第3話 快適に移動したければ・・・

 山藤氏は、このところの鉄道事情について、かねて聞き及んでいる話を披露した。


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 去年あたりに車両を替えられて、今やあの特別急行、「かもめ」じゃなしに「からす」と陰で呼ばれておる始末である。堀田君がわしとお会いしたときに乗ったあの座席じゃなくなって、急行と同じような座席になったのよ。もっとも、それは三等車だけであって、二等車は相変わらず、あの背もたれが傾くエエ座席よ。

 あの酒屋の息子君の話によれば、何でも、輸送力増強を期してこれまでの車両よりかなり車体の重さを軽減した新しい車両で、車体だけなく社内の雰囲気も軽く明るい内装とのことである。

 それは結構な話であるとは思うが、何でも、これまでの急行列車と同じ向かい合わせの座席ときておる。

 新車でございは慶賀に堪えんが、これで特別急行はなかろうと、一部でお怒りの声を買っておる始末じゃ。気に入らねば金積んで特別二等車に乗りやがれと言わんばかりのやり方だと、そんなことを言っておる人もおいででなぁ。

 とはいえ、三等車であればあの「あさかぜ」や「さちかぜ」も、そこは同じと来ておってね。もっともそちらは、この秋口にも全車冷暖房完備の新型客車が出現するそうであるが、「かもめ」の方はしばらくあの車両だと、あの青年が教えてくれたよ。


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著者解説:1975年の新幹線博多開業後の岡山―姫路間の旅客ダイヤを見て、あれは「新幹線に乗せるため=特急料金を稼ぐため」だという人が結構おられます。

 この区間、それなりの行き来もあるから快速列車でも作って欲しいとか、新快速の岡山延長をとか、そんな意見もないわけではないが、実現する気配は全くない。

 それどころか、このコロナ禍の減便ダイヤで、網干ー相生間までもが、日中のある時間帯(もちろん通勤時間帯は別)1時間に1本というダイヤにさえなっております。相生ー岡山間、岡山-播州赤穂間はもとよりそういうダイヤです。


 この時期のこの件も、特急に乗ってエエ座席に座りたければ二等車に行けという形ではあるものの、ある意味、今と同じ構図が見て取れなくもないです。

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