第2話 この白い穴の先は異世界? プロローグ②

駅前の交差点に出現した穴に高校生の少年が落とされた動画を撮ってしまった翌朝、俺は警察署からの帰り道に会社へ休みの連絡を入れた。


それから、俺はその駅から出ているホームセンター行きのバスに乗った。



穴は長くて数日間、いつ消えるかわからないと聞いた。

時間と勝負だとばかりに俺はホームセンターの中をカートを押して走り回った。


キャンプ用品売り場、若干の衣類(下着)、農具やガーデニング用品売り場で武器っぽい(?)もの、日持ちしそうな食べ物、そして2リットルのペットボトルの水を箱買い。


レジで支払いの時に、


「ウッギャー!」


となったが、涙目でクレカで支払った。



見ず知らずの少年に、届くかどうかもわからない物質、自分でも何をしているのだろうと思うのだけど、きっとこうする事が少年に対して俺の贖罪になっているのだろう。

少年は穴の向こうで生きている。

あの穴は異世界に通じているんだ。

バカバカしいけど、そう思いたい自分がいる。



ホームセンターでタクシーを呼んでもらい、荷物を載せて交差点へ向かった。


白い穴の横に降ろしてもらった荷物をひとつずつ穴に落としていった。

荷物には、

『どんどん落とすので、拾ったらすぐに場所を空けてくれ』

と大きく書いたメモを貼った。

彼がその場にいるとも限らないが、もしいた場合、荷物を拾っている彼の頭上に次の荷物が直撃したら大変だ!


せっかく生きて異世界にたどり着いたのに救援物質による直撃死とか、ありえん。

俺が殺人者になってしまうわ!


なので、ゆっくりとひとつずつ 荷物を落とす。



『これで最後です。自分はたまたま君が落とされた事件を目撃した者です。目撃というか、ビルの上から召喚の輪を録画していて、あとで観たら君が落とされたのが映っていました。その時に気がつかなくて助けられなくてゴメン。だからこの穴が異世界に通じている事を願って、そこに君が無事にいる事を願って、生き残るための手伝いが少しでも出来ればと思い物資を落とします。

追伸、その録画はさっき警察に届けました。』


というメモを貼って、最後の荷物を落とした。




数日後、TVのニュースで放送された。


「日本で三人目の行方不明者が出ました」



それが高校生である事も、イジメにより同じ高校生に落とされた事も全く放送されなかった。

犯人が未成年のための考慮だろうか。


しかし三人の加害者達は思った以上にバカだったようだ。


『謎の穴で処刑してやったぜ』


と自分でSNSにアップして自爆した。

世間に自分たちが犯人ですと自白したようなものだった。


SNSで「穴落とし処刑犯人」への非難が連日すごい勢いで書き込まれ、やがてネットニュースなどにも大きく取り上げられる事となった。


結果、TVや雑誌にも"イジメ殺人"として取り上げられ始め、ある日あの映像がネットに流出した。

あの映像、俺がスマホに撮った映像が。


顔に多少のモザイクはかけられていたが場所や制服、三人の顔以外の特徴から、あっという間に三人は特定され顔や名前が晒されることとなった。

学校でも普段から他に複数のイジメ被害者がいたらしい。


最初に流出した動画は俺が撮ったものだが、誓って言うが俺は流していない。

だがあの三人が加害者でありながら未成年という事で法に守られていたことに少なからずモヤモヤしていた俺は、胸のつかえが取れてスッとした。

これからは自分がやった事を受け止めて生きていけばいい。

世の中は甘くないぞ。



あの穴は少年が落とされてから七日後に消えた。

穴が閉じる前日に、たまたま彼の家族らしき人を穴のそばで見かけた。


泣き叫んで穴に飛び込もうとする母親らしき人を抑えている父親らしき人、泣きじゃくってる妹らしき女の子。


俺はどうしてあの時寝てしまったんだろう。

起きていたとしても間に合わなかったと思うが、もしかしたら助ける事が出来たかもしれないと、ちょっと胸が痛くなった。


その日の夜も買い込んだ食料とかの 物資を持って穴に行き、俺は穴に投げ込んだ。


『今日、君の家族らしき四人をここで見ました。俺は君が異世界で生きていると信じてます。こっちに戻るのが難しいなら、そこで思い切り幸せになってほしい。

他人の俺が言うのも変だけどね。穴が閉じるまで、また来ます。』


そう書いたメモを入れて落としたが、皮肉なことに穴は翌日には閉じてしまった。



後日談ではあるが、あの動画をネットに流したという記者からコンタクトがあった。


俺が穴に物を落としている姿を撮ったそうだ。

なぜそんな事するのかと聞かれたので、秘密にする事を約束に流出した動画の撮影者であることを話した。


助けられなかった事が自分の中でわだかまっていること、それからの逃げかもしれないけど、「穴が異世界に通じていたら」という一般人からすれば、しょうもない話もした。


俺の妄想をどう思ったのかわからないが、記者はそのまま帰っていった。



ある日ネットに、

"穴に物を投げ込んでいる俺の写真"と

『異世界に落ちた人に救援物資を』というカキコミがされた。


もちろん、俺が書いたわけではないし、俺の顔にはモザイクがかかっていた。

しかし、その写真とカキコミは一部の者達に面白い現象を引き起こした。


白い穴を「召喚の穴」や「異世界の入口」と呼んでいるネットユーザー達の間で、穴を発見すると物を投げ込むのが流行りだしたのだ。


それは、"ヘルパー"という名で呼ばれ始め 、次第に日本中に広がりだした。

白い穴に落ちた者は"召喚された勇者"

勇者をこちらの世界から支援するものを"ヘルパー" と。


ヘルパー。

いや、もっとカッコいい言い方はないのかいと、ちょっとだけ思った。

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