その5 著作者人格権

 東京都千代田区にある私立ケインズ女子高校は本来の意味でリベラルな学校で、在学生には(後略)



「灰田さん……この写真なんだけど男子中学生はどの娘が一番好きだと思う? 流石にミト君に聞く訳にもいかなくて……」

「うわっ、それ全部グラビアアイドルの写真じゃないですか? あと男子中学生とは一体……」


 ある日の練習前、私は2年生の宇津田うつだ志乃しの先輩にスマホの画像検索画面を見せられた。


「最近テイラーノベルっていう小説投稿サイトで他人が描いたイラストの無断転載が相次いでるっていうから調べてみたら、私がピクスティブに投稿してた『MELON FISH』のファンアートが勝手に使われてたの。もちろん何の連絡もなかったし、出典のURLとかも記載されてなくて……」

「ああー、何か小学生や中学生がそのサイトで色々問題起こしてるらしいですね。削除申請とかしてみたんですか?」


 小中生のユーザーが多数を占める新興の小説投稿サイトで著作物の無断転載や盗用が相次いでいるという話はネットニュースにもなっていて、私も数日前に記事を見ていた。


 志乃先輩は美術部や漫研にこそ所属していないけど以前から絵が上手で、好きなアニメのファンアートをたまに描いてはイラスト投稿サイトのピクスティブに投稿していたので今回はそれを無断転載されてしまったらしかった。


「運営にメールを送ったら苦情が殺到してて対応できないって言われたから直接作者に文句を言ってみたんだけど、無断転載なんて皆やってるし女の子の読者も多いから削除はしないって開き直られたの。もう許せないから自撮りですって言ってセクシーなお姉さんの写真を送って、お礼にデジタルタトゥーになりそうな写真を送らせようかと……」

「腹が立ったのは分かりますけどそれは流石にまずいですよ! あとグラビアアイドルさんにも肖像権がありますから、勝手に写真を使ったら志乃先輩も同じ穴のむじなになっちゃいますよ」


 志乃先輩は例によって問題のある対応をしようとしたので、私は肖像権の話を持ち出しつつ慌てて制止した。


「確かにそれはそう。仕方ないから、肖像権的に問題ないやり方で解決するわ……」


 そう言うと志乃先輩は新たな画像を検索し始め、私は最悪の事態は避けられたようでよかったと思った。



 その数日後……


「灰田さん……ボッティチェリの『春』を送ったら無視されたから大正時代の裸婦画にしようと思うんだけど、この中だとどれがいいかしら?」

「いや、確かに肖像権的にも著作権的にも問題ないですけど……」


 スマホの画面に古めかしい画風の裸婦画を多数表示させている志乃先輩を見て、私は何かが根本的に間違っていると感じた。



 (続く)

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