ＪＫギャル勇者を育成せよっ！！ ～アイツが勇者で俺がモブ！？～

第2話 王道なんてモノとは程遠く

「──はぁ！　はぁっ！　ち、ちくしょう！　なんでこんな事に、なってんだよっ！」

　激しい息遣いと情けない文句が、フクロウみたいな鳴き声と共に、月明かりのみで電灯どころか灯り一つ無い、笑えるくらいに真っ黒な夜の森に溶けていく。

「それよりも、ここはいったい、どこなんだよっ！」

　走る先も足元も真っ暗で何も見えず、そもそもどこに向かって走っているのかも分からない。ゴブリン（ヤツ）が居る時点で異世界に来たのは間違いないだろうが、それ以外の情報が無さすぎる！

　ならばと、ＧＰＳどころか、地図すら無かった昔の人が目印にしたという星を探そうと顔を上げるが、枝葉に塞がれた空はとても狭く、しかもそこから覗くお月様は、俺の知っている数の倍はあって、しかもその内の一個はどういうわけか砕けてた。あんなデカい星が砕けるなんて、何があったんだよ！？

「グギャギャア～！」　

　だが、すぐ後ろから聞こえてくる、その下品で知性をまるっきり感じさせない叫び声のせいで、それ以上気にしちゃいられなかった。

「はぁっ！　はぁっ！　はぁっ！」

　首がちぎれんばかりに振り返る。

　ほぼ距離を置かずに追ってくるゴブリン。そのニヤけた口端から伸びる牙が、枝葉から差し込む僅かな月明かりを受けキラリと光る。なんで俺は、あんな下品そのものな恰好したヤツとこんな事をしてるんだ！？　大体、なんでゴブリンってヤツは毎回そんな恰好なんだよ！　イノシシ頭を被ったどこぞの鬼狩りだって、ズボンくらい履いてるぞ！

「なにが煌めく宇宙空間だ！　なにが金髪美人の女神だ！　そんなモン、どこにも無ぇじゃねぇか！！」

　女神様に会って、勇者になって、チートで俺ＴＵＥＥＥでハーレムで──なんて期待していた俺がバカだった！　マジで浮かれていた俺をもう一度殺したい気分だ！

「ギシャシャ～！！」

「とりあえず逃げる！　あれこれ考えるのはそれからだ！」

　文句も苦情も後回し。そんなモン、薄汚ねぇアイツから逃げられたら、後で嫌ってほど出来る！　出来るが、やっぱり納得いかねぇ！

「なんでだよっ！？　ちゃんとテンプレ通りだったじゃねぇかっ！　突っ込んでくるトラックから逃げる時も足が動かなかったし、怪しい声も聞こえただろ！　なのに、なんでいきなりゴブリンと鬼ごっこをしなきゃならんのだっ！」

「ゲギャギャ～！！」

　確かに、投稿サイトの異世界物の小説を読んだ時、普通の異世界転生モンなんて今時流行らねぇなんて、文句を言った事もあったよ。

　だけどな、安心安全各種保証付きの異世界転生の王道テンプレからのこの展開は、誰も望んじゃいねぇっての！

「はぁ！　はぁっ！　痛っ！？」

　必死に足を動かし、纏わりついてくる枝葉を手で必死に掻き分ける。

　が、退け切れなかった枝葉が顔や首筋に小さな傷を作り、その度に鋭い痛みが走った。それが、コレは紛れも無い現実なのだと俺に突き付けた。

　──そう、ここは異世界でアイツは魔物。だから俺の願いは叶ったのだ。

　なので俺は、心の底から叫ぶ。感謝の言葉、ではなく思いっきりの恨み節を込めて──……

「ゼッ！　ハァ！　も、もう願い事なんかするもんか～！！」

　だがそんな恨み節も、夜鳥の鳴き声であっさりと上書きされてしまったのだった。