第29話 エピエピローグ 終末は異世界で

--------------地球滅亡まで残り5日 ハナ視点--------------



お兄ちゃんが生きていた!

白い穴に落とされたお兄ちゃんは、穴の先、この世界にちゃんと到着してた。

木に貼ってあった紙に落ちて来た人の名簿もあって、ちゃんとお兄ちゃんの名前が載っていた。



「この森がジャパンフォレストで、西隣にある森がアメリカンフォレスト?……で南の森がフランスフォレスト」

「フランスは3人、アメリカはひとり、でジャパンが優希くんか」

「5人、たったそれだけなの?」

「海外で穴に落ちた人はもっといた気がするが…」



お姉ちゃんやお父さんや健人叔父さんが紙を見ながら話しているとさっきの3人がバイクを端に停めた男の人を連れて戻ってきた。



「その紙が貼られた時はまだそんなに穴に落ちてなかったみたいで」

「昨日あたりから飛び込む人が増えだしたよな。俺らもそうだし」

「あの、もしかしてその紙を貼ってくれた山田優希さんの知り合いの方ですか?」


「母です」

「姉です」

「父です」

「妹です」

「叔父です」

ワフン! 「チロです」チロの通訳をしてあげた。



バイクの人を除いた3人が驚いていた。

「あのイジメの」とか「落とされた…」とか何か小声で他のふたりに囁いていた。

お姉ちゃんはこの何か変な空気を打ち消す。


「そうだ、ここ以外、東と西だっけ?その広場には今何人くらいいるんですか?」


「あぁ、かなり落ちてきてます。何人だろう」

「岩倉さんが名簿作るって言ってたぞ」

「ええと、ちょっと今どんどん落ちて来てるので人数は不明なんですが、東も西も広場からはみ出てかなり森の中へと広がって待機してる状態です」

「そうそう、同じ場所に集まった方がいいって、最初ここや東に落ちてきた人も西に集めたけど、どんどん落ちて来るから東にもグループを作って、ここ南にもグループを作ろうとしてたとこです」



早くに落ちて来た人達の中で岩倉さんと言う人がリーダーとなり、西の広場を拠点にしていろいろ動いているそうだ。

置いてあった物資の管理や落ちて来た人の名簿作成、車やバイクの駐車場所の指示などを行っているそうだ。


ちなみに岩倉さんとその仲間数名は元市役所勤めだったとの事。

お姉ちゃんが「なるほど〜」と言ってた。

あと、ちなみにこの3人は植田さん、岡野さん、寺田さんだそうだ。

そんなに人の名前と顔覚えられないよー。

名札とか付けてほしい。



「西のテントにも行きました?」


「ええ、もちろん」


「じゃあ優希に、優希はそこにいました?」


山田家の視線が植田さんに集中する。


「あ、いや、いなかったよな?」

「うん 西の水場のテントに優希さんやライアンさんがいた荷物とかはありましたが、あの名簿の5人はいなかったんですよ」



どうやら最新の貼り紙に、街へ移動した旨が書かれていたらしい。


「ええと、街と3つの森を行き来しているみたいな事が書いてあるって岩倉さんが言ってたよな?だからこの森で待っていれば街から誰かが来てくれるから、とりあえず待機しようって話です」


どうやらお兄ちゃんは街にいるみたいだ。


「街に行く?」

「いや、下手に動いて優希と入れ違いになってもな」

「そうね。街と言っても街のどこにいるのかもわからないし」

「無事でいる事がわかっただけでも嬉しいわ」

「とりあえず、西にいる代表の人に会ってこようか」

「お父さん、私が行くわ。他の貼り紙も見たいし」

「お父さんも一緒に行こう。みんなはとりあえずこの南の広場で待機していてほしい」


お姉ちゃんとお父さんが西の広場に行くと決まった。



「ハナちゃあああん!ハナちゃん! 大変なとこに割り込んでゴメン」


カノちゃんが走ってきた。


「ハナちゃん、あ!お兄さん見つかって良かったね。それでね、うちのお兄とも連絡取れたんだよ!」


「んん? 蓮さんと? 穴に入る前に?」


「違う違う、たった今だよ」


「おお!蓮さんも穴に入れたんだ!」


「違う違う、違うの! まだ地上なんだけど!お兄とLAINEが繋がった!」


「何ですって!」


お姉ちゃんが凄い形相でスマホを操作し出した。


「驚いた……地上とネットが繋がる…」


いや、驚く事?

