息子が幼馴染恋人を寝取られて自殺した。後を追ったら過去に戻ったので今度は死なせない

無尾猫

息子が自殺し、一人残った俺も後を追ったら……



 息子が自殺した。


 仕事の途中で突然息子が通っている高校から電話が来て知らされた。

 校舎最上階の窓から飛び降りて頭から落ちたらしい。


 それから葬式やら何やらであっという間に時間が過ぎた。

 その最中に息子が部屋に残した遺書を見つけた。


 遺書には俺に対する謝罪と、自殺するに至った理由が書かれていた。

 幼馴染でもあった恋人に浮気された上に捨てられて、そのショックから抜け出せずにこのような選択をしたと。


 その幼馴染とやらは泣きながら葬式に来てたが門前払いした。

 それでもただでは帰らなかったから、遺書の内容をぶちまけてやった。

 そうすると息子の幼馴染は周りから白い目で見られて色々耐えられなくなったのか、そのまま逃げ帰った。


 葬式の後でその女の父親が来た。

 子供を通しての昔からの付き合いで、俺が仕事で忙しい時は息子を預けたりもした仲だ。

 ただ、母親の方は最近病気が悪化して来なかった様だ。

 彼は娘のやった事について俺に深く謝罪しながら巨額の慰謝料を払うと言ったが、断った。


 今更金を貰った所で息子が返ってくる訳でも無く、何もかも遅い。

 俺の妻は息子が五歳の頃に事故で亡くなった。両親も妻と結婚して間もなく病気で亡くなった。兄弟はいない。

 妻が残してくれた息子だけが最後の家族で、俺の生き甲斐だったのに。


 その息子がいない今、もう俺も生きる理由が無い。


 俺は最大限周りに迷惑を掛けないで息子の後を追う準備をした。

 皮肉にも、息子の葬式などでどうすれば迷惑が減るか理解出来た。


 もしあの世があるなら、もう一度妻と息子に会いたいと思った。


 ………


 ………………


 ………………………


「あなた!あなた!」


 懐かしい声が聞こえる。


 妻の声が……


「あなた!しっかりして!」


 ここは……あの世か?


 目を開けて見ると、正面に妻のユイがいた。


「なっ!?」


 驚いて周りを見回した。


 ここは……昔の家の居間?


 そして生きている妻……


 まさか、時間が戻ったのか?


「どうしたの?うなされてたわよ」


 心配そうに聞いてくる妻は余所行きの服を着ていた。


 最後に見た時と同じ様な服を……


「!なあユイ、お前!今日何処に出掛けるんだ?」


 俺は横になっていたソファから身を起こして聞いた。


「寝ぼけてるの?大学時期の友達に会いに行くって言ってたじゃない」


 やはり!今日は妻が事故で死んだ日だ!


「ユイ、頼む!急で悪いけど、今日はどこにも出て行かないでくれ!」


「どうしたの急に。昨日までは大丈夫だって言ってたじゃない」


 確かに前回は妻を快く送り出した記憶がある。それで一生後悔した事も!


「実はさっき、お前が事故で死ぬ夢を見たんだ。頼む、今日だけは行かないでくれ」


 寝起きだという状況を使って何とか理由を捻り出した。

 実際、起きる前までの事が夢だったとしたら嘘にもならない。


 時間が戻ったのか、未来の夢を見たのかは分からない。

 それでも今送り出して一生後悔するよりはマシだ。聞き入れてくれ!


