第35話 魔法を使ってみた

「とりあえず一発試し打ちといきますか」


 俺は自分で作った『樫の杖』を目の前に突き出し、杖の先端で星のような形を描いた。これが先程設定した《アロー》のショートカットだ。流石に音声認証は小っ恥ずかしい。


 と、同時にキィィィィンと音を立てて目の前の空間に魔法陣が描かれていく……


 パシュッ!


 完成した魔法陣から一筋の光の矢が飛び出し、目の前のキノコの化け物に突き刺さった。


 キシャー!


 攻撃を加えたことにより、こちらに気づいて奇声をあげながらピョンピョンと向かってくるキノコ。


「次!」


 俺は再度杖を振るう。またも眼前に展開された魔法陣から光の矢が解き放たれる。二の矢が当たり、消えていくのと同時にキノコの姿も虚空へと溶けていった。


「こんなもんか……それともMPを使うだけあって『ロングボウ』の通常攻撃よりは強いのか?」


 マップを変えたことにより敵の強さは増すのかと思ったが、序盤も序盤だからかそんなことは無かった。今まで使っていた『ロングボウ』でなくて覚えたての《アロー》でも戦うことは出来そうだ。


 ただ、やはり連続で攻撃するのには弓に劣る。恐らく一発の威力は《アロー》の方が高いのだろう。ただMPも使うから無制限に使うには向いてない。火力の低さが仇になるはず。後は命中率だ。使ってみた感じ、これくらいの敵なら外しそうにもないけど、『ビー』みたいな回避率が高いモンスターにはファーストが外していたみたいに外すこともあるようだ。俺の場合はDEX極だから魔法でも命中率が上がって『ビー』相手でも当たるのかもしれないけど、そもそも魔法よりも命中率が低い弓で当たるのだから《アロー》で戦う意味はさほど無い。一発の威力が高くても何本も矢を重ねられて、《多段撃ちの極意 》の効果もあれば、俺にはそっちの方が有効に思える。


 目的は新たな魔法や能力を獲得すること。仮に『樫の杖』に《アロー》をくっつけて売りに出せば需要はあるように思える。1000イクサ以下なら杖装備を揃えるついでに買う人も居るだろう。それに魔法を使いたい初期プレイヤーにあげても喜ばれそう。あとは使い続けて上位の魔法を覚えたら、それを付けてもいい。とは言ってもマーケットをざっと見たところ魔法付きの武器は全然見なかったから、俺の予想に反して需要は全く無いのかもしれないけど……


「まあ、とりあえずもっと試してみないと」


 先程のキノコの化け物に向かって何度も『樫の杖』を振るう。その度に魔法陣が現れては消えの繰り返しである。MPが尽きると今度は『ロングボウ』に持ち替えて回復するまで矢を放つ。今回は魔法を使うことも目的の一つなのでこれでいい。


 マップで確認した限りだとこのキノコのモンスターは『マッシュ』という名前らしい。ここは『バラータの森』という名前のちょうど『セフトの街』と『聖都ハイディア』の中間地点。薄暗い森の中で所々にこの『マッシュ』が湧く地点が点在している。


「そろそろいいかな」


 俺はドロップアイテムの確認をしようと一旦マッシュを倒す手を止めた。


 ドロップは『マジックマッシュルーム』という素材だった。なんて危険なネーミングをぶち込んでくるんだ、この運営は。こんなキワドイことするから、どっかの県ではゲームは一日一時間までとかいうトンデモ条例が出来ちまうんだ。

 で、その『マジックマッシュルーム』が約10スタックっと……他にはまだドロップしてないみたい。まあ、まだ千体程度を倒したくらいだ。サブドロップの調査には程遠い。


 で、この『マジックマッシュルーム』は……と、『調合』から確認すると『魔力強化剤』の素材になるようだった。全部で10個必要とのこと。


「とりあえず半分くらい作っておくか」


 と俺は5スタック分の『マジックマッシュルーム』を早速『魔力強化剤』へと『調合』した。


 この『魔力強化剤』だが詳細を確認すると使用すると一定時間、魔法攻撃力が上がると書いてある。これを使いながらなら今まで以上に狩りも捗るというもの。


「あとチェックするのは武器もか……」


 と、新たな武器を作れるようになっていないかを調べると一つの武器追加されていた。『マジックロッド』という武器で素材は『樫の杖』と『魔力強化剤』を10個とある。『魔力強化剤』を手に入れたことによって追加されたのかもしれない。


「じゃあとりあえず一本作っておくか」


 せっかく武器が追加されたのなら作らない理由はない。幸いにも成功率は100%だしね。


「これで……よしっと。じゃ、『マジックロッド』の試しも兼ねて、狩りを再開しますか」


 そうして俺は再び『マッシュ』に向けて杖を振るったのだった。

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