救世超能JKs

冬見ツバサ

序章/Zufallsbegegnung

第1話-1 これからが彼女のはじまり

――WHELIMOT FARATCOS...


――TEDVENTH WHEPATATIE...



 遥かなる遠い時代。


――I'll stay here.


 恐らくこれは13回目。


――But.


 災厄の魔女はうたれた。


――You'll be fine.


 血を流して倒れる魔女、それを見つめる黒衣の者。


――No, Come with me.


 わたしはそれを眺めていた。


――But what about this place?


 三羽の鳥は歌う。

 それは、万物についての究極の疑問の答えを導き出した。


――Here, in this "Promised land", you shall find yourself even when you are at a loss.


 ラベンダー畑の中、眠りから目覚める男女。

 後ろには巨大な木が立っていた。

 やがて視界が花びらと羽根で覆われ、それらは黒に染まる。

 羽根の隙間はやがて星空になった。


――貴方は楽園に向かうのよ……。


『611』



――夢……?



 夜空にフレアスタックが輝く。

 炎が反射する川の向こう側には、窓明かりと赤く点滅する航空障害灯が支配する市街地。

 川のそばにある踏切が点滅し、遮断器が降りた。


 十両編成の蒸気機関車が走り抜け、客室車両の車輪が火花を散らす。

『D51-1955をテロリストが占拠』

 輸送機BAe 146が後を追う。

『列車は札幌方面へと向かっている』

 列車が向かう先にはテレビ塔がある。

『我々は特務超能力者サイキックを投入し、事態の収拾を図る』

 輸送機の中には人影があった。

 それは艶やかな黒髪に赤い目を持つ少女。

『作戦内容に変更なし』

『了解、ではこれより合図があり次第、特務超能力者サイキックの投入を行う』


『スタービジョン1号、スタービジョン1号、応答願う』

 輸送機の轟音の中、ハッキリとした通信音声が聞こえる。

 その少女は頬に残る涙を拭った。

「ごめん、ボーッとしてた……」

 機内で待機している少女は、自分の頬を叩いて不思議な夢から覚ましつつ応答した。

 彼女はピッタリと身体にフィットした黒いパイロットスーツのようなものを着ている。

 これにより、彼女のバイタルデータや運動機能、能力情報の測定・管理が出来るのだ。

 そして、棘の付いた物々しい首輪が嵌められていた。

『しっかりしなさい。貴方の今回の任務はテロリストの制圧と人質の救出よ、いいかしら。今は合図があるまで待機してなさい』

「わかってる。でも、人質がいるって以上、突入できる距離なら待機するのはおかしいんじゃないかしら。アンタ達の命令を待つなんてごめんだわ!」

 少女はそう言って、強引に扉をこじ開けて機外へと飛び降りる。

 突然の身勝手な行動に通信相手は狼狽うろたえた。

『ちょっと……バカ!』



 多層構造の司令室。

 中央の司令塔にはedeNの文字と、一部が欠けたイチジクの実のマーク。

 三人の若いオペレーターが第一層に座り、上部の第二層には強面サングラスの所長とスタイル抜群のメガネ美人副長が立っていた。

 正面のディスプレイでは、赤い電撃を散らす少女の様子がモニタリングされている。

「またですか……」

「これで24回目ですね」

 オペレーター達が笑いながら呆れ、副長は頭を抱える。

「もう、これは特務派遣以前の問題ね……」

 見かねたオペレーターの一人が副長に意見具申した。

「能力出力のデータだけでも収集しておきますがよろしいでしょうか」

「ええ、任せたわ、りん

「ソロモンⅢ、シスエレメントを開放、マイクロサテライトを形成、RAMをセントラルドグマに置き換え、プログラムコードのノタリコン化……完了」

『ソロモンⅢ、高効率集積モードに移行……』



 少女は赤い火花を散らし、磁力を操って電線を伝い、ワイヤーアクションさながらの空中機動で客車の上に飛び乗った。

 勢いよく着地した彼女は目の前を見る。

 車両の上には怪しげなバイザーと強化外骨格パワードスーツ、AK-47を装備したテロリストがいた。

「いたぞ、特務超能力者サイキックだ。撃て!!」

 バイザーとマズルフラッシュ、火花と流れ行く街明かりの中、少女は正確無比な赤い電撃を放つ。

 派手な赤い閃光により、周囲のテロリスト達は両手を広げて吹き飛んだ。

 電磁波による地形や敵の把握。

 少女に向かった銃弾は全て周囲で軌道を変え、明後日の方向へと飛んでいく。


「電磁バリアか……! アレを持ってきてくれ!」

 少女から離れた位置にいる、客車の天井ハッチから身を乗り出しているテロリストが車内に連絡をする。

 すると、対戦車ロケット砲が姿を表した。

「化け物が……これでくたばれや!」

 それを構え、少女を周り諸共粉砕しようと発射した。


 赤い目でそれを捉え、少女はPSIサイの出力を最大にし、髪が白く光って逆立った。

 そして、身体の至る場所がエラのように開き、そこから赤黒い電気を迸らせた。

赤雷レッドスプライトよ!!」

 直進するロケットはその電撃を浴びて空中で爆発した。

 赤雷レッドスプライトは遠くにいた射手にまで届き、吹き飛ばした。


 少女は客車の上を軽い足取りで走っていき、天井ハッチから中の様子を確認した。

「六号車に人質を電磁波と肉眼で確認」

 目立つ位置に縄で縛られている男性がいた。

 他に目立つものはない。

『そんなあからさまな配置……見え透いた罠よ。そっちは後回し、今は2号車へ向かって!』

 その通信の言葉に少女は苛立ちを表情に出した。

「それでも、見過ごすなんてて出来るわけないでしょうが! それに、彼は武器も持っていない……」

 少女は命令を無視して進む。

『命令よ、命令を聞きなさい!!』


――命令ばかりでうるさい!