うちらのLAINEが繋がってるんだから。



「私とした事が!」


と呟いたお姉ちゃんはワゴンへ走って戻り、パソコンを猛烈に鬼叩きしていた。

西の広場へはお父さんとお母さんが向かった。


私はカノちゃんリノちゃんと3人でチロの散歩(トイレ)のため、広場をぐるぐる回った。

迷子になると困るから森へは入らないようにと健人叔父さんから言われたが、チロが森入りたがり、止めるのに苦労した。

もしかして、チロはお兄ちゃんの匂いに気がついているのかも知れない。


それから、ワゴン車から降りて来たお姉ちゃんに指示され大忙しとなった。

森や広場、木々の隙間から見える変な月、上空のモヤなどを各自がスマホで撮影をして、どんどんとネットにUPしたり知り合いに送るように言われた。


お姉ちゃんは西の広場に行ったお父さん達にもLAINEで同じ指示を出した。

そっちにいる人達がもしスマホを持っているなら再起動すれば立ち上がる事、今なら何故か地上と通信が繋がっている事を伝えて、「穴の先」はちゃんとある事を地上に広めてもらう。

 

もちろんフェイクとして叩かれる事も多いが、その画像や書き込みを見て、悩んでいる人の背中を押す事にはなったようだ。

森の中に車、バイク、自転車、徒歩など、人がどんどん増えていく。





--------------地球滅亡まで残り3日 ハナ視点--------------



白い穴に飛び込んでから2日が経った。

お兄ちゃんとはまだ会えていないが、森は人で賑わっていた。

広場の中央は落ちて来る人のために、ある程度の広さを開けてあるが、広場にはもう入りきれないくらい車が森の木の隙間に駐車していた。

車が通れそうな木々の間から森の奥へと、駐車スペースになりそうな場所を見つけては移動して貰ってるらしい。


うちらの4台は最初に停めた南広場の端っこをキープさせて貰ってる。

お兄ちゃんの貼り紙によると、森の中は危険な獣どころか虫さえも見当たらないと書いてあった。

なので皆(身ひとつで来た人も車で来た人も)地面に転がって休んだりしている。


この世界の今の季節が真冬でなくてよかったよ。(てか、この世界に季節あるのかな?)

