第20話 ジャパンフォレストに落ちて来た人

ギルドの方でも街中の宿屋を押さえに走ってくれていた。

馬車を複数借りたり、御者や護衛として冒険者の依頼を出した。

もちろんギルドが資金を出してくれた。


俺たち5人は手分けして3つの森をまわる予定だ。

アメリカンフォレストはライアンとクラ、フランスフォレストはミシェルとパチェラ、ジャパンフォレストは俺とジョリーだろうと思ってた。

もちろん護衛の冒険者さん達もいる。

だが、さっき俺が大泣きした事で4人とも俺と一緒にジャパンフォレストに行くと言い出した。


「俺もジャパンフォレストに行こう」

「僕も行くよ」

「あら、私がゆうきと行くから大丈夫よ」

「いや僕も一緒に行くよ、クラ」


「え?あの、ライアンはアメリカンフォレスト見に行かないと。ミシェルもフランス行きたいでしょ?俺は大丈夫だよ?……その、さっきは、ちょっと泣いちゃったけど…さ」


「いや、俺はアメリカはいい。ジャパンに行く」


「え、でもライアンだって家族が落ちてくるかも」


「いや、うちの親父達は落ちてこないさ。頑固な親父だからな、最後は家で向かえるはずだ。だからアメリカンフォレストの確認は冒険者達に頼むさ」


「うん。僕もフランスフォレストはいいや。戻ってきたばかりだし、僕は元々施設育ちだから、家族とかいないし」


「ミシェル…」


「僕らもな」

「ええ、タイに家族はいるけどそもそもタイの森がどこにあるかわからないわ」

「ああ。だからゆうきと一緒にジャパンフォレストに行くよ」

「ゆうきの家族を探しましょう」


「ありがっ ありがとう」


俺はまた涙腺が緩んで泣き出してしまった。

あと鼻水も崩壊した。


「ほら、ゆうき、鼻かめ」


ライアンがタオルを取ってくれた。

ズビビ、ズビッシ



準備を終えた俺たちは街を出発した。

西へ。


西へ西へ進む。


冒険者が跨った馬が数頭、自分達が乗った馬車と空の馬車1台。

空の馬車は見つけた落ち人を乗せるためだ。

もちろん馬車の御者席には冒険者さんだ。

俺たちは乗馬の訓練は始めていたがまだ軽快に走らせるとこまではいっていなかった。

なので馬車に乗せてもらうしかなかった。


壁のような横長の丘を越え、その先の丘を登り、下り、西へと向かう。

日が暮れたところで野営となる。

やはり馬車の移動だと速くて助かる。

明日にはジャパンフォレストに着くそうだ。


早く明日になってほしくて寝床に入るが、頭が冴えてしまって全然眠れない。

寝袋の中で何度も寝返りをうっていたら隣で寝ていたライアンに気づかれてしまった。


「どうした?眠れないのか?」


「あ、ごめん。うるさかった?」


「うるさくなんかないが、寝付けなそうだったからな。少し話すか。話してるうちに眠れるぞ」


「うん…」


「ゆうきの家族はどんなやつだ?」


「ええと…」


俺はポツポツと家族の話を始めた。


「父さん、母さん、姉と妹の五人家族で、チロという犬も飼ってた。うちで1番強いのは姉貴かな?見た目は小さいけどものすごいパワフルなんだ。あと母さんと妹も強い」


「ははは、まぁ世の中、女性が強い方が上手く行く場合が多い」


家族仲が良かった事、

学校の友達はいなかったけどネットの友人はいた事、

勉強もスポーツも得意じゃなかったけど毎日がそれなりに楽しかった事、

そんな事を話しているうちにいつの間にか寝ていた。


ジョリーに顔を舐められて目が覚めた。

空は薄明るくなってきていて、7つの月のうち3つは見えなくなっていた。



「ゆうき、起きたの?コーヒーとサンドイッチがあるわよ」


クラから差し出された朝食は昨日街の市場で買い込んだパンにハムを挟んだものだ。

お礼を言って受け取ってもそもそと食べ始めた。


明るくなって周りを見渡せるようになると近くにクシャの実の挿木と布の真ん中を赤く丸く塗った日の丸の国旗が刺してあるのを見つけた。

昨日はかなりの距離を移動したようで、あと少しでジャパンフォレストだった。


そう、実は街と森を何度も往復してる時に、森から取ってきたクシャの実の枝を挿木したり、森や街までの距離もわかる様に途中途中に目印の国旗を立てたのだ。

ただ目印を立てるだけだと魔物に壊されたりするので、国旗の横には必ずクシャの実の枝も一緒に立てた。

