第15話 東の森を求めて

俺たち5人と一匹は無事にジャパンフォレストに戻ってくることが出来た。


とりあえずミシェル達が休める場所を作らねば。

岩場の洞窟っぽい穴の中に立てたテントはそんなに大きくないのでふたり入ればいっぱいいっぱいだ。

だが大丈夫。

救援物資の中にはキャンプ用のテントがまだ他にもいくつかあった。


今まではライアンとふたりだったので他のテントは使用していなかったのだ。

洞窟の中は狭いので小さめのテントを張っていたが、岩の外なら大きいやつも張れる。

岩洞窟の中のテントは安全性を考えて女性のクラとジョリーに譲った。

俺とライアン、ミシェルとパチェラはそれぞれ近くに少し大きめのテントを並べて張っていった。


ミシェル達はここにある物資を見てかなり驚いていた。


「何で何で何でこんなにあるのよぉ」


「すごいな。テントだけじゃないよ、キャンプ用品も色々あるし、あ、イス え、これハンモック?使おうぜ。なっこれ使っていい?」


「缶詰がこんなに!量もだけど種類がすごい!ジャパンフォレストすごすぎるな。米ある!パスタ?乾麺も?うおおおおおおおお」


ウオオオーーーン


3人の興奮がジョリーにも伝染したようで空に向かって吠えていた。

ジョリー可愛い。


「落ち着いて、今夜は疲れてるからカレーでいいかな?レトルトだけど。ミシェルさんお米とか大丈夫?」


フランス人って毎日何食べてるんだろう?

俺の貧弱な知識によると、フランスパン…?とチーズとかそんなイメージしかわかない。


「え、僕コメ大好きだよー。よく寿司食べに行くよ。フランスは日本食多いし、フランス人は日本食大好きだよ。あとアニメも好きだ」


「あ、、うん。そう?ありがと。パチェラさんとクラさんもカレーでいい?」


「僕らの事は呼び捨てでいいよ?」


そう言われたけど、日本人は年上の呼び捨てはハードルが高いんだよ。ライアンだってやっと慣れたとこなんだ。3人がジッと見るので頑張った。


「う、うん、わかった。ミシェル、クラ、パチェリャ」


あぁ、噛んだ。

後ろを向いたライアンの肩が上下に揺れていた。

思いっきり笑ってくれた方が気がラクだよ!


夕飯を食べ、その夜は早めにテントで就寝した。


翌朝、陽が昇ってもおれを含めてみんなゆっくりと眠っていた。

ジョリーだけが起きて俺のテントにやってきてご飯を強請った。

俺の顔をベロベロ舐めまくる。

とりあえず枕元に置いてある箱からソーセージを出してむいてジョリーに上げた。


「ジョリー、それ食べたらもう少し待ってて。みんな疲れてるからもう少し寝たいよ。ジョリーは食べ終わったらクラさんとこ戻ってね」


ワフン


ジョリーが答えのは夢だったか俺はすぐに二度寝に入った。

次に目が覚めたのは昼近くだった。

隣を見るとライアンはいなくて寝袋が畳んであった。

俺がテントから這い出ると皆んなはすでに起きていた。


ライアンとクラさんは焚き火で食事を作っていた。


「おう、おはよう」

「おはよう。ゆうき」


「おはようございます……あれ?パチェラさんとミシェルさんは?」


「パチェラとミシェルは小川だ。顔と身体を洗いに行った」


見るとクラさんもすでに小川で洗ったようでタオルで髪を拭いていた。


「ゆうき、タオルや着替えを貸してもらったわ」


「うん。どうぞ。俺のってわけじゃないから好きに使って」


「それにしてもジャパンフォレストはすごいわね。なんでもある」


「何でもではないけど、ありがたいよ。いろいろ落としてくれる」


「そうだな。ここには俺とゆうきが使う分しか運んできていないが、拠点に行けばもっとあるぞ。確か女性用の着替えもあったはず」


「ホント?」


クラさんの顔が輝いた。


「うん、最近は色んな物が落ちてくる。俺に落としてくれてるって感じじゃなくなってるんだ」


俺は笑いながら言った。


「南の拠点には紙オムツとか粉ミルクが落ちてきてたし、最早、誰が何の為に落としてるんだか、ねぇ?」



小川からミシェル達が戻り簡単な昼食を摂った後、この森の3つの拠点を案内した。

そこに保存された数々の物資にも驚いていたが、広場の中央に落ちている大量の新しい物資に目を見開いていた。


「すごい!」

「毎晩落ちてくるの?」

「自転車がある!」


自転車?