生い茂る樹々のせいで空があまり見えなかったから、月ふたつを両脇に侍らせた太陽を樹々の隙間から見た時はビックリしたよ。

うん。異世界だね。


月がふたつあるくらいだから季節は五、六個あっても不思議じゃないね。

春、夏、猛暑、秋、冬、激寒……、猛暑や激寒はやだなぁ。

まぁ勝手なイメージだけどね。



ちなみにうちらはカノちゃんちのおかげで、豪華バスの中でお布団にくるまって寝かせてもらってる。

食べ物も分け合っているので特にお腹を空かせている人はいない。

食糧を持って来てない人には持ってる人が分けている。



チロは人気者だ。

散歩(トイレ)に連れて行くとそこら中から声をかけられて撫でられたりしてる。

あと俊くんやハルトくん達もチロが大好きでバスで寝る時はチロの隣が取り合いになってる。


カノちゃんというか途中からうちのお姉ちゃんだけど、蓮さんと密に連絡を取り合い、今日の昼、とうとうカノちゃん一家は蓮さんと合流出来た。


蓮さんは自衛隊仲間とその家族で西の広場に落ちて来たそうだ。

大きな自衛隊のバスみたいのが数台。

それから警察や消防の人達も続いて大型のバスで落ちて来た。

それでも全員ではないそうだ。

多くの人はやはり家族と家で静かに最後を迎えたいらしく、希望者のみを募って、最後の出発となったそうだ。



自衛隊、警察、消防の人達が来てから、森の中の人達の取りまとめが楽になったそうだ。

今までは一般の、民間人(市役所の人だけど)が民間人を取りまとめるから結構大変らしかった。

お手伝いしてたお父さん達はホッと息をついていた。


お姉ちゃんは相変わらずだ。

通信が繋がった事でバチバチとパソコンを叩いていた。

それでもやはり彗星衝突まで残り3日に入る今朝から通信がちょっとやばくなってきてるらしい。

お姉ちゃんの口から「チッ」とか「クソ切れた」なんて言葉が増えていく。





--------------ゆうき視点--------------



フランスフォレストに落ちてきた人から地球に彗星が衝突する話を聞いて、急遽ライアン達とジャパンフォレストへ向かった。

もしかしたらうちの家族がジャパンフォレストに落ちてきているかもしれない。


そうしてメリサスの街を出発して、小さな丘を登ったり下ったり、あ、もちろん馬車でだけど、結構なスピードで草原の丘を越えていった。

途中で野営をした翌日、最後の丘を越えて見えてきたジャパンフォレスト。


森から軍服のようなお揃いの服を着た人達が十数名見えた。

日本大好きミシェルいわく、皇居警察の制服らしい。

日本人の俺でさえ、皇居専用の警察があったなんて知らなかった。

もちろん制服も知らない。



馬車から降りてゆっくり近づいていくと、驚いた!

何に驚いたって、皇居警察の人達の後ろ、森の木々の間にたくさんの顔が見えたのだ!


うわああ、いったい何人落ちてきたんだろう?