おかげで目印は壊されずに済んでいる。


この先の大きな丘を登るとなだらかな下りが続き、その先がジャパンフォレストだ。

丘の頂上から森が目視出来るはず。



俺たちは簡単な朝食を済ませた後、ジャパンフォレストへ向けて丘を登って行った。

丘のてっぺんの平らなところを進んでいた時、先頭の冒険者が大きな声を上げた。


「おい!ジャパンフォレストから人が出てきているぞ!」

「ホントだ!」

「結構な数がいるな。ひいふぅみ…10人はいそうだな」


その声を聞いた俺たちは馬車から降りて丘の端、冒険者の人達がいるところに駆けて行った。

丘から見下ろすと、その先にジャパンフォレストが見える。


森と草原の境目あたりに小さいが人影が見えた!

ひとりふたりじゃない、10人以上はいそうだ。


「おおおい!おぉーい!」


大声で呼びかけたが距離がありすぎて届かない。


「ゆうき、馬車に乗れ」

「移動しましょう!」


全員が馬車に駆け乗り、馬に乗った冒険者や馬車がスピードを上げて坂を下っていく。

緩やかな下りが終わり平坦な草原を森に向けて馬車が走る。

俺は馬車の横の幌を開けて顔を出してまた叫んだ。


「おぉーい!おぉーい!大丈夫ですかぁぁ」


向こうも俺たちに気がついたようで大きく手を振り始めた。

ライアン達も幌を上げて顔を出している。


「ジェド!少しスピードを緩めてくれ。先頭のリュアデム達にも伝えてくれ!」


ライアンが突然そんな事を言い出した。

ジャパンフォレストから来た人にあと少しで会えるのに、何で急にそんな事を言い出したんだ?

俺たちの方を振り返ったライアンは何故か少し怖い顔をしていた。


「幌を戻せ、顔を出すな。森の手前にいるやつら、一般人じゃねぇ。あれは軍人じゃないのか?軍服を着てるぞ」


ライアンが俺の顔を見て聞いてきた。

見ると森の手前に横一列に並ぶ人達が同じ制服を着ていた。

軍服?

わからないよ、日本の軍服なんて。

てか日本に軍はない、あるのは自衛隊。

たまにテレビ観る自衛隊の迷彩服ではない。


「武器を持ってるかも知れねぇ、油断するな」


俺たち一団はゆっくりと彼らの前で止まった。


「ゆうきはまだ馬車から降りるな」


馬から降りた冒険者達がゆっくりと進んでいく。

幌の隙間から見ていると向こうも緊張しているようだ。

あの服、警察官の服っぽくもない。

もっと偉い人が着てそうな?



「うぅん?見た事あるような?どこでだったっけ」


ミシェルが頭を傾げている。

向こう側に並んだ中央から多分偉いっぽい人がひとり、前に出て冒険者に近寄っていく。


「あーその、私たちは日本という国から来ました。あなた方はこの国の方ですか? …言葉、通じているのか」


「俺たちは冒険者だ。ここから東の街、メリサスからあなた方を助ける為に来た。馬車に乗って街まで案内する。詳しい事は街で偉いやつに聞いてくれ」

「全部で…12人か。何とか乗れそうだな」


「あ、いえ、私たちはこれで全員ではありません。まだまだ森にいます」


「何だって、他にもいるのか!」


驚いた、もっと落ちて来てるらしい。

ライアンから止められて馬車の中にいたが、突然ミシェルが叫んだ。


「そうだ!アレ、あの服って皇居警察の制服だよ!」

「え?公共警察?」


ミシェルの大声が聞こえたようで冒険者と話していた偉い人がこっちに顔を向けた。

ミシェルが馬車から飛び降りた。



「そうです。我々は皇居警察です」


「ゆうき、ライアン、大丈夫だよ。彼らは日本の皇居を警備している人達だ」


「そうです。よくご存知ですね」


「うん。僕って日本フリークだし、天皇さまの事も知ってるよ」


ミシェルが自信満々の笑顔で言った。

うう、俺なんて日本人なのに知らなかった。

あ、天皇さま皇后さまは知ってるよ?

でも、皇居の警備員の制服なんて知らないよ。

ミシェル、すごいなぁ。


俺たちは馬車から降りて森の手前にいた彼らに近づいた。

ふと森を見ると、そこには大勢の人が樹々の合間からこちらを見ていた。



そりゃあもう、ビックリするぐらい大勢の日本人が、いた。

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