第4話 栗毛修道女、友達と合流する。

 それからセピアさんは私に初心者用の装備+αくれて、初心者二人でいける適正狩場を教えてから去っていきました。私は貰った装備に着替えて茉実ちゃんとゲーム内でおしゃべりしながら色々とUI、つまりユーザーインターフェイスについて説明することにしました。


「ナツキさんって呼ぶなってー。そうは言ってもなー、ってアユはどう思う?」

「あはは!アユはどう思う?って私に聞いてるラピスちゃん面白い!」


ピコン


[私のこと茉実って呼ぶなー!って言ってるようなものでしょ?正しいと思うよ、親しき中にも礼儀ありってね。ここはゲームなんだからラピスちゃんは気をつけてね?]

[はーい。にしてもアユちゃんVRゲーム初めてだよね?覚えるの早くてびっくりだよー]


 街の中央広場にあるベンチに座って初心者プレイヤーのアユちゃんとお話ししながら操作方法を簡単に説明してるだけなのに飲み込みが早く、オープンに話せない内容はメール機能で茉実ちゃんがそこまで間隔を開かずに送ってきたのは本当に驚きだ。もう普通にゲーム内で会うだけなら大丈夫かな。


「もう会話とか動きだけなら問題なさそうだし、それじゃアユちゃんの就職に行こう!」

「まだ迷ってるのにー!ま、ラピスちゃんが楽しそうだからいいけど」


 アユちゃんは魔法使いになりたいそうで魔法研究所に二人で向かいます。


「職業には基本の四系統スキルがあるの。アユちゃんは水属性魔法が使いたいんだよね?」

「そだよー、鮎って魚だもん」


 茉実ちゃんの"アユ"というプレイヤー名は魚の名前から取ったらしい。昔に川で食べた塩焼きの味が忘れられなくて、高校卒業して少し自由になったら一緒に旅行に行って食べようとリアルでも話してたっけ。


「水属性魔法は基本的に威力が弱いけど応用力が高いのがポイントだね。上位スキルまで覚えると氷を作ったり津波を起こしたりできるよー」

「ラピスちゃんって本当に詳しいねー。けどどうして聖職者以外のスキルとかまで覚えているの?」


 アユちゃんが首を傾げながら聞いてくるんだけど可愛いなー、もう。


「ヒーラーって仕事はね、パーティメンバーの動きを見て的確に支援や回復を行わないといけないの」

「HPの減っている人に回復魔法をかけるだけじゃダメ?」

「うん。ヒーラーの魔法にもクールタイムがあるからね。余裕があれば全員を癒すけど、ヒーラーがいてもアイテムで自己回復の選択肢は捨てないでね?っと、脱線したけど色々な職業のスキルを覚えないとクールタイムでアイテム使えない人が倒れちゃったり、モンスターを一掃できるスキルの発動止められないように援護したり、発動スキルが物理か魔法かで威力を上げるために掛ける補助魔法の選択が出来ないからなんだ」

「そうなんだー。私も覚えた方がいいかな?」

「遊んでるうちに自然と覚えるから大丈夫だよー。普段見ないスキルは覚えててもしょーがないしね」

「りょーかーい」


 あえて教えなかったけど、無知のままだと出会い系直結厨プレイヤーが色々教えてあげると近づいてきてリアルについて聞いてくるんだよね。思い出しただけで気持ち悪いし、茉実ちゃんは知らなくていいの。私が守ってあげるんだから。


「ついったー!」

「いいね!」


 私がくだらないネタをやっても乗ってくれる茉実ちゃんが本当に好きだから。


「じゃあ、開けるね」


 私が頷くとアユちゃんは魔法研究所のドアを開けて中へ入っていく。その後ろを私は追いますが何というか⋯⋯、薬品や知らない鉱石、爬虫類の標本など魔女が好みそうなイメージの場所で少し気後れしちゃいます。


「あの、魔法使いになりたいんですけど」

「そうか。着いてきな」


 アユちゃんが一番奥にいた局長っぽい人に尋ねると棚がスライドして更に奥の部屋への入り口が現れました。


「え?大丈夫なの?」

「んー、めちゃくちゃ怪しい感じするよね!いってくるからラピスちゃんは待っててー」


 んー、んー、と待つこと3分、長くない?と思いながらも魔法研究所内を物色し始めた私は隠しクエストらしきものをなんと見つけてしまいました。


「ただいまー。ってラピスちゃんどうしたの?」

「ふっふっふぅー。アユちゃん、コレ持ってあの人に話しかけて見て」


 ?を頭に浮かべながら私の指示に従うアユちゃんは青色の液体と炎の結晶を砕いた粉を持ちながら左にいたメガネをかけた研究員に話しかけ、予想通り私の時とは違った反応がありクエスト開始の気配を感じました。


「これって?」

「クエストだよ。たぶんクリアすると魔法使いのスキルが貰えると思う」

「なるほどー、簡単にクリアできそうかも。やってみるね」

「え?」

「スキルってこうかな?"バブル"っ!」


 その説明を聞いたアユちゃんはさっそく水属性魔法"バブル"を発動させる。基本的にスキルはスキル名だけで発動できるが、威力が高い上位スキルほど発動までの時間が長いのでプレイヤーが勝手に詠唱を付けていたりする。でないと発動までの間、棒立ちなので非常にシュールなためみんな好き勝手に詠唱呪文を付けるのだ。


「それから"リトルファイア"っと」


 アユちゃんは二つのスキルを立て続けにスキルを使って泡を炎で相殺させてスキルを消し去りました。


「って、なんでスキルが使えるの!?スキルポイントは??」

「なんでって、"見習い"のジョブは最初から全部のスキル系統使えるじゃん、見習い限定のスキルだけど。正規転職してたらスキルポイント使わないと無理だったからラピスちゃんが今見つけてくれて助かったよー」

「えー!もしかして聖職者にも"見習い"があって隠しスキル貰えたパターン!?」


 確かに私は正規転職して前に覚えてた神聖魔法はロック解除により使えるはずで、まあその穴埋めと思えば新スキルを新規プレイヤーに付与するのはある意味で初心者救済なのかもと思いながらも他にも探してみると、魔法研究所内にやっぱりクエストが他にも隠されていて、そんなこんなでアユちゃんは新しいスキル派生である火+水、水+土、土+風、風+火の四系統派生スキルの初期魔法を覚えたのであった。

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