「この国の方ですか?」


皇居警察のリーダーみたいな人の声に我に帰った。

ライアンやミシェル、パチェラとクラも口を大きく開けて驚いていた。

護衛の冒険者さん達も目を見開いていた。



「ああ、いや、俺らは地球人だ」


一番早くに復活したライアンが答えた。


「ライアンだ。俺はアメリカのフロリダだ」

「ミシェルです。フランス人、パリで落ちました。あ、この森じゃなくて隣の森に落ちてきたんだけど」

「クラよ。タイ。でもパリで落ちたの」

「パチェラだ。クラと一緒です」

「山田優希です。日本人です。よろしくお願いします」


「おっ、日本の子か。私は山倉と言います。それと後ろは部下達です」


「それにしてもずいぶんたくさんいるみたいね」

「やっぱり思った通り、さすがジャパンだよね!」


ミシェルは訳の分からない感動をしていた。



「困りましたね。とても馬車に乗せられる数じゃない」


護衛の冒険者さんが困った顔で俺達の顔を伺う。


「とりあえず森の中に入りませんか? 外は危険で落ち着かない」

「そうだな」


「危険とは?」


山倉さんが危険という言葉に鋭く反応した。

が、とにかく森の中へと誘導した。

そこらから顔を覗かせていた人達を掻き分けるように場所を空けてもらい、馬車もなんとか入った。


ライアンが山倉さんに森の中は安全だが草原には魔物がいる話をした。

それにしても森の中に入るとさらに人の多さに驚く。

そこかしこに人(日本人)がいる。


とりあえずここから近い東の拠点へ移動しようとしたが、山倉さんから南へ来てほしいとお願いされた。

南の拠点にやんごとなきお方と一族がいらっしゃるとの事。


「ワアオゥ!」


ミシェルが奇声を上げた。


「え、何?何事?ミシェル」

「だってだってやんごとなきお方だよ?」

「何だ?そのヤンゴン一家?」

「ライアン!無礼者ぉぉぉ!やんごとなきお方とは天皇様の事だよ!天皇様とそのご一族!」


あ、へぇぇ、そうだったのか。

よかったライアンが聞いてくれて。

日本人なのに知らないのかってミシェルに怒られるとこだった。


山倉さんの話によると、まだお若い天皇様皇后様と宮様がこちらに来られたとの事。

上皇さま(前の天皇さま、これもミシェルに聞いた)方は日本と最後を共になされるが、若い者には新たな国を創ってほしいと白い穴に入る事を薦められたそうだ。


で、天皇様御一家(とそのお供?)が皇居警察に守れつつ白い穴に入り、出たのが南の拠点だそうだ。

出来ればまず天皇様御一家を馬車で街に連れて行ってほしいそうだ。

という事で俺達は東の拠点から急遽行き先を南の拠点に変更した。




--------------ハナ視点--------------


今朝からネットが地球と繋がり辛い。

繋がってもすぐ切れる。


「混み合ってるのかな…」

「いや、電波が乱れてきてるんだろうな。いよいよか」


日本ではまだ小さな地震がたまに起こるくらいらしいが、海外では大きな地震や火山の噴火も始まってるらしい。

もうクラスLAINEも諦めた。

お爺ちゃんお婆ちゃん達へも悲しくなるから連絡はしない。

今朝家族全員で撮った画像をメールで送ったのを最後とした。



子供達はバスの周りで楽しそうに遊んでいる。

広場の向こう側には偉そうな人達に守られた天皇様御一家がいる。

守ってる人達は何か偉そうで怖そうだけど、天皇様御一家はとても優しい方達だった。

お兄ちゃんが落とされた事件も知っていて、お父さんとお母さんの手を握って慰めてくれていた。

そして貼り紙の事を知り、お兄ちゃんをとても褒めてくれて嬉しくなった。



チロが遠吠えを始めたので散歩にでも行くか。

子供達も寄って来る。チロと一緒に散歩に行きたいようだ。

カノちゃんとリノちゃんも誘い、チロのリードを握る。


ワンワンワンワンワンワン オオオオオーンオオオーーーン

チロが鳴き止まない、珍しく興奮している。

ま、まさか、ゴブリンの氾濫か!いや、ワイバーンが攻めてくるのか!

この世界に来てからスマホにダウンロードした異世界モノの小説を読んだので、異世界に詳しくなった。(あってるかはともかく)


「ハナちゃん、チロ興奮してるね」

「どうしよう…武器持った方がいいかな」

「え?何で武器?」

「だって、ゴブリンが」


話してる途中でチロが凄い力引っ張ったので手からリードがすっぽ抜けた!


「あ!チロ!」


チロが凄い勢いで樹々の間を抜けて走っていった。

近くにいたお父さんに声をかけて、慌てて追いかけた。



「チロぉ!待てこらああああ、勝手に行くなぁ!」


樹々の間を抜けてチロを追いかける。

そこらで休んでいる人たちが驚いた顔をしながらもチロの逃げた方向を指差してくれるのでありがたい。

見失わずにすむ。(見失ってるけどさ)


普段のチロは物凄く大人しいのに、何でそんなに興奮してるんだ。


ワッフワッフ ワンワンワンワン

チロの声が近くなった、誰か止めてくれたのかな、助かったぁ。


「チロぉ、もう!待ってって言ったのにぃ…」


と言いながら太い木の向こう側に出ると、そこにはチロが飛びつきまくってる人がいた。

チロが、飛びついてた人…、


「よぉっしヨシヨシヨシヨシ、チロ!チロだよな?」


って、お兄ちゃん!!!

お兄ちゃんだ!お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!


私はLAINEへ「お兄ちゃんいた」とひと言入れた後、お兄ちゃんに向かってダイブした。


「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん」

「は、華? 華だ!み、みんなも…?」


お兄ちゃんの顔がクシャっとなったと思ったら泣き出した。

私も釣られて泣き出す。相変わらず泣き虫だなぁ。

我慢強いかと思ったら案外モロかったりする、お兄ちゃんだ!


お兄ちゃんに抱きついて泣いていたらチロが間にネジ入ってくる。

ワンワンワンワン


「チロ、華、華、チロチロチロ…」


お兄ちゃん、チロへの愛のが多くない?