「……仕方ないわね。今日だけよ?」


 妻は本当に仕方ないという顔でスマホで連絡を取りながら部屋に戻って着替えた。


 良かった……。これで妻が今日死ぬ事は無い。


 事故現場を迂回して行くように頼む事も出来たが、その場だけ了承して無視される恐れもあったから、家に引き留めたのだ。

 今後別の理由で妻が死ぬ可能性もあるが、事故なんてそうそう簡単に遭う訳じゃない。

 それでもまた事故に遭ったら、諦めるしかないな。


「あれ?今日ママお家にいるの?」


 感懐に更けていると、息子のユウジが出て来た。


 ああ、そう言えばこの時期は六歳だったな。こんなに可愛かったのか……。


「ええ、パパにお願いされてね」


「やった!じゃあママも一緒に遊ぼ!」


 息子は妻が家に残る事を純粋に喜んでいる。


 まあ、今日出て行ったら事故で死んでたかもなんて想像出来ないだろうな。


「今日はナツミちゃんが遊びに来る予定でしょ?ママよりもナツミちゃんの相手をしてね」


「そうだった!」


 ……そうだった。


 川上ナツミ。


 息子を自殺に追い込んだあのクソビッチの事もあったな。

 何が大きくなったらユウジと結婚する、だ。裏切る癖に。

 こんな事なら自殺する前にあのビッチも一回殺しておけば良かったな。


 自殺してタイムリープするとか想像も出来なかったんだが。

 それとも今の状況自体、俺が死んでる間に見てる夢な可能性もあるが……


 あれこれ考えても仕方ない。

 今は今の人生だけを考えよう。

 あのクソビッチだって今は予備軍なのだ。

 今から目くじら立てても仕方ない……が。


 後で遊びに来るあいつを見て気持ちを抑えられるかどうか分からない上、避けるのがいいだろう。

 ただ、避けるにしても妻を家に引き留めておいて俺が出て行くのも体勢が悪い。

 アレが来たら部屋にでも籠っているとしよう。


「ユウジくん!遊ぼ!おじさん、おばさん、お邪魔しまーす!」


「いらっしゃい、ナツミちゃん」


「……いらっしゃい」


「ナツミちゃん!何して遊ぶ?」


 後になって川上ナツミが遊びに来たので挨拶だけした。

 息子を裏切る癖に能天気に笑いながら遊びに来るクソビッチ予備軍の顔を見ると、案の定黒い感情が湧きあがったので俺はすぐ部屋に籠った。




 それから俺は息子を川上ナツミを引き剝がす方法を考えたが、これと言っていい方法は思い付かなかった。


 単純に「仲良くするな」と言っても、理由が未来にある訳だから聞き入れて貰えないだろう。

 さらに悔しい事に、今の息子と川上ナツミは仲良しで妻も川上ナツミを気に入っているから、下手したら反発と疑念だけを買いかねない。


 頭を悩ませながら時間が過ぎる途中、妻からの相談で状況が変わった。


「本社に移動?」


「ええ、まだ提案の段階だけど」


 どうやら最近妻の働きぶりか評価されて支社から本社に人事移動する話が出たらしい。

 前の未来では聞かなかった話だ。……その時は既に亡くなっていたから仕方ないが。


「しかし本社に行くとなると……」


「引っ越し、しないとね」


 今の家と妻が所属する会社の本社は距離が遠い都合上、妻は通勤の為に引っ越しせざるを得ない。

 俺には俺の仕事があって、息子の小学校入学も間近に迫っている。

 全員で引っ越すにしろ、別々に暮らすにしろ、転勤を受けるかは早い内に決めるべきだろう。


「で、お前の気持ちはどうなんだ?本社に行きたいのか?」


「私は……行きたいわ。どこまで上に行けるか試してみたい」


「そうか、分かった」


 気持ちは直ぐに決まった。

 俺が仕事を辞めて、家族全員で妻に合わせて引っ越しする。


 会社でどこまで上に行けるか試したい妻の気持ちは俺にも分かる。

 そして俺は未来にて一人で息子を育てる為に必死に働いた経験もあるからか、その手の野心は落ち着いている。

 新しい仕事の当てもあるから、対して問題にはならないだろう。


 案の定、息子は引っ越しに反対して大変ぐずったが。


「やだやだ!ナツミちゃんと遊べなくなるのはやだ!」


 川上ナツミと離れ離れになるのが嫌らしい。

 俺としては精々するんだがな!


 息子がいくら抵抗しようが養って育てるのは親である俺と妻だから、息子に逆らえる力がある訳も無い。。


「ユウジくん!手紙書いてね!絶対また会おうね!約束だよ!」


「うん!約束!」


 引っ越しの日。

 息子と川上ナツミはラブコメのワンシーンみたいに別れの挨拶を交わした。


 しかし息子よ。そいつ、将来浮気するんだぞ……


 ちなみに文通は息子が小学四年生になった頃には途絶えた。




 それから時間が過ぎ、息子の高校進学に合わせて俺たち家族はこの街に戻って来た。


 妻が順調に昇進し元居た支社の責任者に任命されたので、出戻りしたのだ。


 俺はと言えば、未来の記憶にネットニュースなどで話題になった競馬試合や、高騰した株の情報、宝くじの当たり番号とかが頭に残ってたので、貯金や退職金を一部突っ込んだらバカみたいに金が膨れ上がって、今は在宅で資産運用しながら家事を引き受けている。


