平和をもたらすもの。

 学園に入学して少し経つ。


 特殊クラス、普通クラス、上位クラス、最上位クラスとそれぞれ分かれての授業が日々繰り返されていた。


 それは学園校舎の階によって分けられていた。ただ、特殊クラスだけは、離れのプレハブみたいな教室だった。


 そのため、パッシブにはそこまで気を使わずに済んだ。


 そして入学式以降、四方からのパッシブが弱まっていった。


 特殊クラスのやつは、パッシブにすら気を使える良い奴らだった。


 多分、俺ツェー的な為だろうけど。


 超静かなのに、なんかギスギスしてるんだよな…


 今も昼休みに入ったのに、誰も動かない。


 誰が一番に動くのか牽制し合ってる…きっと最後が良いんだろうな…


 自称モブばかり集めたらこうなるのか…



「山田くーん。お昼行こー」



 だが、そんな状況も勇者様がお昼に誘ってくれることで、改善し出したのだ。


 勇者様は奥歯ガタガタ言わせる威風を纏ってやってくる。


 だからか、流石に勇者様に俺ツェーはマズいのか、特殊クラスの奴らも口笛吹いて目線を逸らしていた。


 そっ…と席を離れたり、普段なら独立した個々人達が微妙なコミュニケーションでグループ作ったりしていた。


 勇者様によって、クラスは驚くほど平和で普通のクラスになっていった。


 流石、希望の刃。地球人の剣。


 この国に平和をもたらすもの。


 俺以外。


 超逃げてぇ。


 膝ガックガクなんだよォォ!


 そもそも、最上位職はこのエリアには2人しかいない。そのため基本的には教室などない。だからこのプレハブの二階を使っている。


 内緒ね、そう言っていた。


 また約束を…してしまった…くそっ!


 いい子なのに怖い!


 そして勇者とは、そのままこの国の戦力となるため、普通であれば探索者系学園のトップ、第1黎明学園、通称成瀬学園に入学するのが普通だ。


 なのに、なんで勇者様ここにいるんだろう。





「山田くんは、放課後外に出たりしてる?」


「いや、出てないすけど…」



 この学園は広く、また、あらゆるものが取り揃えられていて、普通なら出る必要がない。


 俺は勇者様のご好意部屋にまだ住んでいた。何度か灰燼部屋を見に行ったが、やはりそのままだった。


 これは相談したり、資金を稼いだりといった練習のためなのだろう。



「ふーん。やっちね、幼馴染達とこの学園に入ったんだー」


「へー…?」



 なんだ? 何の話だ?



「結婚の約束ってどう思う?」


「…どう…?」



 急に話が飛ぶな…てか…パッシブが鳥肌を撫で回しているぞ?! こんなの初めてだぞ?! なんだ!? 何か荒ぶってんのか?!



「そ、す、素敵な約束だね…い、いいんじゃないかなぁ〜…」


「だよね」



 気おされてつい肯定してしまった…したくないのに…あ。俺今嘘を…



「幼馴染の男の子とね、そんな約束してたのにね、別の子がね、別の子とね……あ、別の子って言うのは火純かじゅんちゃんって言うんだけどね…………だからやっちは棍棒に変えたんだぁ」


「そっ、そうなんすね…」



 良かった嘘に気づいてない! というかじぇんじぇん話が見えないぞ?! 誰か! おらぬか! 勇者様のご乱心ぞ! ああ! 勇者様の覇気が! このモブに! ビリビリと! ああ!? 覇気だけで吹き飛ばされそうなんだが?! う、浮いてる! 卵焼き浮いてるヨォォ! 藤堂院さんの髪の毛もざわざわしてるぅぅ!?


 これが…豪雷属性の勇者…!


 どういう原理なんだよぉ!?



「はぁ…だからね…楽しみにしてたダンジョンもさぁ…一緒にいたくなくて…」


「はぁ、はぁ、はぁ、そ、そっか…」



 お、収まった…


 …おそらくだが、思いを寄せていた男が別の幼馴染の子に盗られたのか…それでいづらくなったのか…もしくは身を引き、譲ったのか………棍棒は……何で…?



「剣だったら危ないからね」


「だ、だね〜…」



 読まれた!? これが伝説の悟りの魔法か…ん?


 あ! この人瞳孔がやべぇ開いてる! 幼馴染達折る気マンマンじゃん!


 ああ……そうか…そういうことか。


 この現象には心当たりがある。


 俺が自分のことを、ぼっちと呼ばない理由の一つだ。


 これはジョブでも、スキルでもない。


 この人……負けヒロインだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る