神の贋作と秘密集会 -2

「あれでは告解ではなく密告だな、ここをなんだと思っている」


 小窓の向こうにいた彼女が帰って、しばらく経った頃。

 ずっと黙っていたリベリオが、当然のように声を出した。表情は軽蔑の色が濃く、心の声も同じ。あからさまな態度で、苦言を呈していた。

「ここをなんだと言いますが……世間話にきているリベリオ様も同じようなものですよ」

「俺はピクシー様の見学だ」

 告解部屋は見世物でないのに、と思ったがそこには触れないでおく。

「最近多いですよ、こういった告解は……」

「そうなのか?」

「はい」

 少しだけ疲れたように返事をして、すいと立ち上がる。

「昔は法も整備されておらず、神だけが赦しを聞く事ができたとされていました……ですのでこうしてヘロンベル教の告解部屋は存在しますが、現在のヴィカーノ皇国にはきちんとした皇国警備員も配備されております。神だけではない、法で裁かれるようになった今告解部屋の存在は形を変えております」

「……なるほどな」

 エヴァの言葉を、リベリオは噛み締めているようだった。

 それが偽物祭司としてなのか、それとも教皇の息子としてなのか。エヴァにもわからず、聞くのは野暮だと思っている。だから彼の方からそっと、目線を外すだけだった。

「時にシスター」

 そんな彼は、なにを思ったのかエヴァの名前を呼ぶ。

「今回のような場合、シスターはその真相まで調べるのか?」

「稀に、本当に困っている場合はしますが……時と場合によります。私はあくまでも、告解部屋のシスターですので」

 エヴァは振る舞いや言動に反しお人好しの自覚もあったが、この点は折れなかった。

 やったところで、エヴァに利点があるわけでもない。

 答えは、言葉はすべてこの告解部屋が教えてくれる。そう考えていたエヴァにとって、告解部屋の外まで面倒を見るという発想はほとんどなかった。

 あったとしても、かなり困っている人への救済のみ。

 それがエヴァという名の、世間の呼び名を借りるならピクシー様という存在であった。

「なんだそれは、勿体ないじゃないか」

 しかしそれを良しとしないのが、この前の前にいる偽物祭司のリベリオだ。

 エヴァの答えに目を丸くすると、わざわざ視線を外していたエヴァの顔を覗き込むように首を傾げている。

「ここまで話を聞いて、困っているのにそれで終わりなのか」

「告解部屋はなんでも屋ではありません」

「しかし、これで聞いた事の真相を暴けばピクシー様の評判がまた上がるのでは」

「私は、評判なんてほしくてやっているわけじゃないと」

「それは何度も聞いているが……」

 リベリオは、この話を聞いて終わりという今の現状に満足言っていない様子だった。少し寂しそうに目線を落としている姿を見ると、エヴァはなにも言えなくなってしまう。

「……ここで下手に私が動くと、告解部屋の主である事がバレる心配も出てきます。告解部屋での事は当然他言無用なのに、その事を知っている人間がいたら元も子もありません……私はあくまでも、人の心に触れるためにやっているだけで、謎解きをしたいわけではありませんので」

 その真っ直ぐなエヴァの言葉に、さすがのリベリオも返事はしなかった。代わりになにかを考えているのか目線を下へ落とすと、すぐに閃いたように顔を上げる。

「ならば、俺が先ほどの件を引き受けよう――侍従役として、協力をしてくれないだろうか」

「……お断りするという事は」

「侍従役は、祭司などの身の回りを世話する……そんな役だったな?」

 有無を言わせない、そんな言葉だった。

 リベリオの言う通り、役である以上仕事をしないわけにもいかない。むしろここでリベリオを一人動かしてなにかをされたら、仕事をしない侍従役だとまた変な噂を流されてしまう。それだけは、エヴァも避けたかった。

「……本当に、あなたと言う方は」

 人の心を扱うのが上手い。

 エヴァのように心の声は聞こえないはずなのに、ここまで動かせるのはある意味才能だなと考えた。

 エヴァには、心の声が聞こえても人を動かすまでの力がない。

(もしかすると、感がいいのかもしれませんね)

「で、改めて返事をもらいたいのだが」

「……侍従役の範囲として、対応をさせていただきます」

「そうでなくては」

 嬉しそうに笑うリベリオの顔は、夜だというのにやけに眩しい。

 かくしてエヴァにとっては不本意な、シスター達の身辺調査が始まる事になった。


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