 司令室では慌ただしくオペレーター達が情報の収拾を行う。

「……こりゃ、また失敗ですね」

 男性オペレーターが呆れた顔で言った。



 少女が彼を救出しようとした瞬間、縄が細かく解け、それが再び螺旋を描いて結び少女を縛った。

 男性は人質を装っていたテロリストだったのだ。

「うぐっ……縄をベースにした念動力サイコキネシス!?」

 そして、貫通扉が開き、中から大量のテロリストがやってきた。

「掛かったな……おい、お前ら、コイツを始末しろ!!」


 敵の一人が円筒状のものを投げつけた。

 そこからガスが噴射される。

「これは可燃性ガスだ。お得意の電撃は使えねえぜ、お嬢ちゃん」

 そう言って彼は拳を握る。


強化外骨格パワードスーツなんて持ち込んだのが命取りね!!」

 電磁力を操作し、周囲のテロリストを壁に押し付けて動きを封じた。

「ここではお得意の銃火器も使えないわね!」

 少女はそう言って、貫通扉からガスに満たされた車内を抜ける。

「ガスが別車両に漏れたら大変ね……」

 扉を閉めると五号車へと跳び、車両連結を切り離すために解放レバーを引くも、びくともしない。

 根本が瞬間硬化樹脂で固められていた。

「テロリストも面倒くさいことしてくれるじゃない……」

 少女は手刀を作り、そこにアーク放電による赤いブレードを形成。

 そのブレードで連結器を切断し、六号車から後は視界の彼方へと消えていった。


 貫通扉を蹴り飛ばし、五号車へと突入する。

 重装備の強化外骨格パワードスーツが客室の中央に居座っていたが次の瞬間、磁力によって吹き飛ばされ、天井を突き破って彼方へと消えた。

 少女は空いた穴から跳び、再び客車の上へと立った。

 前方には銃を構えた無数のテロリスト、左右にはテロリストのものと思われる攻撃ヘリ。

 少女はため息をつく。


 エラ状器官が限界まで開き、内部から黒い液体が溢れ、それが空気と反応して赤黒い火花と化した。

 その火花が少女の周りに集い、一際大きい暗黒の光に成っていく。

「PKサンダーボルト!!」

 収束した電磁波が雷雲を喚び、落雷が車体に直撃する。

 その膨大なエネルギーと衝撃が脱輪させ、客車の一部を停電に陥らせた。

 強力な磁力によりひずんだレールと脱輪した車両の影響で、蒸気機関車は勢いよく脱線して周囲のフェンスや電柱を巻き込みながら横転する。

 ガンゴンバキン!

 そのまま火花を散らしながら横滑りする車両が住宅地を巻き込もうとした時、少女は前に飛び出し電磁力を操作してレールに張り付き、受け止めた。

 その甲斐もあってか、ギリギリで車両は止まった。



 惨状を見た副長が呆れて言葉を漏らす。

『……全く……』

 言葉を失っていたオペレーターがようやく状況報告した。

『幸いにも死者0、重症者12、負傷者多数!』

 副長はその報告に安堵した後、堰を切ったように怒りをぶつける。

『どうして私達の言うことを聞かないの? それじゃ活動なんて夢のまた夢よ』

 その言葉に少女は反発した。

「死者0なら問題ないでしょ! お説教は聞き飽きた! さっきから……しつこいっ!!」

 そして、少女は身体に電撃を纏わせる。

 空間をゆがめるような赤黒い雷が周囲へ放たれ、電信柱や脱線した車両、建物を破壊していく。

 その力は周囲のテクスチャを剥がし、ついには虚構を潰した。

 周囲のテロリスト達の動きも停止し、部分的に欠けるなど見た目がおかしくなる。

 格子状の書割のような空間が露わになっていき、街の背景が消えていった。

 やがて、その書割も消え、蛍光灯と白い壁や床の目立つ実験室へと変化した。

 赤いランプを灯した黒い箱型の機械が煙を上げている。

 三次元立体投影シミュレーターは高圧電流により破壊されたのだ。


「私、なんかやっちゃったかしら」

 少女は悪びれもせずに言った。


 周囲でデータ計測を行っていた職員たちが驚愕する。

「おいおい冗談だろ?」

「シミュレーターの破壊はこれが初めてか……」

「なんかやっちゃった、じゃないんだよこの問題児が」

「シナプスのI/O領域の仮想隔離を限界まで行い、PSIサイリミッターを最大にしたのにこの威力とは……」

 一人の職員はその力を見て言った。

「化け物が……」


 少女はその言葉に苛立ちを覚え、舌打ちする。


――私に普通の自由を与えないアンタ達のほうが酷いよ。何が化け物よ……。

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