#11 宗教(2)


 一部のキリスト教神学者よりも、一部の異教徒の哲学者の中にこそ真のキリスト教がある。たとえば、プラトンやマルクス・アウレリウス、エピクテトスやプルタルコスなどだ。


 ソクラテスは「カリクレス」を通じて、次のように語っている。


「今、私(カリクレス)はこれらのことが真実であると確信し、その日の裁判官の前で、いかにして自分の魂を完全で汚れのないものとして差し出そうかと考えている。世間の人たちが目指す名誉を捨てて、ただ真実を知り、できるだけよく生き、時が来れば死にたいと望む。そして、私の力の及ぶ限り、他のすべての人間にも同じことをするように勧める。私を励ましてくれたお返しとして、あなたにも偉大な戦いに参加することを勧める。これは、人生・生命の戦いであり、地上のすべての争いよりも偉大な戦いだ」


 エピクテトスは「神々への敬虔さ」について、次のように語っている。


「第一に、神々について正しい意見を持ち、彼らが存在し、万物をよく正しく管理していると知らなければならない。そして、この原則(義務)に身を置き、神々に従い、起こることすべてに屈服し、賢明な知性によって達成されるものとして自発的に従わなければならない」


 マルクス・アウレリウスは「一万年生きるかのように行動してはならない」と言い、次のように語っている。


「死があなたの上にぶら下がっている。今この瞬間にも生から離れる可能性があるのだから、生きている間、力のおよぶ限り、善良であれ……。すべての行為と思考をそれに応じて調節するように。もし神々が存在するなら、人の世界から離れることを恐れなくていい。神々はあなたを悪に巻き込まないのだから。しかし、もし神々が存在しない、あるいは人間の問題に関心を持たないなら、神々のいないで生きることに何の意味があるのだろうか。しかし、実際に神々は存在し、人間のことを気にかけ、人間が現実の悪に陥らないようにあらゆる手段を講じている。残りの部分については、もし何か悪があるなら、人の力でできる範囲で(人間が悪に陥らないように)備えているはずだ」


 さらに、プルタルコスも次のように語っている。


「神性とは、金銀を祝福するものではなく、雷や稲妻による全能の力でもない。知識と知性ゆえに祝福される」


 東洋の道徳主義者(モラリスト)の教えを正確に理解することは非常に難しいが、同じ精神が東洋の文学の中に流れている。


 例えば『トイ・チャート(Toy Cart)』では、邪悪な王子がヴィータにヒロインを殺してほしいと願い、「誰も見ていない」と言ったとき、ヴィータは「すべての自然が罪を見ている。森の精霊、太陽、月、風、空の天球、固い大地、死者を裁く強大なヤマ、意識ある魂だ」と宣言している。



(※)ヴィータ(Vita):ラテン語やイタリア語では生命、人生。スワヒリ語では戦争を意味する。




 極端なタイプの違いも挙げてみよう。

 プルタルコスは「神々がと考える者は犯罪者だ。だが、神々はだと考える者は、限りなく残虐な観念に取り憑かれているのではないか?」と言い、さらに続けて「もし私が神なら、『プルタルコスは不安定で気まぐれで怒りっぽく、ささいなことで復讐心したり、小さなことで悩む奴だ』と言われるくらいなら『プルタルコスはいない。昔も今も存在していない』と言われた方がずっとマシだ」と語っている。


 ローマ時代のモラリストには、疑念と悲哀のトーンがある。

 例えば、ハドリアヌス帝が最晩年に自分の魂に捧げた詩のように。


「彷徨う、小さな愛しき魂よ

 わが肉体の客人であり、友よ

 あなたはあの場所へ行くだろう

 青白く、凍りつき、裸のままで、

 いままでのように戯れを言うこともなく」


 ウェストミンスター寺院にあるバッキンガム公爵の墓に刻まれた墓碑銘にも、同じ精神があらわれている。


「無節操に生きてきたわけではないが、

 不安を抱えたまま死んでいく。

 人は、知らないことや間違えることがある。

 私は慈悲深い全能の神を信じている、

 ただの憐れな被造物だ」


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