と、後ろからドカンとタックルされた。


「優希! ゆうきぃぃぃ」

「優希!よかった、優希」


お父さんとお母さんが私達の後ろからお兄ちゃんを抱き込んだ。

お姉ちゃんがお兄ちゃんの後ろから頭をポカンと殴った。


「もう!優希は心配させて!」


そう言って後ろから抱きついてた。


「おがあさんん、おどうさん!姉ちゃん、うわああああああん」

ワッオオオオオーン オオオオオーン


お兄ちゃんとチロ、大泣きであった。

いち早く我に返ったら、この団子状態の大泣き一家がちょっと恥ずかしくなった。

お兄ちゃんが膝をつくとチロがお兄ちゃんの顔をベロベロと舐め回す。

その瞬間に団子からの離脱に成功した。


見ると、健人叔父さん達や皆んなが来ていた。

そんでみんな涙ぐんでいたので、ちょっと恥ずかしさが減った。

周りの知らない人達も何故か涙ぐみながら拍手をした。

やめて、恥ずかしさがまたアップするから。




--------------優希視点 少し時間は戻る--------------


ライアン達、護衛の冒険者達、そして皇居警察の山倉さん達とで南の拠点に向かって森の中を進んでいた。

馬車は森に入った場所に置いて来たので徒歩だ。

森の中は本当に大勢の日本人で溢れていた。

拠点に近づくにつれて車が駐車してるのが目につく。


「車があちこちにあるね」

「車で穴に飛び込んだのか」


「そうですね、ここ数日はを穴探して飛び込む人がほとんどなので、車が多いそうです」


「拠点からそこらまで移動させたって事は、こっちの世界でも車は動くのか」


「ええ、でもまぁガソリンや電気が無くなれば、あ、こっちの世界にガソリンや電気はありますか?」


「いや、多分ないだろう」

「ないですよね? 馬や馬車の世界ですから」


「そうですか……では使い切ったらもう使えないって事ですか。残念です」


そんな話をしながら南の拠点の近くまで来た時、突然木の陰から犬が飛びかかって来て驚いたが、チロだ!

この毛並み、大きさ、鼻の形、肉球!チロだ!まごう事なきうちのチロだ!


チロがいるって事はうちの皆んなもいるはず!