それは初モノだ!やったぁ、嬉しいな。


「最近は…だいたい毎晩かな。でもこの中央のはフランスフォレストに行ってた10日間分だから。毎日こんなにたくさんは落ちてこないよ?」


「いや、でも、すごいな」

「うん。さすが日本人」

「オモテナシの国ね」


「ナマ物や日持ちがしない物はあっちへ置いて。腐ってるのは捨てる。勿体無いけど食べられないからあそこに埋めてる」


「わおう、残念。美味そうなパンなのに」


見るとまた惣菜パンが袋にたくさん入っていた。

しかし賞味期限はどう見ても10日前だ。

コロッケパンから嫌な匂いがして来ていた。

餓死寸前までいったミシェル達はものすごく残念そうな顔で腐ってしまった惣菜パンを地面に埋めていた。



南と東の拠点でも落ちていた物資を分類して、テントに持ち帰る物はリュックに詰めた。

クラさんは東の拠点で女性物の服や下着をゲット出来たみたいだった。


「良かったぁ。まさか、アレもあるとは思わなかったから嬉しい」


クラさんは物資中から取り出した何かを大事そうにバッグにしまっていた。


「すごいな。段ボールごと落としてくれたんだ。これだけあれば大分持つよな 助かるぅ」


ミシェルさんは大きな段ボールに入ったトイレットペーパーの蓋を開けて喜んできた。

うわっ、すごい大物を落としてくれた人がいた。

ありがたいな。

3拠点の物資の分類作業を終えて俺たちはテントに戻った。



今日の昼食はパスタとレトルトのミートソースだ。

それとインスタントスープにキャベツを入れた。

キャベツは西の拠点に落ちてきた物だ。

葉野菜はなるべく早くに消化するようにしている。



「さてと、次はどうするか」


食後のコーヒーを飲んでいたライアンがひと息吐きながら呟いた。


「次?」


「ああ、ここジャパンフォレストから行ける東西南北の隣の森の探索計画だ」


「うん。ここから西がアメリカンフォレストで、南に行ったとこがミシェルさん、あ、ミシェル…達がいたフランスフォレスト。まだ行ってない残りは北と東」


「北と東…どっちにするか。どっちにしてもグズグズすれば助かる命も助けられねぇ」


そうだ。

ミシェル達はたまたま食糧を持っていたから間に合ったのだ。

でも俺たちがたどり着いた時がギリギリって感じだった。

他の森に落ちた人がせめて水場を発見していてくれればいいけど。



「どっちにしようか…どっちも目視で森は見えないけど。アメリカもフランスも見えないけど2日ほど進んだら森あったし、北にも東にも森はありそう」


2日と言っても途中の休憩や野営を含めてだから実際の距離はもっと近いだろう。

車があれば…。

拠点に自転車が落ちてきてたけど一台だけだし、それに草原の中の丘の登りに自転車はキツイ。

荷物乗せたカートや台車を引いての丘越えの厳しさと言ったらもう、何なのこれ、自衛隊の訓練なのか!って感じだった。


小説の異世界転移ってさ、もっとラクに街に着いてなかった?

辛いとこ見せてないだけ?



「とりあえず、東側を攻めるか」


「そうだねぇ、じゃあ東で。あ、ミシェルさ…たちはここで休んでいて。まだ体調戻ってないでしょう?」


「そうだな。3人の体調復帰を待ってる間に餓死するやつが出るかもしれないしな。俺とゆうきで行ってくる」


「いや、僕も行くよ。身体は大丈夫だ」


パチェラが立ち上がり、自分の身体をバンバンと叩いた。


「あら、私も行くわ」「僕も行くよ」


クラとミシェルも同時に立ち上がった。

ライアンは3人を見て考え込んでいたが何かを決めたように俺の方を振り返った。


「よし、5人で行こう。皆んなで行動した方が何かあった時にも対処しやすい」


「そうだよ。カートや台車も交代で引くとラクだよ。あと、5人じゃない。5人と1匹ね。ジョリーもいるから」


「そうだったな」


と、皆んなで笑い合った。


「あ、でも、留守の間に惣菜パンが落ちて来たらまた腐っちゃうかも」


「おおう、それは困る」


ミシェルは本当に困った顔をしていた。

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