 タイムリープ様様だ


 妻は堅実に昇進する自分よりも、ギャンブルに半歩突っ込んだ俺の稼ぎがいい事に微妙な顔をしてたが、俺に仕事を辞めさせたと思う負い目もあってか文句を言わず受け入れてくれた。


 俺としても息子があの川上ナツミと再会する可能性があるこの街に戻るのには抵抗があったが、妻に合わせて戻ったんだからイーブンだち言いたい。……言えないが。


 そして息子が高校一年に二学期に入った頃。

 息子が家に一人の女の子を連れて来た。


「ただいま」


「お、お邪魔します!」


 忘れもしない、息子を裏切った時とまったく同じ顔立ちの川上ナツミだ。


 結局こうなるのかと、彼女の顔を見た時に俺は運命を呪った。


「……ユウジ。そちらのお嬢さんはどちら様た?」


 俺はこみ上げてくる感情を抑えながら、知らない振りして聞いた。

 ちなみに妻は残業でまだ帰って来ていない。


「ナツミだよ、川上ナツミ。ほら、昔ここで暮らしてた時よく一緒に遊んだ」


「……そういう事もあったな。大きくなったものだ」


 つい、低い声音とドラマの悪役かって口調で言ってしまった。まあいいか。


「あの、お久しぶりです!ユウジくんの幼馴染のナツミです!」


 川上ナツミが俺に頭を下げて挨拶する。


 幼馴染ねぇ……、前回はともかく今回そう呼ぶにはブランクが長すぎると思うがな……


「それで、今日は何の用事で一緒に来たんだ?」


「それは……その……俺、ナツミと付き合う事になったから、父さんたちに紹介したくて」


「そうか」


 歯を食いしばる。


 今すぐ川上ナツミをぶん殴りたかったが、何とか抑えた。


「……俺は反対だ。どこの馬の骨とも知れぬ小娘に息子は渡さん」


「父さん!?それ言うの逆じゃない!?」


「逆も何もある物か。それにこいつ、如何にも浮気しそうな人相をしてるぞ。こんなのと付き合ったらお前が傷付くだけだ」


「ナツミを悪く言わないでくれ!ナツミは浮気なんかしない!」


 するんだよな、これが


 でも反対してばかりだと息子に嫌われるかも知れないから、こちらから妥協するか。


「……いいだろう。遊びで付き合う分にはこれ以上言わん。好きにしろ」


 それで話を終わらせて、俺は自分の部屋に入った。


 後で探偵を雇ってアレの監視をさせないとな。

 それで浮気しそうだったら即息子から引き剝がしてやる。




 しかし浮気の兆候は現れないままさらに時間が過ぎて元旦。


 息子がまた川上ナツミを連れて家に来た。

 俺と妻に相談があるらしい。


 ちなみに川上ナツミについては妻とも顔合わせ済みで、俺が川上ナツミに探偵を付けたのも妻に伝えている。


「それで、相談って何かしら?」


 俺と妻、息子と川上ナツミが向かい合って椅子に座り、妻は話を聞きだした。


 俺が川上ナツミを毛嫌いしてるのはもう周知の事実で、話し合いは妻は担う事になってるのだ。


「その……実は、ナツミのお母さんが病気なんだ」


「あら、そうなの」


 そういえば、前の未来でもそう聞いてたな。


「その病気が、治療にすごく金が掛かる病気なんだけど、ナツミの家には金が足りなくて……その……」


 言い淀む息子。しかし何を言いたいのかは察した。


「ダメだ」


 そして言い出される前に切り捨てた。


 俺が突然静観を破った事に、息子だけでなく妻や川上ナツミも驚いて視線が集まる。


「他人の治療費を出すつもりはない」


「なっ、でもナツミのお母さんなんだ!ウチには金に余裕があるだろ!?」


「それでも他人だ。少なくとも俺は他人の治療費を肩代わりする為に金を稼いだ訳じゃない」


「そんな……母さん……」


 息子は縋る様に妻を見るが、妻は頭を横に振った。


「ダメよユウジ。ゲーム機とか買う小遣いとは違うのよ?

 仮に治療費を出したとして、川上さんたちはそれを返せるの?その間にあなたたちが別れたりしたらどうするの?