そう考える間もなく妹の華が抱きついてきた。

気がつくとお父さんとお母さんとお姉ちゃんもいて、団子状態で抱き合って泣いてしまった。

あと、チロにベロベロされて顔がベトベトだ。


落ち着くと恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちでぐるぐるした。

ライアン達は優しい顔で見てた。

あ、俺ばかり嬉しくてごめんなさいって言ったら、クラに怒られた。


拠点まで行き、まずは天皇様御一家に挨拶をした。

ミシェルは舞い上がって噛み噛みだった。

皇后さまには「よく頑張りましたね」とハグをしてもらった。




「ゆうきはしばらく家族と一緒にいろ」


と、ライアンに言われてうちの車があるという方へ向かった。

ライアン達はいろいろ今後の事を話すんだって。

俺も行くと言ったら、後で知らせるから今は家族といろと言われた。

ライアン達にはいつも甘やかしてもらってるなぁ。



うちのワゴンまで行くと皆んなを紹介された。

姉貴に、穴に落ちてからの話をするように言われた。

俺も彗星衝突の話を聞いた。

話してる時、華が伊勢屋の「あん渦巻き」とシャトルーネの「マカデミアクッキー」をくれた。


「え、マジ、これ、俺のイチ好きのやつ!」

「ふっふ〜ん そう思って残しておいた。賞味期限はまだ大丈夫だよ」

「華ぁ、サンキューな。あ、でもライアン達に残しておこうかな。めっちゃ世話になってるんだ、ライアン達に」

「華、まだあるでしょ?優希はそれ食べな」

「うんうん。シャトルーネまだまだある。伊勢屋はねぇ、天皇様御一家に献上いたしまつりましたでござる」

「華ちゃん、日本語が変よ」



う、うめぇえ、キメの細かいカステラとあんこで渦巻きにしたやつ、サイコーだぁ。


久しぶりに家族と一緒にゆっくりした時間を過ごした、日が暮れた頃、ライアン達が戻ってきた。

お父さんとお母さんがライアン達に挨拶をしつつお礼を言ってた。


夕飯を食べながら、ライアン達は偉い人達との会議で決まった事を教えてくれた。


天皇様は地球が最後の日までここで過ごされるのを希望しているそうだ。

地球と最後を共にされる人達をここから見送りたいそうだ。

うん、俺も地球に残った爺ちゃん婆ちゃん達を見送りたい。


その後に天皇様御一家を馬車で街へ、のつもりだったがガソリンがあるうちに車で街までお連れするそうだ。

草原は何が起こるか、いつ魔物に襲われるかわからないのでスピードの出る車の方がよいだろうとの事。


それから空いている車に人々を詰め込んで森と街をピストン輸送するそうだ。

ピストン輸送の意味がちょっとわからないけど、まぁいいか。


自衛隊や警察の人が来てるなら、強い武器があるから魔物が出ても大丈夫じゃないかと聞いてみたら、

何と、穴からこの世界に降りた時に、武器は化石のように固まってしまっていて使えないとの事だった。


「そういう事か……」


ライアンが呟いて俺の顔見た。

あ、アメリカンフォレストに落ちてた石のライフル、あれってそう言う事か。

神さまが地球の武器をこっちに持ち込まないために、白い空間を通る間に石化する様にしたのかな。

ちなみに、バールやシャベルや鍬とかナイフ、包丁は大丈夫みたい。


奈良県から穴に飛び込んだ人で刀を持ってた人がいたんだけど、刀は石化しなかったらしい。

刀ってどう見ても武器…だよね?こっちの世界と同レベルだからいいのかな?

