されど傭兵鳴らぬ心臓それは銃である

デルタイオン

第1話 心臓

この鼓動は何千年の時を待ってたのだろうか?


今生きている事でさえ奇跡なのかもしれない。


原発、アースノヴァ、大崩壊、隕石……様々な状況を運のみで生き残り、目覚めた時は家族が……子供すら居なくなっていた。


心臓が鼓動一つ打つだけで俺の身体に血が巡りなぜか身体が動く。


心臓が鼓動一つ打つだけでこの景色を見る事ができる。


だが、鼓動一つしない心臓はもう何も出来ない。


何も出来ず、ただ朽ちて地と同化する。


どれだけ悲しい事か。やりたい事もあっただろうに。ずっと覚えている事も、忘れられない素敵な記憶も全てになる。


何故か?それは当然。家族が居ないから。


誰も側に居ないから。


孤独で死ぬ事に意味は無いのだ。


だからこそ生き延びる。


生きて意味ある人生にするのだ。


その為に……


バンッ!!


撃って


バババッ!!


「撃って」


カシャン!


「撃ちまくる」


バババババッ!!


銃が火を吹く。


その度に人が死ぬ。


だが、気を抜けばこちらが死ぬ。


だから殺す。


この右手の人差し指で人を殺す。


この銃の反動で人が死ぬ。


ゲームでもなく、映画でもない。現実だ。現実で人が死んでいくのだ。


銃を持った人が死んでいくのだ。


だが、それを理解する暇はない。


ここは戦場廃墟だ。殺らねば殺られるKill or be killed。それだけだ。


「こちらブラボー1。目標地点の機械化生物の掃討完了。また、野党が現れた為それも掃討した。送れ」


胸元のレシーバーを使い無線をとある所へ送るとすぐに返信が返ってきた。


『こちら指揮官のラードハニー。撃退ではなく掃討か?送れ』


司令塔CQからの返信。いや、依頼主からの返信のほうが正解か。中継機を挟んでも尚早い通信には旧文明の遺産バンザイだ。時間にルーズな俺には天からの土産物としか思えない。


とりあえず質問をそのままにしておくのは悪いので訂正して返信する。


「こちらブラボー。その通りだ。送れ」


『………了解した。任務終了。帰還せよ』


「了解。帰還する」


少しの間があったものの無事帰還してよいとの返事を貰えたので帰還する。


帰還ポイントまで行けば迎えのトラックが来る。場所はここから南へ20km。バイクで数十分の道のりだ。残念ながら隕石や大崩壊のせいで通れる道は少なく、ちょっとした手を加えて通れるようにした所はあるが、車両は通れない。90kgを超えるとどうも駄目らしい。


なので行ける所まで行き、途中から徒歩で向かう。これが最近の傭兵での通勤の主流だ。


偶に滅茶苦茶装備を軽くして都市内を駆け巡る傭兵が居るが、残念ながら自分にはそんな操縦技術は無いし身体に改造を加える気も一切ない。


なのでこうして細い道を一生懸命頑張って通るのだ。


さて、道中で寄り道をしながら帰っているとバイクを隠していた場所に辿り着いた。カモフラージュのコンクリートを退けると装甲板である程度身を包んだ中型バイクが土を被り横たわっていた。


バイクを立てエンジンを始動させ帰路を辿る。


都市内から都市外へと出ると自然が入り混じったガタガタの高速道路に出る。


都市外に出て10分。景色がガラリと変わる。


自然豊かな木々が生い茂る景色から一転。生物の存在を感じない砂漠の景色へと変わる。


道路も最近舗装されたような新品の道路へと変わる。


景色が変わり5分程だろうか?


しっかり舗装された高速道路のお陰で今さっきの2倍の速さで目的地に着いた。場所はなんの特徴も無い砂漠の一部。


バイクから降り少し待っていると砂煙が立ち昇るのが見えてきた。


段々と近付いて来るが何かおかしい。


段々と見えてきた……ああ、これは……


「不味いな」


トラップに引っ掛かったようだ。

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