#4 恋愛(2)

 今は結婚につながる愛について話をしよう。

 このような愛は人生の音楽である。いや、「美しさの中に音楽があり、どんな楽器の音よりもはるかに甘い愛の銀の音がある」といえる。[5]


 プラトンの『饗宴(Symposium)』には、愛についての興味深く面白い論考がある。パイドロスは、愛について次のように語っている。


「愛があればこそ、人は愛する人のために死ぬ勇気を持つことができる。ペリアスの娘アルケスティスは、すべての古代ギリシャ人同胞(ヘラス)の金字塔といえる。夫は若くして死ぬ運命にあり、父も母も助けることを拒んだ時、夫のために喜んで命を差し出したからだ。アルケスティスの愛の深さは、血の繋がった父母の愛をはるかに超え、深いつながりを感じさせた。彼女がしたことは神々にも人間にも非常に崇高なものと映り、アルケスティスは善行をした多くの人々の中でも特別に称えられて、地上に戻る特権を与えられた数少ない一人となった。このように、神々は、愛の献身と美徳に対して非常に大きな敬意を払うのである」



(※)パイドロス(Phaedrus):プラトンの中期対話篇のひとつで、登場人物の名前でもある。

(※)ヘラス(Hellas):古代ギリシャ人が自分たちの民族の総称として用いた名称。



 悲劇詩人のアガトンはさらに雄弁だ。


「愛は、人を慈愛で満たし、不満を取り除き、このような宴会の席で出会いをもたらす。供物、饗宴、舞踏において、彼は私たちの支配者となる——優しさを与えて不親切を追放し、友情を与えて敵意を許し、善の喜び、賢さの驚き、神々の驚異、彼と関わりを持たない者が望み、彼を関わりを持つ者が尊ぶもの……、デリカシー、ラグジュアリー、欲望、愛着、柔らかさ、気品を生み出す根源であり、善を重んじて、悪に無頓着なものだ。すべての言葉、仕事、祈り、恐れの舵を取る者、仲間、助手、救済者……、神々と人々の栄光、最高にして最も輝かしい指導者……、すべての人が後に続き、神々と人々の魂を魅了する愛の甘い調べを、彼の名誉のために歌おう」


 二つの愛があることは間違いない。「一つは、母を持たないウラノスの娘で、年長で知恵のある女神だ。もう一つは、ゼウスとディオネの娘で、大衆に人気がある平凡な女神だ」と言われるが、この件はあまり詳しく調べないことにしよう。

 チャリティーはグィネヴィアについてさえ、「生きている間、彼女は良い恋人だったので、良い最期を迎えた」と語っている。[6]



(※)「母を持たないウラノスの娘」と「ゼウスとディオネの娘」:どちらも愛と美の女神アフロディーテのこと。

(※)グィネヴィア(Guinevere):アーサー王の王妃。




 愛の起源は、悪の起源と同じくらい哲学者たちを悩ませてきた。

 プラトンの『饗宴』では、プラトンが冗談で「アリストファネスのことだ」と語り、ジョエットは「これほど真にアリストファネス的な言葉はない」と語っている。



(※)アリストファネス(Aristophanes):古代ギリシャの喜劇作家。



 アリストファネスは「原初の人間の本性は、現在と異なっていた」とし、次のように語っている。


 原始人の体は丸く、背中と脇腹が円を描いていた。[7]

 四本の手と四本の足を持ち、一つの頭に二つの顔があり、反対方向を向いて首の上に乗っており、完全にそっくりだった。現在の人間と同じように直立して歩き、後ろにも前にも自由に歩くことができた。また、走りたい時は、合計八本の手足でくるくると回転し、軽業師かるわざしのようにものすごい速さで転がることもできた。

 体力と腕力は恐ろしく、心の思いは大きく、ある日、神々に攻撃を仕掛けた。

 彼らのことはオテュスやエピアルテスの物語として知られているが、ホメロスが言うように、天界をよじ登って、神々に手をかけようとした。

 天界の評議会では疑念が支配していた。巨人のように雷で殺してしまえば、人間が捧げる供物も崇拝もなくなってしまう。その一方で、神々は人間の横暴を許すわけにはいかなかった。思案の末、ついにゼウスはある方法を思いつき、次のように言った。


「人間の自尊心を貶め、行儀を改めさせる計画がある。今後も生かし続ける代わりに、人間を二つに切断する。この方法には利点が二つあり、力を半減させながら、二倍の供物を得ることができる。人間は二本の足で直立歩行するようになる。もし、横柄な態度を改めず、静かにできないようなら、さらに分割して、一本の足で飛び跳ねるようにしてやろう」


 ゼウスはそう言うと、毛髪で卵を割るように、人間を真っ二つに引き裂いた。

 分裂した人間は、自分の片割れを欲して、二人は一つになろうと求め合うようになったという。


 このように、人間に埋め込まれた「互いを求める欲望」は古くからあった。

 本来の性質を取り戻そうと、二人は再び一つに結合して、人間の状態を癒そうとする。私たち一人ひとりは分離された状態に過ぎず、片面しか持たない平たい魚のようなものだ。それは人間の仮の姿に過ぎず、いつも片割れを探している。


 片割れを見つけると、二人は愛と友情と親密さに驚き、互いに夢中になり、一人はもう一人の視界から一分でも消えることはないだろう。

 二人は生涯を共に過ごすことになるが、互いに何を望んでいるかを説明できない。

 二人が互いに抱いている熱烈な思慕は、恋人同士の性交の欲望へ向かっているようには見えない。魂が相手を欲しているのは明らかなのに、語って伝えることができない。彼女はただ暗く疑わしい予感しかなく、何か別のものへの欲望にも思われるのだ。


 人間の心には本能的な洞察力があるため、一瞬で結論に至ることがある。

 そのような場合、第一印象が変わることは滅多になく、間違いを犯すことはほとんどないと言える。

 一目惚れは軽率に聞こえるが、ほとんど天啓である。

 まるで、過去に存在していたときの因縁を再生しているかのようだ。


「彼女に出会ったこと。それは、彼女を愛し、彼女以外を愛し、永遠に愛することである」[8]


 経験上、この感覚が覆されることは滅多にないが、幸いなことに、その逆は成立しない。


 しばしば、深い愛情はゆっくりと育つものだ。

 たくさんの温かい愛は、誠実な献身によってもたらされる。


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