第6話 食堂車は今宵も、商売繁盛

 岡山を定刻に出発した特別急行列車は、程なく旭川の鉄橋を超え、ますます加速。


 しばらく走ると、西大寺鉄道の連絡駅でもある東岡山を通過。ここはつい数年前まで、西大寺市への玄関口であることで「西大寺」を名乗っていた。

 東岡山を過ぎると、これまで以上に田園が広がる。

 岡山駅から営業キロでわずか10キロ程度しか離れていないが、ここはもう田んぼだらけで時折家が見える程度。

 進行方向右には沼地を見つつ進んだ列車は、さらに瀬戸駅を通過。駅の周りには、いくらか多めに民家が見られる。

 瀬戸町の中心駅だけあって、ホームには何人かの人が列車を待っている。

 列車はさらに万富、熊山と小駅を通過していく。

 進行方向左側には、今度は吉井川が並走している。

 それも尽き、片上鉄道の高架をくぐって間もなく、和気町の中心・和気を通過。

 駅前には旅館や銀行の支店なども見られる。進行方向右側には、同和鉱業が経営する片上鉄道の列車が客待ちをしている。


 しかしこちらは特別急行列車。和気ほどの駅さえも、堂々と通過していく。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


「ありゃ、なんか、ホームに物が投げ込まれた模様ですな」

 堀田氏は通過する列車の窓際からホームの様子を見ていた。

 どうやら、前の食堂車あたりからホームに何かメッセージが送られた模様。

「それ、食堂車の従業員が不足物品を頼むべく駅に伝言をことづけたのではないか。次の停車は姫路である。あと約1時間程度といえ、今日は客も入っている。飲み物か食材の何かが足らなくて大阪まで持ちこたえそうにないから、頼んだに違いない」


 堀田氏は、食堂車の方向に向って歩いてみた。

 デッキを抜けて食堂車を覗くと、ほぼ全席、誰かが着席中。

 どうやら相席と思しきテーブルさえみられる。

 それどころか、喫煙室には食事待ちと思われる客も2名いるではないか。


「どうも満席のようです。この調子なら、姫路から先も大阪あたりまで、客が殺到しそうな雰囲気ですわ。いやあ、無理に行かなくてよかったというか・・・」

 斥候兵よろしく食堂車の様子を伺った情報を、堀田氏が述べた。

「そんなことだろうと思っていたよ」

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