 逆に結婚したら帳消しにするの?それってナツミちゃんがウチに身売りする様な事なのよ?」


 妻が諭す様に言うと、息子も川上ナツミも言葉を失った俯いた。


 ……あっ、もしかして


 横でそれを聞いて一つ思い付く事があった。


 前の未来で川上ナツミが息子から他の男に乗り換えたのは、母親の治療費にする金目当てではなかったのかと。


 前回は一人でも息子を何とか不自由させずに育てたが、それでも金に余裕があるとは言えなかった。


 つまり前回の川上ナツミは息子との関係と、母親の命を秤に掛けて、母親を選んだという事だろう。

 そして今回は俺たちが金を持ってたから、乗り換える事なく頼って来たと。


 確かに探偵の調査結果では川上ナツミに未だ浮気の兆候はない。

 しかし息子と川上ナツミが付き合い始めた時期で既に、川上ナツミの母親の病気が悪化し始めたとも知った。


 つまり息子と付き合い始めた時点で、川上ナツミの中には既にウチの金に頼る算段があったのだ。

 幼馴染アピールもその一環で、だから浮気する必要もなければ息子の両親である俺たちの不興を買わない為にも浮気はあり得なかっただろう。


 そこまで考えて、俺は改めて川上ナツミを軽蔑した。


 前回は母親の為だったとしても、息子と別れてから別の相手を探すなどもっと筋を通したやり方もあっただろうに。

 その筋を通さないで長年付き合ってた息子を裏切ったから息子が自殺したのだ。

 そして今回はタイミングからして元から金目当てとして、前回ほど仲良くもなければ疎遠になってた息子に近付いた。


 見方を変えれば、母親の為に自分を犠牲にする美談にも見えただろう。

 しかしそれでよりによって俺の息子を振り回すのが不愉快極まりない。


「取りあえず、この話はここまでね。次は川上さんのお父さんも呼んで話し合いましょう」


 雰囲気が険吞になったのを感じたからか、妻が話を切り上げた。


「ナツミちゃん、お節あるんだけど食べて行く?」


「いえ……今日は帰ります」


 ついでに妻は川上ナツミを食事に誘ったが、彼女は気まずくなったのかそのまま帰って行き、


「俺も部屋にいるから」


 彼女を見送った息子も難しい顔で部屋に籠った。


「ちょっといいかしら」


 居間に残ってお節を食べていると、妻が声を掛けて来た。


「ユウジには悪いけど、川上さんたちとは縁を切った方がいいかもね」


 そう切り出された言葉に、俺は驚いた。

 今まで妻は、俺が川上ナツミを毛嫌いするのを窘める立場だったから、多少は向こうの味方をしてるのかと思ってたのだ。


「実は前から川上さんの両親から治療費を支援して欲しいと相談されてたわ。

 本当に病気で困ってるのか裏を取るために、あなたがナツミちゃんの監視を依頼した探偵に追加の依頼をしてたの。

 それで分かった事なのだけれど、川上さんの旦那さんの方が浮気してるんだって。奥さんの病気が悪化したのはそのストレスの所為じゃないかって意見もあるわ」


「それは……」


 俺は言葉を失った。

 訳は違うかも知れないが、親が親なら子も子という事か?


 もし前回も川上旦那さんは浮気してたのに、娘の不貞を謝罪しに来たのなら随分と肝が太いんだと思った。

 それに奥さんの治療費に困ってるのに、慰謝料を払うと言ったのは何だったんだろうか。

 断られると知った上で言っただけか?それとも新しい女の金か?


 展開が変わった今となっては分からなくなった事だが、唾でも吐いてやりたい気分だった。


「で、向こうからまたお願いして来たらどうするんだ?」


「まあ、そうなったら弁護士を挟んで踏み倒されないように念書か契約書とかを書いて貰わないとね。多分そうしたら蹴るだろうけど」


 妻はまるで確信する様に笑う。


 後日、話し合いの場で実際にそういう話に持ち込んだら川上旦那さんは逆ギレして、それで俺も確信した。


(ああ、返す気が無いんだな)


 踏み倒されたら流石に財産を差し押さえるが、それでも返済計画自体は無理のない物の筈だ。

 拒むだけなら返済能力が足りないからで済むが、怒るという事は実質ただで貸して貰えるとでも勘違いしてたんだろう。


 その後、妻がこう教えてくれた。


「あの後、あの親父が私に電話して来て、あなたの事をヒモとこき下ろしながら私を露骨に口説いて来たわ。一周回ってもう笑っちゃった。その後ブロックしたけど」


 俺も苦笑した。

 一応俺も在宅仕事で平均以上の収入はあるし、家事だって俺がやってるんだからヒモでは無いんだがな……


 そういう事もあって川上家とは本格的に縁を切ると決めた。




 ある日の平日。


「父さん、母さん、ちょっと聞いて欲しいんだけど」


 三学期になって学校から帰ってきた息子が真剣な顔で俺と妻に相談を切り出した。


 曰く、川上ナツミが「自分の母親が危篤なのに、恋人のユウジの家族に助けを求めてもただで金を貸せないからと助けて貰えない」と泣きながら被害者ぶって息子を悪者し仕立て上げたと。


