第8話 拠点でライアンさんと

ライアンさんを俺の森の拠点に案内した。



「何でこんなに物資があるんだ!」


拠点に置いてあった水の箱や防災の食糧を見て、ライアンさんは驚いていた。


「えぇと、俺にもよくわからないんですが、落ちてくるんです」


「落ちてくるぅ?」


ライアンさんの目玉が落ちそう。


「親切な誰かが落としてくれてるみたいで…」


「誰だよ」


「あ、いや知らん人だけど。最初の1週間は俺が穴に落ちたのを目撃した人が色々投げ入れてくれて、その後は何かたまに落ちて来てます。誰だろ?最初の人とは違う人かも……」


俺は落ちて来た場所を『拠点』、生活している水場を『テント』と呼んでいる。

拠点には1日一回見周りに行く。

誰かが落ちて来るかも知れないという期待と共に。

しかし今のところは誰も落ちてこないが、たまに物資が落ちている。


拠点の木々には張り紙をしてある。

ノートを破って木の蔓で木の枝に貼り付けたり、ぶら下げたりしたものだ。

張り紙には、俺の名前、落ちた日と落ちた場所、それからテント(水場)への地図などだ。


ライアンさんはそれを見て感心していた。


「なるほど、これなら落ちて来たやつも安心するな。ゆうきと合流するのもラクだ」


俺が書いたのはもちろん日本語だ。

ライアンさんはそれを普通に読んでいた。


「ライアンさん、やっぱり日本語わかるんじゃ…。それ日本語ですよ」


「ライアンでいい。さんはいらねぇ。確かに、よく見ると不思議な文字だが読めるんだ。読めるというか解るに近いか。

やまだゆうき 17さい ◯◯◯◯ねん◯がつ◯にち あなにおちた

合ってるか?」


「合ってます。てかライアンさん、俺よりずっと年上ですよね。呼び捨てはちょっと」


「かまわん、ライアンで。さん付けされる方が気持ち悪い」


「うん…んと、ライアン…。ここから90分くらい歩くとテントがあるんだけど

とりあえずそっちで休まないか?まだ歩ける?」


「ああ、大丈夫だ」



俺はライアンを案内してテントに向かう事にした。

さっきの草原から森の拠点まで来るのにテントの近くを通り過ぎたのだが、そこでライアンに休んで貰えば良かった。

真っ直ぐ拠点まで来ちゃったよ。


地面に新たに落ちていた物資を忘れずに回収、リュックに入れてからライアンと拠点を後にした。

リュックは最初の7日間に落ちて来た物資の中にあった。

あの人が落としてくれた物はここでの生活で本当に助かっている。


『穴の先の異世界の季節がわからないので』というメモが付いて、雨具や合羽、冬用の防寒着や登山着とホッカイロ、夏用の登山着や冷えるタオルなどもあった。

この世界の季節がどんななのかわからないけど、とりあえず夏冬両方の着替えがあると何か安心する。


この森は昼は涼しく夜は少しだけ冷える。

テントの他に寝袋や毛布もあった。

とてもありがたい。


テントに着いて、ライアンさんにはさっそく休んでもらった。

寝袋は俺が寝ていたものだが我慢してもらおう。

おれはマットと毛布があれば大丈夫。

まだそこまで寒くないしな。


テントの外の水が近い場所で火を起こしてお湯を沸かす。

インスタントコーヒーもまだあったはず。

アメリカ人はいつもコーヒー飲んでるイメージだけど、インスタントでもいいかなぁ。

あとスープを作って…、あ、さっき拠点から拾ってきた物資は何だろ?


リュックに手を合わせてお礼を言った。


「どこの誰かはわかりませんがありがとうございます」


さっそくリュックの中から袋を取り出して開いてみた。


「パンだ!惣菜パンが色々!パン屋さんかな? 落としてくれた人」


太いウインナーが挟んであるパン、メロンパン、サンドイッチなど袋いっぱいに焼きたてパンが入っていた。

狩りなんて出来ないし、仮に肉を入手しても冷蔵庫なんて無いから保存できない。


パンに肉が入ってるの嬉しいな。

あ、でもよく落としてもらった弁当も唐揚げ弁当とかあるし、何気に肉系は摂っていた。


結構な量あるけど日持ちしないから早めに消化しないとな。

そんな事を考えながらスープとコーヒーを作っていたら、ライアンがテントから這い出て来た。


「いい匂いだな」


カップに作ったインスタントコーヒーをライアンに手渡した。


「もう少し寝ていてよかったのに」


ライアンは熱そうにコーヒーを啜りながらそこに広げられたパンを見た。


「ずいぶんたくさんあるな」


「うん。さっきの拠点に落ちてたやつ拾ってきた。パン屋さんかなぁ、たくさん入れて落としてくれたみたい」


「食べていいか」


「うん、どうぞ。あまり日持ちしないから明日の朝もこれになるけど」


「うお、何だこれ。中にシチューが入ってるのか?」


「あ、それはカレーパンだ。カレーパン美味しいよね。あ、ハムカツと卵が挟んであるのもうまそおお。どうしよう」


こっちも美味い、これも美味いとライアンさんはバクバクとパンを食べていった。

アメリカ人ってすごいな、そんなに食べてお腹壊さないといいけど。

俺は惣菜パンを3つと甘い系のパンを2つ食べた。


2人で結構食べたのにパンはまだまだ残っている。

穴に落としてくれたパン屋さん、本当にありがとう。


食事をしているうちにあっという間に森は日が暮れて真っ暗になった。

俺達は木の枝とかを燃やしている火の前でポツポツとお互いの身の上を話した。


ライアンさんは恋人はいたけど奥さんや子供はいない独り者だった。

両親や兄弟が別の州に住んでいたそうだ。

俺は両親と姉と妹がいた話をした。

それから、穴に落とされた話も。


ライアンは眉間に皺を寄せて苦いモノを吐き出すように言った。


「……そいつらには碌な未来はない。神はいつも正しい者の上にいる」


「…………うん」


「今夜はもう寝よう」

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