15 武器の依頼
冒険者ギルドを出て、もしかしたらイケメンに弱いのかもしれない受付嬢に紹介された武器屋を訪れた。
デカい店ってわけじゃないが、小綺麗でしっかりとした店構え。
個人営業の美味い飲食店みたいな雰囲気がする。
つまり、期待できるということだ。
カランカラン、と音を鳴らすドアを空けて店内へ。
すると、そこには妙な光景が広がっていた。
「「へ?」」
俺とミーシャの声が重なる。
店のカウンターには、熊のようにたくましい肉体を持つ男性が、机の上で両手を組んだ司令官のポーズで座り、凄まじい威圧感をまき散らしている。
漫画だったら、ゴゴゴゴゴって擬音が発生してそうな感じだ。
世紀末覇王みたいな、とてつもない覇気。
思わず仲間に勧誘したくなるような『強者』のオーラ。
でも、よく見るとデフォルメされたクマさんの刺繍が入ったエプロンをつけており、それに気づくとミスマッチ感が凄い。
そして、そんな世紀末エプロンの正面には、冷や汗を流した一人の少年が座っていた。
15〜16歳くらいの、中性的な顔立ちの少年。
気弱そうな顔をしており、可哀相に、エプロンの威圧感によって完全に萎縮していた。
どこかで見た顔だなと思えば、さっきアフターフォロー完璧の追放をされた子だった。
こんなところで何を……?
いや、何をとは言うまい。
この絵面を見れば、何が起こったのかを察するのは容易い。
「「万引きか(ね)」」
「違います!?」
またしても俺とミーシャの声が重なり、少年は反射的に否定してきた。
いや、だって、そうとしか見えねぇじゃん。
自暴自棄になって万引きして、それがバレて怖い店員さんに捕まって、お説教中の非行少年の図だろこれ。
「万引きではない」
すると、今度は世紀末エプロンの方が、ゴゴゴゴゴという擬音が発生してそうな雰囲気のまま、口を開いた。
「採用面接だ」
「「採用面接!?」」
またしても俺とミーシャの声が重なる。
いやいや、こんな威圧感に満ちた採用面接があってたまるか!?
圧迫面接なんてレベルじゃねぇぞ!
魔王軍の面接だって、もうちょっと優しいわ!
いや、魔王軍に採用面接なんてないだろうけども!
「客か?」
「あ、ああ。鎧と盾を売ってもらいに来た」
「ならば、そちらが優先だな」
世紀末エプロンが立ち上がる。
うわ、立つと更に威圧感が膨れ上がった。
身長高ぇ。
女にしては長身の170センチくらいある
2メートルは軽く超えてるだろう。
横幅も、未来から来た殺戮マシン並みの筋肉で膨れ上がっていて、今にも「サイドチェスト!!」とか言い出して服が弾け飛びそうだ。
なのに、エプロンの胸元に刺繍された、微妙にヘタクソなデフォルメされたクマのせいで、畏れればいいのか笑えばいいのかわからなくなって、脳が混乱する。
「可愛いだろう。娘が縫いつけてくれたものだ」
どうやら娘さんの作品だったらしい。
顔はニコリとも笑ってないし、ゴゴゴゴゴな威圧感も収まってないんだが、俺は確信した。
この人も第一印象と内面が一致しないタイプだ。
「それで、所望の品は鎧と盾だったな。具体的にはどんなものがいい?」
「種類は全身鎧と大盾。できるだけ頑丈で、とにかく重いものを頼む。大型級の魔獣の攻撃でも吹き飛ばされない代物が欲しい」
「ふむ……」
世紀末エプロンが俺の体をギロリと睨んできた。
エロさなど微塵も感じない、ひねり殺すべき敵を見るよう目だ。
十中八九誤解だとわかっているが、それでも、その眼光にミーシャなんかは震え上がってる。
これ、最強のセキュリティだろ。
やがて、世紀末エプロンは何かを見極めたようにうなずいて、店の奥に消えていった。
そして、一本の黒い大剣を両手で持って戻ってきた。
「持ってみろ」
「いや、私が頼んだのは鎧と盾なんだが……」
「わかっている。お前がどの程度の重さを操れるのか、その確認だ」
「ああ、なるほど」
そういうことならと、俺は大剣を片手でヒョイと持ち上げた。
おお、結構重いな。
この体になってから持ってきた武器は、どれもこれも小枝みたいに軽かったのに、これは修学旅行で行ったお土産屋の木刀くらいの重さに感じる。
「嘘!?
「やるな。それは俺でも両腕でなければ持ち上がらないんだが」
「メスゴリラ」
おい、
お前、本当に遠慮が無くなってきたな。
「お前ならば、全身
「10トン……」
「その大剣だけでも3トンはある。余裕だろう」
マジか。
この大剣、3トンもあったんか。
そりゃ重いはずだよ。
そりゃ、メスゴリラとか言われるはずだよ。
というか、ゴリラでも3トンを持ち上げるのは無理だろう。
比べたらゴリラに失礼だ。
「だが、その装備をつけて建物の二階などには上がらないことを勧める。絶対に床が抜けるからな」
いや、それ絶対、一階でも床板とか踏み砕いちゃうだろ。
それどころか石畳とかコンクリートでもヤバいだろ。
何か対策でもあるんだろうか?
あるんだろうな。
これだけ自信満々なんだから。
「値段はどれくらいになる?」
「
珍事言うなし。
ああ、でも、実際にこの剣をちゃんと武器として使える奴って、どれくらいいるんだ?
