再会したもう一人の幼馴染は、騎士団の最強総隊長(3)
なんと心強い親友だろうか。話の内容が難し過ぎるうえ突拍子もなくて、こちらは理解するのも半ば追い付かないでいるというのに、彼の方は冷静に分析し、そこに残されている希望的可能性を推測してくれている。
獣師として出張したのは一度きりで、害獣だって先日の氷狼の他は、ホノワ村の土地に生息する熊や山狼を扱った事があるだけで、自分には実績と呼べるものが全然ない。そもそも、金髪金目を国家の役職席に据える事もないだろう。
そう考えると気持ちも少しだけ楽になった。
ここにきて、金髪金目に心が救われるなんて思ってもいなかったけれど……。
そう思い出したら、またしても少しだけ悲しくなった。うっかり忘れていたが、この部屋にいる人が『悪魔の色』を気にしていない者達ばかりというだけで、一歩外に出れば、住み慣れた村以上の拒絶が待っているのだ。
だからこそ、嫌だったのだ。あの視線に慣れるなんて、出来る筈がない。それに、外に出ればノエルと自由に話せる時間も限られてしまうだろう。第三騎士団の専属獣師となった今、どれくらいの時間を『親友なんて見えません』という振りをして過ごさなければならないのだろうか?
思い返せば、ホノワ村にやってきた王宮警察部隊の人間は、特に驚きも見せず淡々と知らせを告げた。けれど申請を通し、今回の件に許可を出した連中は、自分が『悪魔の色』を持っている獣師だという事をどう思っただろうか。
ラビの顔色が唐突に優れなくなったと気付いて、セドリックが腰を屈めた。
「ラビ、大丈夫ですか? 何か不安事でも思い出しましたか?」
「…………そんなんじゃねぇし。……オレは、強い子だもの」
思わずぶっきらぼうに答えたものの、最後は無意識に素の口調で言葉をこぼしていた。知らない誰かの反応なんて想像したくない。色が珍しいというだけで、関わりのない人間から蔑む目を向けられる様子を思い出したくない。
ラビは頭に過ぎった光景を振り払い、ルーファスをチラリと上目に見つめ返した。
「……その法律の申請って、通す時に揉めなかったの?」
「どうして?」
「いや、どうしてって、その…………」
言い淀むと、ルーファスが親愛溢れるいつもの顔で微笑んだ。
「言っただろう? その日のうちに申請が通って決定が降りたんだよ。私が本申請を用意する手間もなかった。その当日内で私だけでなく、複数の人間が国家獣師の推薦案を書いて、全て受理された」
いつも以上にその口調が優しいような気がして、ラビは小さな疑問を覚えた。
ノエルが、なるほどなと察した顔で小さく息を吐き『担当したやつの中に、難色を示す人間はいなかったってわけか』と呟いた。
『つまり、全員がクソみたいな迷信を信じてる訳でもねぇらしいな』
それ、どういう事?
ラビは彼に尋ねようとしたのだが、まるで場のしんみりとした空気を変えるように、ルーファスが次に発した言葉で凍り付いた。
「専属獣師になった件の説明は済んだから、本題に入るためにも次の話に移ろう。――母上の言っていた『大きなワンちゃん』はどこかな?」
思わずラビの喉から「え」と、少女にあるまじき絞め上げられたような声がこぼれ出て、その隣でノエルが大きく咽た。場を見守っていたセドリックもピキリと愛想笑いを固まらせ、ユリシスが「は」と呆気に取られたような珍しい顔を晒す。
大きなワンちゃん、と言われてラビ達の脳裏に浮かんだのは黒大狼だ。実体化したノエルの姿を、ヒューガノーズ伯爵夫人には見られている。とはいえ、まさかルーファスの口から出てくるとは思わなかった。
尋ねたルーファスは、リラックスした様子で書斎机の上に組んだ手を置き、有無を言わせない美しい笑みを浮かべていた。
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