ＪＫギャル勇者を育成せよっ！！ ～アイツが勇者で俺がモブ！？～

プロローグ 始まる前から終わっていた

「解った！　死んじゃっても、その場でお葬式が出来るからじゃない？　そうでしょ！？」

「……いえ、違います」

　穏やかに晴れ渡った青空の下で地べたに座り込んだ俺は、正面の、壊れかけの木箱に腰掛ける黒髪女子高生がドヤ顔で放ったあまりな答えに、思わずこめかみを押さえながら溜息を吐いていた。

なんだよ、その答え。

「なによ、その溜息！」

「……失礼。あまりにも斜め上だったもので」

　俺の態度が気に入らなかったのか、プゥッと頬を膨らませながら怒る黒髪女子高生に、俺は取り合えず謝る。だが、俺は全然悪くはない。

　なにせ、『僧侶というジョブは何をするでしょうか？』という簡単な質問に、「えっとぉ」と唇に人差し指を添えながら、キョロキョロと視線をあちこちに向けるバレバレなカンニングまでした挙句、そこからさらに「う～ん、う～ん」と一つ二つ唸って出した答えがソレだったのだから、溜息くらい吐きたくなる。

　ってかなんだよ、その答え。そんな訳あるか。ちょっと考えればわかんだろ……。

「だってしょうがないじゃん！　学校で習ってないんだからさ！」

　気持ちの籠っていない謝罪一つでは機嫌が治らなかったのか、彼女はプイっとそっぽを向いた。

　当たり前だ。アッチじゃ義務教育（がっこう）でそんなモンを習わないし、学校だって、教えるなら英単語の一つ、漢字の一つでも教えた方が、相手と社会の為になる。

　だが、この世界では違うのだ。英単語や漢字なんて、コッチじゃ何一つ役に立たない。そんなモンより、属性の一つやスキルの一つを教えた方が、相手と社会の為になる。──死なないために。この世界で生き抜くために──

「……その役割を、まさか自分がやるとは思ってもみなかったがな……」

「……なによ。何か言った？」

「いえ、別に。そうですね。習ってないなら無理でしたね。ちなみに答えですが、僧侶は主に回復役を担います。なので、もしケガした場合は、僧侶の方を頼ってください。それでは、次の問題です」

「えぇ～！？　まだやるの～！？」

「えぇ、やりますよ。でも安心してください、次はもっと簡単ですから」

「ぶぅ……」

　頬を膨らませる彼女。子供かっ！……って、子供か。彼女は女子高生だ。

「では問題です。火属性の弱点は水ですが、土属性の弱点はなんでしょう？」

　次に出した問題も、俺みたいな人間からすれば、それこそ呼吸するみたいに答えが出る簡単なやつだ。

　そしてそれは彼女も同じだった様で、パッと顔を明るくした。お、さすがにこれくらいは知っていたか。こいつは少し彼女を見くびって──

「解った！　火でしょ!」

「……いえ、違います。正解は風です」

「えぇ、風！？　土は火であぶったら、固くなって割れちゃうでしょ！　だから火に決まっているじゃん！」

「決まっているじゃん！……って言われても」

「何でよ！　なんで風なの！？」

　何でって言われてもなぁ。

「そういうものなのですよ」

「なにさ、それ！　何で土の弱点が風なの？！　防風壁ってあるじゃん！　あれって、風を防ぐんでしょ？！　なら、風より強いんじゃない～！」

　文句たらたら、断固として認めようとしない女子高生。そういうもんだとすんなり理解してくれないと、この先困る。

「取り合えず、土の弱点は風だって覚えておいてくださいね。この世界の常識、ですから」

「そんな事言われても、学校で習ってない常識をどうやって覚えればいいのよ！」

　有無を言わさない俺の物言いに、己の無知を他人に責任転嫁しては不貞腐れる彼女。そもそも、なんでこんな初歩の初歩な事を教えなきゃならんのだ！　俺の方が不貞腐れたいわ！

　……やっぱり、俺が黒髪女子高生（この子）に変わってこの世界を救った方が、手っ取り早いと思う。思うが、それに関してはすでに話はついているし、大体あんな召還のされ方じゃあ、俺はなんの期待もされていないって解っちまったしな。

　まだブチブチと文句を垂れている黒髪女子高生に愛想を尽かしつつ、俺はこの世界に来た時の事を思い出していた。