第21話 モヒカン野郎を追い払ってもらってみた

 俺はセフトの街へと戻ってきた。戻ってきたのは、『殻の鎧』を作ったものの、どうやらマーケットには街マップからでないとアクセス出来ないようで、相場の確認とメインクエストの進行の為だ。ブライトン農場の『ツムール』戦の後は、門番のトーマスへの報告が必要らしく、そのようにクエスト表が変わっていた。


 セフトの街に戻ると、まるで叫ぶような声が俺の耳に入ってきた。


「やめて下さい!」


「何言ってんだよー! お前にとっても悪い話じゃないんだから、俺のクランに入れよ!」


 女性の声と言い合う男性の声だった。俺は驚いて声のした方を見ると、二人らしき人影が大通りの真ん中で揉み合っている。


「あ……あれは……」


 女性は小柄で男性に隠れてよく見えない。が、男性の方は見覚えがある。初日に俺のことを馬鹿にしてくれたモヒカン野郎だ。性懲りもなくクラン勧誘してるようだ。しかもあの感じだと、断ってるのに強引に誘ってるみたい。


「おいおい、『Lunatic brave online IV』の印象悪くなるようなことは止めてくれよ」


 俺はモヒカン野郎を止めるべく、二人の元へ駆け寄ろうとした。


「って俺が間に入って止められるのか?」


 そもそも俺だってあいつに付き纏われたようなもんだ。顔を覚えられてたら、俺がDEX極だからとまた馬鹿にされて相手にされない可能性もあるな。って、そうか! 俺の時と一緒でアンバーに助けて貰えば!


 そう考えた俺は早速アンバーに通話を申し込む。幸いログイン中だった。現実でやるべきこととやらも終わったみたいで一安心だ。


 俺が通話を申し込むと直ぐにアンバーが受けてくれた。


「おい、アンバー! 今暇か?」


「ログアウトしようとしたとこだけど……どうしたの?」


 ログアウトしようとしてた時に頼むのは気が引けるが、俺でどうにかなることじゃないかもしれない。とはいっても、アンバーと話した時の様子だと、初心者を助けるのは喜んでしたいみたいなことを語ってたから、ここは一度頼ってみよう。


「わりぃ、セフトの街まで来てくれるか? ちょっとだけ手伝って欲しいことがある。実は……」


「んー、まあちょっとならいいかな」


 俺が最後まで言うことなく、アンバーは通知を切った。すると直ぐにアンバーの姿が目の前に現れた。ワープアイテムか何かだろう。でも、内容も聞かずにすっ飛んできてくれるとはアンバーは思った以上にお人好しのようだ。


「お待たせー! ってもしかして……あれ?」


 アンバーも大通りの真ん中で揉み合う二人にすぐ気づく。状況を察して、俺に視線を送る。俺がこの揉め事を仲裁して欲しいとアンバーに頼みたくてセフトの街まで呼んだと理解してくれたようだ。


「そうだ。手伝ってくれるか?」


「合点承知之助ー! おーい! このモヒカン野郎ー!」


 とても古い掛け声と共に二人に駆け寄っていくアンバー。その姿を見てモヒカン野郎は一目散に逃げて行ってしまった。それを追いかけていくアンバーもどんどん小さくなっていく。


「大丈夫? 変なやつに絡まれちゃったね。俺も初日からあいつに絡まれちゃったから」


 俺はモヒカン野郎に詰め寄られて倒れていた少女に声をかけて手を伸ばした。

 戸惑いながらも俺の手を掴んで起き上がる少女。背は俺の胸くらいの高さ。腰まである長く蒼い髪をツインテールに結っている姿が印象的だ。


 パンパンッと少女が砂を払っているとモヒカン野郎を取り逃したアンバーが凄まじい足音を鳴らさんとばかりの迫力で戻ってきた。


「チッ! 逃しちゃったわ! まあ、当分戻ってこないでしょう。とりあえず良かったわね!」


 笑顔で少女に話しかけるアンバー。少女は俺とアンバーの顔を交互に見てから頭を下げた。


「ええ、ありがとうございます。マリンです。ええと……」


 きっと俺たちのことをどう呼んだらいいか迷っているのだろう。名を名乗ってくれたし、ここは自己紹介と行くべきか。


「ああ、俺はアオイ。この人はアンバー。俺は始めたばかりの時にあのモヒカン野郎に絡まれたところを同じように助けて貰ったってワケだ。アンバーはベータテストからこの『Lunatic brave online IV』をやってるらしいよ」


「違うわ、アルファからよ! っとアンバーよ。宜しくね。何かあったら気軽に言ってね! と、そろそろログアウトしないと……」


 アンバーはそう言うとメニュー画面を弄り出した。そういえばアンバーはそろそろログアウトする気だったんだっけ。


「じゃあ、フレンド申請送っといたからまた今度ね!」


 どうやらフレンド申請をしていたようだ。アンバーはそこまで終わると慌ただしくログアウトしていった。

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