第10話 姫路到着。兄の出迎えを受けて・・・

 次の停車駅は、姫路。列車は定刻に到着した。

 ここも岡山同様、わずか3分の停車。

 その間にも、食堂車の調理場の出入口では物品の搬出入が行われている。

 ホームの駅そばブースには、食事時間帯ということもあり、多くの客が並んではそばを買い、そして、その近辺でそばをすすっている。1948(昭和23)年頃に開発されたこの駅そばは、すでに、姫路駅を普段から利用する人以外の間でも、随分知られた存在となっている。この駅そばを売っている業者は、明治時代から駅弁も売っている。三等車の窓からは、駅弁を買う人も何人か見受けられる。

 18時30分少し前。この時期はまだ、周囲は明るい。

 ホームと列車の間の諸般の動きが止まった頃を見計らい、列車は、定刻通りに姫路駅を出発し、終点の京都へと向かって汽笛とともに去っていった。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 姫路駅中央改札口には、堀田氏の兄が迎えに来てくれていた。弟の繁太郎氏より一回り近く離れており、新聞記者をやっているとのこと。大学は文学部。大戦中は、海軍の報道班員として従軍していた。それに加え、音楽の素養もあるという。

 兄の英太郎氏は、かねてより山藤氏とも面識がある。

 再会の挨拶が済めば、話は弟の繁太郎氏に。


「繁太郎、世にも高尚と噂のちらし寿司、ちゃんと用意してきたヤロナ」

「当たり前や。岡山名物のばら寿司には、仕掛けあるネンゾ。まあ兄貴、見といて」

 繁太郎氏はそう言って、岡山駅の寿司店で購入した包みを差し出して見せる。

「ほう、おもろそやな。あとは、教授先生の見せ場の力量ひとつで、石村先生のお母様を喜ばせるやら、出来損じの一発芸で終わるやら」


 苦笑しつつ合の手を入れる山藤氏、さらに話を続ける。

「何をおっしゃいますやら。このくらい出来んで、御自身の研究の意味を人にきちんと教えられたものですかな。いやあ、おたくの弟さんは、しっかりお仕事されておいでやで」

「お言葉やけど山藤さん、何や、文系の学生諸君にはずいぶん甘いとお聞きしておりますぞ。本日おいでの石村先生もやけど、もう少し専門外もしっかり勉強させねば。私は今どきの学生諸君には、思うところ多々ありますのや」

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