ちなみにその人は職業、刀鍛冶なんだって。

凄いなぁ、現代でもその職業ってあったんだって言ったらミシェルに怒られた。

俺ってホント無知で恥ずかしい。


ここジャパンフォレストに来た人達の救助の見通しはついた。

けど、他をどうするかで話合いは躓いた。

アメリカンフォレストとフランスフォレストは、明日の朝にでも自衛隊が車を出してくれる。

車なら途中一泊がいらないどころか、往復で半日もあれば大丈夫だそうだ。

落ちて来た人数によっては、そっちで待機をしてもらう。


問題はもっと奥の、まだ誰も行ってない森だ。

草原にどんな魔物が出るかわからない。

車よりスピードが速い魔物とか空を飛ぶやつとかが出るかも知れない。

自衛隊でも警察官でもせっかく助かった命を無駄にして欲しくない。

かと言って他の国の人を見捨てるのも………。


「クシャの実を使っても無理かなぁ」


「クシャの実とは?」


ライアンに付いてきてた山倉さんから聞かれた。

あ、クシャの実の話って言ってなかったのか。


「ええと、森に生ってる実なんだけど魔物が嫌うんだ。だけど、弱いって言っても俺より強いけど弱い魔物には効くけど強い魔物には効かないんだって」


「ゆうきがアメリカンフォレストやフランスフォレストに来れたのも、徒歩で草原を越えたのにクシャの実を持ってたから襲われなかったんだよね」


「うん。今日も自分の服や馬車にも、クシャの実の粉を擦り付けてきた」


ただ、クシャの実と車を使ってもどこまで行けるか不明である。

それと、他の国でも食糧を持って落ちて来てれば良いが、駆け込みで落ちてた来た人は身一つで来る者が多い。

食べる物も水もない。

助けてを待つのは不可能だし、そもそも連絡が取れないので森を出てしまう可能性が高い。

森を出る、つまり、死である。



「全員を救うのは無理でしょ!神さまだって出来ないんだから!」


「でも……」


「だから、運の良い人だけでも救えたら良いね大作戦!」


「え?」「は?」「何?」


姉貴がヘンテコな作戦名を挙げたが、皆、意味不明で理解出来なかった。


「だからね、今ならまだギリギリネットが繋がるのよ」

「うん、切れがちだけどね」


「え?ネットが繋がるの? 地球と???俺のスマホ ウンともスンとも言わないよ?」


「お兄ちゃん、スマホ再起動してみて」


無くさない様にいつも身につけていたスマホを取り出して再起動してみた。


「あああ!起きた! うっわぁ、使えない思って触ってなかったああああ」


「全く、さっさと再起動してくれたら連絡取れたのに」


華がぶつぶつと怒ってた。


「で、さっきの作成だけどね、森情報をネットに上げるのよ。皆んなで手分けして。出来れば海外の人がよく使用するサイトがいいんだけど」


「どんな情報を上げるの?」


「①森の外は危険 ②クシャの実を集めておく」


「水場の位置も。森の中は3拠点のどれかの方向の延長線上にある」

「あ、あと冒険者さんに聞いたんだけど、森の中に食べれる植物がある」

「え?そうなの?気がつかなかった」

「地面の中なんだって」

「根っこ?ジャガイモとか根っこ系?」


「クシャの実とその食べれる植物を撮ってきて!画像も載せて」


姉貴のひと言で皆んなはすぐに近場の樹々の間を探した。

それから手分けしてネットに載せまくる。

①森の外の草原は危険

②弱い魔物はクシャの実が有効

③森の水場

④食べれる植物

それから、近場から救出に向かう予定だが時間がかかる事、

救助は東側から向かうので森の東側に居てもらいたい事、

森の中で出来るだけ生き延びていてほしい事、


それらをネットに何度も何度も上げていく。


「この作成は、すべてが運にかかってる。運良くスマホを再起動でき、運良く私達があげたサイトを見る事ができ、運良く落ちたのが救助可能の距離の森で、運良く救助に行くまで生き延びたら。……かなり難しいよね」


姉貴が少し悲しそうな顔で囁いた。

でも、何もしないで諦めるよりずっとマシだ!