 弱者は助けるべきという道徳の刷り込みを利用した悪質なやり方で、おかげで学校では息子に対するイジメは始まったそうだ。


「学校の先生とかはそれを知ってるのか?」


「知ってると思うけど、ナツミの理屈に絆されたのか、クラスの同調圧力に押されたのか、見て見ぬふりをしてるんだ」


 ……やっぱあの小娘は前回で一度ブチ殺しておくべきだったかな


「あなた、落ち着いて」


 俺がキレかけると、横にいた妻が宥めた。


「ああ、すまん。……ちょっと電話する」


 それから俺は即学校に電話した。


「もしもし。私はそちらの学校に通っている生徒の父親ですが……」


 電話の受け付けに出た人にそう告げると、学校の教頭が電話相手を代わった。

 どうやら寄付金を送ると予定していたから名前を覚えられえた模様だ。


 俺は教頭に対して息子がイジメを受けている状況やその原因を息子から聞いたと説明した。

 そして病気の人にただで治療費を渡すべきだと学校も思うからイジメが放置されてるのか、もしそれが学校の意向なら予定していた寄付金を取り下げて息子も転校させると伝えたら、一発で電話越しに頭を下げられた。


「……これで少しはマシになるだろう」


「ありがとう、父さん!」


 近くで電話を聞いていた息子に言葉を掛けると、息子は尊敬の眼差しで俺を見つめた。


 ふはは、見たか息子よ、これが金の力だ。


 ……横で妻が呆れているが、気にしない。


 そして川上ナツミ及び彼女の煽動に積極的に賛同した学生数名がイジメを煽動した罰として停学を食らったそうだ。

 川上ナツミたちは金に屈した拝金主義者だと罵りながら学校に抗議したみたいだが、当然学校は聞き入れず処罰をもっと強くした。


 俺が金の力を使ったのは事実だが、川上ナツミがやったのは金を恵んでくれなかったからとイジメで報復した事だからな。

 ここに来て川上ナツミの意見を聞き入れると、本気で学校の評判に関わる。

 俺がそうさせる。


 事が落ち着いた後、息子が報告した。


「俺、ナツ……川上さんとは別れたんだ。父さんが言ったみたいに浮気はされなかったけど、流石にイジメを受けたら……ね」


「そうか。まあ他にいい相手がいるさ」


 息子が川上ナツミと別れたのを最後に、俺たち家族と川上家とは縁が切れた。

 その後、川上ナツミの監視を依頼してた探偵から、彼女が金持ちの息子と付き合い始めたという報告を聞いて、俺は探偵への依頼も終了させた。


 アレが息子を追い詰める事も無くなった今、もう何の興味も無い。




 それから。息子は遊びもしないで部屋に籠って勉強してる上に、この前は予備校に通わせて欲しいとお願いして来るなど、勉強に熱中して成績が目に見えて上がった。


 ただ、勉強よりゲームや恋愛ばかりだった息子が急に心変わりした事に違和感を抱いて詳しく聞いた。


「俺、気付いたんだ。自分に力が無いといざという時に何も出来ないんだって。

 そして最も分かり易い力は金で、今の俺が出来る事はとにかく勉強して将来いい仕事を選べる様にする事だけだと」


 なるほど。そういう気付きを得たのか。


 ……俺の所為か


 しかし息子よ。父さんは学生の内に遊びの恋愛を経験するのもいいと思うぞ?

 流石に浮気されて捨てられるなんて事もそうそうないからな。


「あと、金目当ての相手を連れてくると、父さんたちにも悪いからな」


 息子は嫌味では無く、本気で何かしらの自覚が芽生えた顔で言った。


 いや、あの時の馬の骨云々は相手が川上ナツミだから言った事で、それ以外だとあまり厳しく言わないが……


 まずい!このままだと孫の顔をいつ見れる様になるかも知れぬ!


 そのまま息子が大学を卒業して就職するまで、一度も浮ついた話を聞かなかったので、本気で不安になった。


 だがまあ、いいか。孫の顔を見れなくても。

 妻も息子も死なないで生きていてくれるんなら。




後書き――――――――――――――――

 近況ノートに長い後書きを書きましたので、興味がある方はどうぞよろしくお願いします。

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