第28話 負けイベントに抗ってみた

グサッ!


 ドラゴンの鼻先に矢が突き刺さった。痛がりもせずに、ただこちらを見るドラゴン。俺がターゲットにされたようだ。


 グワッ! と大きな口を開く!


 まずい! 


 そう感じた俺は、すぐさまその場から後方へと飛び退いた。


 その刹那、視界が赤く染った。ドラゴンが火炎のブレスを吐いたようだ。


「アチチ! 危ねぇ……直撃喰らったら死んでたかも……」


 間一髪と言ったところか。もしくは序盤だし、ブレスの威力は抑えられてるのかもしれない。ただ、直撃は避けられたとはいえ、かなりのHPが削られてしまった。すぐさま俺は左手の指を鳴らす。ショートカットに『リバイブⅠ』を使う行為を登録しておいたからだ。よく使うコマンドはこうやって登録しておくといいとアンバーから聞いていたのが役に立った。


 俺とドラゴンの間に三人の騎士が割り込んできて盾を構えた。ヘイトを稼いでターゲットを取ってくれたみたいだ。


「ムダだ! こいつにダメージは殆ど通らない!」


 と、真ん中の騎士セリフだ。ビッグスという名前が浮かんでいる。


「こいつは恐らく過去の伝承にある『暗黒竜アルデス』だ!」


 今度は右の騎士セリフだ。こいつの名前はウェッジらしい。


「こいつの纏う闇の衣は全ての攻撃に絶大な防御力を持っているという話だ! 逃げろ!」


 最後の左の騎士の名前はピエットだ。ぶっちゃけ、三人とも全身鎧だし、名前でも浮いててくれないと判別もつかない。


 しかし、なんとまぁゲーム的なセリフだ。だが、俺にとっては朗報だ。『ツムール』の殻と一緒で内部的に無理やりゼロにしている訳じゃなく、ただ単純に全属性への防御力が高いのだろう。ということはダメージはゼロじゃない可能性がある。というか、今までの経験上ゼロでは無いと思う。


 普通ならこの三騎士の言葉でさっさと逃げるのだろうが、俺は逃げるつもりはない。次に三本の矢を番えて放った。次の矢は《水滴石穿》のスキルも上乗せしている。一本につき二ダメージは通る計算だ。どうせ命中回数を貯めても意味がない。今後は全部の矢に《水滴石穿》を載せてしまおう。そうすれば単純に半分の攻撃回数で良くなるのだろう。


 ま、HPがどれくらいあるのかは知らないけどね……


 トトトスッ!


 三本の矢が『暗黒竜アルデス』に突き刺さったが、今度はヘイトを三騎士が取ってくれていたお陰で、ターゲットは俺に向くことはない。


「逃げろと言ってるのがわからないのか!」


 ビッグスが俺に喚く。が、NPCの言葉など無視だ無視。


 トトトスッ!


「逃げろと言ってるのがわからないのか!」


 トトトスッ!


「逃げろと言ってるのがわからないのか!」


 どうやら攻撃を加えるとビッグスが喚くプログラムになっているようだ。煩いから一瞬こいつからぶっ殺してやろうかとも思ったが、さっきから『暗黒竜アルデス』のブレスを何度食らっても倒れる気配がない。こいつもダメージが通らないように設定されているのかもしれない。だったら意味無いか。


「っと危ねぇ!」


『暗黒竜アルデス』が俺にターゲットを移してきた。俺は慌ててその場を離れる。やはり、先程と同様にブレスが吐かれてきた。すぐさま俺は回復を行い、間に三騎士が割り込んでくる。


「ずっとは無理か。ターゲットが移ってくるタイミングはあるな」


 ずっと三騎士にターゲットがある状態を保つのは無理そうだった。三騎士は攻撃をしない。単純に攻撃を加えるのは俺だけ。ならそうなるのも必然ってことだ。俺はターゲットされた瞬間にその場から飛び退いてブレスを回避し、回復する。それを繰り返す必要がある。と、なるとあとは『リバイブⅠ』の数次第か。


「まあ、『リバイブⅠ』が切れた時が時間切れってことだな」


 一応『リバイブⅠ』は潤沢にある。20スタックほどだが……

 俺は気を取り直して、またも三本の矢を放った。


 何百度目かのブレスの後に、俺はとある事実に気づいた。単純に『初心者の弓』が持たない可能性があるということ。耐久度を確認するともう殆ど残ってない。壊れる直前と言ったところか。まあ『修理』すればいいだけなのだが……戦闘中も『修理』が出来ること。俺にターゲットが向かないこと。戦闘中に『修理』なんかしても気にしないNPCがパーティだったこと。『初心者の弓』が『修理』に何も素材が要らないこと。全てが幸いだった。これだけ戦闘が長引くと、武器の心配までしないといけない。その心配をしなくていいのはDEX極のメリットか?


 そう思いながらも『初心者の弓』を『修理』して、すぐさま攻撃へと転ずる。


 何回目かの『修理』も終わり、再度放った矢が刺さった瞬間、俺の視界がパッと白くなった。

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