星猫ジャックとミソラと闇の国(Short size)

小木原 見菊子

プロローグ

 月のスポットライトが差していた。

 美しい夜の森。


 ……月?


 あれは星の光かもしれない。

 金色の光。

 そして雲に覆われた闇がやって来る。

 真っ暗闇。


「どうしよう……誰かいませんか?」


 少女の声に、返事はない。


 風に騒めく木々。

 魚の跳ねる水音と闇。


 ゆっくり歩を進める。

 パキパキと小枝が折れる音が鳴る。

 少しずつなら進める。

 たとえどんなに闇が深くても。


 少女は息を吸い込んだ。


 りんごの花のほのかに甘い香り。

 湖が風に揺れる、水音。

 太陽の下できらきら輝く湖水を思い出す。


 月が——……光が再び差し込む。

 夜の森に。


「あれは……」


 猫の姿?

 光の中に。金色の、光の中に。


「誰かいるの?」


 少女の問いかけは闇の中に溶ける。

 暖かく優しい闇の中に。

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