--------------地球滅亡まで残り2日--------------



ネットが繋がらない。

何かの拍子に繋がる事もあるので、まだ地球は消滅していないはず。

みんなスマホに齧りつき、繋がる瞬間を逃さず、情報を上げている。


それと、冒険者ギルドから頼まれたクシャの実の採取も終えた。

あまり摂りすぎてこの先実がならないと困るので、ある程度間引きをしつつ残してもいる。

ちなみに、クシャの実集めは森の中にいる皆んなが手伝ってくれた。


お父さんとチロが何故か俺から離れない。

いいんだけど、ライアンやクラの目が優しすぎてちょっと恥ずかしい。





--------------地球滅亡まで残り1日--------------



「ああああぁぁ、ダメだぁぁぁ」


姉貴の雄叫びが森に木霊する。


オオオーーーン


釣られてチロも遠吠えをした。


「ダメだ、完全に地上とネットが切れた」


どうやら地球はネットも繋がらないくらい何かのダメージを受けてるらしかった。

偉い人達の話合いで、今夜の0時ちょうどに全員で黙祷を捧げる事となった。


いつもは賑やかな森の中も今日は静かに夜を迎えた。

小さな子供達も早くに夕飯を摂らせて一旦寝かせたようだ。


スマホは電源は入るけどネットは繋がらない。

LAINEも。

ダウンロードしてあった物や写真やカレンダーは使えるけど、それだけだ。


もうすぐ地球が無くなる。

その前にみんなと会えて良かった。神さまありがとうございます。

穴に落ちたのも(いや、落とされたんだけど)意味があるのかも、この世界で頑張って生きていこう。


スマホの画面を見ると時計は23:48だった。

周りが少しずつ騒ついてきた。

眠っていた子供達を起こす人達、ぐずりながらも起きる子供。



【23:59】


広場の中央には皇族の方々、その周りに皇居警察や自衛隊、警察、消防、それからこの森に集まった人達。


「地球に敬礼!」

警察や自衛隊の人が敬礼する。


【0:00】


「黙祷ぉ!」


全員が静かに目を瞑る。

小さな子供にも「お目々を瞑って」と言う母親達。

静かな中に啜り泣きが聞こえ始める。


俺達が生まれて育った地球とお別れだ。

小さな啜り泣きが号泣に変わっていく。


バイバイ、地球。



--------------翌朝--------------



偉い人達の指示に従い、街への避難が始まった。

第一陣は皇族の方々及び皇居警察だ。

自衛隊のバスに乗車して街へ向かうそうだ。

冒険者のひとりが同乗した。


残りの冒険者と自衛隊の一部はふたつに分かれてアメリカンフォレストとフランスフォレストへ向かう。

ライアンとミシェルが案内として参加してる。

俺も行くと言ったのだが、周り中から反対された。



ライアン達は本当に半日で戻ってきた。

あんなに歩いたのに……、車ってズルい。

アメリカンフォレストからは8人、フランスフォレストからは17人避難してきた。

ちなみに森中を散策したわけではないので、東側にいた者のみを連れて帰ったそうだ。


うん。運だからしょうがないよね。

ちょっと悲しそうな顔をしてしまったのか、ライアンに頭をガシガシと撫でられた。


ちなみにジャパンフォレストに落ちて来た人は2万人弱いるそうだ。

住民一覧を作成していた岩倉さんと市役所仲間さん情報だ。



その後も計画通り街への移動が開始された。

バスや車を使っての往復だ。

ちょっと狭くても詰め込んで草原を突っ走る。

もちろんガソリンの残量の確認は怠らない。(らしい。俺が運転したわけではないので)


街の方でも大騒ぎだ。

まさか『落ち人』が2万人も落ちてくるとは前代未聞だと大混乱になってた。

急遽、街に隣接してジャパンタウンの建設が始まった。

もちろん日本人達も建設作業に参加している。

小さな子供や高齢者、持病のある者を優先して街の宿屋や空き家に臨時で入って貰ってる。


それにしても日本人の勤勉さに驚き、この街の人達にもすぐに受け入れられていた。

それに、街に馴染む速さにも驚いたそうだ。


皇族様方は王都で保護をしてもらえる事になったが、ジャパンタウンで過ごしたいとの希望もあり、王都へは挨拶に伺いすぐに戻られるそうだ。



そうそう、俺達は「落ち人クラン」の運営を続けている。

定期的にアメリカンフォレストとフランスフォレストでの探索をしている。

ジャパンフォレストはもう物資が落ちてくる事はないし、全員が無事に街に入ったので、探索はしばらくはしない。


ギルドからの依頼でアメリカンフォレストよりもっと西側の森の探索にも参加する予定である。

今はまだお父さんお母さんの反対が激しくて、ジャパンフォレストまでと言われている。


「お兄ちゃぁん、髪乾かしてぇ」


華に呼ばれたので(うちが借りている家の)リビングへ降りていく。


「お兄ちゃん、髪乾かして」


そう、俺は魔法(生活魔法だけど)が使える事を言い忘れていたのだが、街に着いてポロッと口にした途端、何故か華と姉ちゃんに猛烈に怒られた。

皆んなはジャパンタウンが完成してからギルドに登録するそうで、まだ魔法は使えない。



「風よ、我が手に宿れ、その」

「詠唱はいいから早く乾かして」


おおう、ぶった斬られた。


「そよかぜ〜〜〜」


華の濡れた髪があっと言う間に乾く。


「不思議だよね〜、コンディショナー使ってないのに仕上がりが柔らか〜。

お兄ちゃん、美容師になれば?」


「優希、ちょっと裏にゴミの穴掘ってもらえる?」


お母さんに呼ばれた。


「はーい」


俺は裏庭の隅っこに向かい土魔法を使う。


「穴ボコ!」


ボッコリ

結構深い穴が空いた。


「ありがとう優希」

お母さんがその穴にゴミを捨てた。


「優希、すまん」


お父さんに呼ばれた。


「悪いがこのコップに俺清水出してもらえるか?」


やぁめぇてぇえええ、そのネーミングは後悔してるんだから。

恥ずかしさで顔が赤くなるのを感じながら水魔法を使った。


「出ろ…おれしみず…」


ジョローン


「ありがとな。俺清水で水割り作ると凄く美味しいんだよ」


だからやめて、俺清水って言うの!




新しい街で俺の家族と新しい生活がスタートした。 


【完】

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