今の俺の筋力は、ステータスの数値にして1500ちょっと。
俺やミーシャみたいな特化型のネタ性能ではなく、バランス良くステータスを上げていった場合、戦士系のキャラがこの数値に到達するのは……大体レベル50くらいか。
俺は木刀くらいの重さに感じたから、普通に大剣くらいの重さに感じて使いこなすとなれば、もう少し要求される数値は下がる。
そうなると必要なレベルは……40くらい?
パワー特化なら30でもいけるか?
いや、でも将来を切望されるエリート騎士のユリアがレベル25だったんだから、この数値に到達できる奴ってほぼいないんじゃね?
実際、ゲームでも仲間になった当初からレベル30や40を超えてたキャラなんて、人類最強と称されてた奴らを除けば殆どいないぞ。
ああ、いや、そう考えると、この大剣は人類最強かそれに準ずるレベルなら扱えるのか。
流れ込んできた記憶にあった、ユリアのお父さんとかは割と可能性あるかもしれん。
レベル50くらいの勇者が、同レベルの仲間達+軍勢と一緒に挑んでようやくギリギリ倒せる凶虎を、短時間とはいえ単騎で足止めしてたし。
……改めて考えてみると、ヤバいなお父様。
娘についた悪い虫どころか、娘さんの中に入った変な男とかいう、お父さんブチ切れ案件確定の俺としては、あの世とかでも絶対に会いたくない。
120%くびり殺される。
「合わせて、500万ゴールドでどうだ?」
と、俺の思考がお父さん問題に逸れてる間に、世紀末エプロンが見積もりを出してくれた。
ふむ、500万ゴールドね。
500万ゴールド…………500万ゴールド?
「高っ!? 払えるわけないじゃない! 私達、上がりたてのCランク冒険者よ!?」
ミーシャが俺の言いたいことを代弁してくれた。
ホントそれな!
こちとら、ようやく実習期間を終えて就職したての新卒社会人みたいなもんやぞ!
多少は貯金もあるけど、そんな大金は無い!
「む? そうなのか? お前の怪力といい、そっちの少女の明らかに上等な杖といい、Aランクには到達していると思ったが」
「……前職の経験が活きているだけだ。色々あって財産は殆ど失ってしまったから、本当に金はない」
「ふむ……」
世紀末エプロンは考えるようにアゴに手を添えた。
しかし、そんなに高いんじゃ、夢の専用装備はお預けだな。
大人しく、前に買った鉄の鎧と盾あたりにしておこう。
あれも総重量100キロは余裕で超えてるし、無いよりはずっと良い。
「ならば、素材を直接持ち込んでくるというのはどうだ? それなら更に安くなる。ついでに他の素材も持ってくれば買い取る。上手くすればお前達の予算でなんとかなるかもしれんぞ」
と思ったら、世紀末エプロンがそんな提案をしてくれた。
「町の近くの山岳型ダンジョンの奥地には、貴重な鉱石が山のように眠っている。
ゴーレムどもの守りを突破してそれを取ってこられれば、かなりの稼ぎになるぞ。お前達なら行けるだろう」
「むぅ……」
一見、素晴らしい提案に聞こえる。
これがよくあるラノベだったら「よっしゃ名案だ! 金策にレッツゴー! チート無双で余裕でした!」となるんだろうが、俺達はそうもいかない。
だって……
「やめておこう。私達は既に、あのダンジョンに挑んで酷い目に合っているからな」
「何?」
そう。
既に我がチート能力|(ネタ)は、あのダンジョンに屈したのだ。
死にかけながら敗走したんだから、奥地の貴重鉱石を取ってくるなんて夢のまた夢だ。
「信じられんな。それだけの力があって何故だ?」
「私達には、まともなダンジョン攻略の経験が無いんだ。敵はなんとかなっても、地形に阻まれて死にかけた」
「うっ……ごめんなさい。私が足を引っ張ったから……」
ああ、ミーシャがしょんぼりしてしまった。
「お前のせいじゃない。むしろ、ミーシャはよくやってくれた。至らなかったのは私の方だ」
「先輩……」
いや、ホントに責任の八割くらいは俺にある。
ミーシャはマップも覚えてくれたし、罠の情報も、地形の情報も頭に叩き込んでくれていた。
ちょっと実践する時にミスったし、ちょっと死にかけたりもしたが、あんな窮地に陥った最たる原因は彼女じゃない。
失敗の最たる理由は、俺が自分の仕事であるミーシャの護衛という役割を果たせずに気絶させ、そんなミーシャを守りながら運ぶことに必死になって罠にハマり、落とし穴に落ちて道に迷ったことだ。
この体のスペックをそこそこ使いこなせるようになってきたからって調子に乗って、できることとできないことの見極めを失敗した俺が悪い。
だから、ミーシャよ。
勝手に動いて、慰めるようにお前の頭を撫でてるこの手に騙されるな。
お前は俺を殴っても許されるんだぞ。
「そういうわけだ。しばらくはダンジョンに慣れることを最優先しなくてはならない。奥地にまで足を運ぶのは無理だ。せっかく提案してくれたのにすまないが……」
「あ、あの!!」
と、ここで若干空気になっていた追放少年が声を上げた。
「ダンジョンに不慣れということでしたら、僕があなた達にダンジョンのことを教えるというのはどうでしょうか!?」
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