最も悲しい思いを語る



 わーかーるー!

 痛みと悲しみの物語は(すべてではない)、心が浄化するようなカタルシスがある。




> 私たちはまったく別の理想を目標にするべきではないだろうか。

> より健全で、より雄々しく、より気高い希望だ。


> 人生とは、ただ生きることではなく、よく生きることである。


> 「真・善・美の中で、毅然と生きる」




 理想論かもしれないけど、「こうありたい」と思わせられる。


 ラボックは序文で「かつての私が慰められた考え方や引用が他の人にも役立つかもしれないと願って」本書を著したと書いてますが、21世紀の日本人である私もとても感銘を受けました。




> 人生とは、時間ではなく、思考と行動で測らなければならない。

> 人生とは、明るくて面白くて幸せなものかもしれないし、そうであるべきだ。




> もし私たちがベストを尽くすなら——

> 小さな悩みを肥大化させずに、

> 物事の明るい側面だけを見るのではなく物事をありのままに毅然として見つめ(中略)


> 人生とは、本当に輝かしいギフトだと感じざるを得ないのだ。







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