第47話

「………なら、さっさと北の塔に第2王子、極北の地に第1王子、そして北の修道院に王妃を突っ込め」

「はひぃー、」


 情けのない国王の頷きに、王妃と王子たちは目を見開いて国王に向けて怒鳴り始める。


「何を言っているのですッ!?あなたはあたくしを捨てるっていうのですか!?」

「ふ、不貞を働いた人間は妻などではない!!そ、そもそもそなたが喚くからわしは我慢をしていただけで………、」

「父上!!俺はにも悪くありません!!悪いのは全部マリンソフィアです!!信じてください、父上!!」

「お前はそもそも罪を履き違えているから、話にならん!!」

「ち、父上!!」

「わしはお前の父ではない!!」

「あたくしの夫はあなたなのですよ!?あたくしの面倒を見るのは、あなたの義務でしょう!?」

「責務を放棄した人間が、義務を喚くでないわ!!」


 ダメな国王を攻め立て、ダメな王妃とダメな王子たちが叱責される。不毛な争いは終わりが見えず、どんどん苛烈になっていき、終いには殴り合いすらも始まってしまった。王妃は鉄製の扇子を振り回し、王太子はナイフを鞘ごと振り回す。周りから散々なじられている第2王子は、ついに泣き始めた。


「そもそも、テナートが婚約破棄したのが全部の始まりだわ!!この子が全部悪いのよ!!」

「はあ!?母上の不貞が原因だろ!!そのせいでこいつが第2王子って言う立場を失い、母上が王妃の立場を失った!!お陰で俺は庇ってもらえないじゃないか!!」

「はあ!?そもそも親孝行のできぬ息子なのが悪いのではなくて!?ほら!!あんたもなんか言いなさい!!馬鹿次男!!」

「ふぇっぐ、おれはわるぐないもん!!」

「こんのっ!」


 王妃が扇子を勢いよく振り上げたのを見て、マリンソフィアは低い声をピシャリと放つ。


「………いい加減に、この余興にも飽きてきましたわ。アルフレッド、そろそろ終わりにいたしましょう」

「………そうだな」


 同じように面倒臭そうな顔をしたアルフレッドは頷き、国王へと視線を向けた。


「国王殿、護送の件の追記だが、もちろん、こいつらの服は麻製のものに全員交換させ、防寒具を持つことは許さない。死なないギリギリの食事のみを与え、しっかりと閉じ込めて置くように。あぁ、あと、第1王子と王妃の髪は坊主にしてしまえ。マリンソフィアの絹のように美しく綺麗な髪を、ばっさり切るきっかけを作らせた報いだ」


 アルフレッドの言葉によって、国王とクラウスを除いた全員が外に運び出され、1時間後には惨めな姿で犯罪人用の鉄製の檻馬車でそれぞれアルフレッドに命じられた場所へと、搬送されることになるのだった。


▫︎◇▫︎


 搬送されていくのを見送ったマリンソフィアとアルフレッド、そして国王とクラウスは疲れ切った顔つきでそれぞれ大きな溜め息をついた。

 王妃は口汚い言葉を金切り声で叫びまくり、王太子は精神がやられてしまって、もう1言も話せなくなってしまったようだ。第2王子は泣いて謝罪しながら、大人しく自分の足で北の塔に幽閉されに行ったらしい。今後、クラウスの判断によっては釈放もあり得るとのことだ。

 そして、トライ公爵については、即刻捕まえて地下牢に突っ込んだ。余罪調査のために皆で公爵家に乗り込んでまだ30分しか経っていないが、えげつない量の余罪がわんさかわんさかと、叩けば叩くほど出てくる。中にはマリンソフィアが知らないこともあり、もう苦笑するしかない。


「それでは、新聞社には#元__・__#王妃の罪と王太子の罪、そして御輿になってしまった第2王子殿下について書かせていただきます。陛下はこの責任をとって、王位をクラウス殿下に今日中に譲っていただきたく存じますわ。トライ公爵関連で出てしまった足りない人員に関しては、クラウス殿下とわたくしで密かに育てた貴族の3男や次女以降の人間がおりますので、そこから補充してください」

「承知した………」


 憔悴し切った国王は何も文句を言わず、椅子についていた隠し扉を開けて王位に関するものを、その場で全てクラウスに渡してしまった。本来ならば式典が必要なところだが、マリンソフィアの命令に国王は逆らえない。


「クラウス殿下、この際ですので、この国の膿は全てしっかり出し切ってください。えぇっとあとは………、そう、そのミルクティーブラウンの髪染めはさっさと落として、元の髪色に戻して、前髪をばっさり切ってください。あぁ、あと、瓶底眼鏡も禁止ですからね」


 マリンソフィアはクラウスに対してビシッと扇子で指差すと、アルフレッドに寄り添ってくるりと踵を返した。


「わたくしはこれにて失礼させていただきますわ。もう会うことはないかと存じますが、精々お元気にお過ごしくださいませ。それでは、ご機嫌よう」

「ーーーありがとうございました、マリンソフィアさま」


 深々と頭を下げたクラウスは、その後国王を辺境の地へと追いやったらしい。

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