第5話:3人目 平河舞音
3人目は、純白のドレスに身を包んだ、小柄かつ小顔、綺麗な銀髪の少女だった。
「
その姿を見て、俺はつい大きな声を出してしまう。
彼女は、またしても知ってる女の子だったが、ただの知り合いではない。
「お久しぶりです、お兄ちゃん」
彼女の名前は
義妹といっても、俺の父親の再婚相手の連れ子というわけではない。
舞音は、児童養護施設にいたところを、父親が養子縁組をして引き受けた。
彼女を養子縁組した理由は、その頭脳にあったようだった。
まだ施設にいた時期、当時小学生の舞音は、ヒラカワグループの内部ネットワークにハッキングを試みた過去がある。
当時、相当に無口だった舞音がそんなことをしようとした理由は結局よく分からなかったが。
俺たちの父親・
今になって思えば、もうあの時には父は俺に会社を継がせる気はなく、他の候補を探していたのかもしれない。
そんな経緯で、小4の時に突然出来た1つ下の妹。それが平河舞音だ。
「舞音、どうしてここに……!?」
「いずれにせよ、時がくればお兄ちゃんと結婚しないといけないと思っていましたので。その時が来ただけです」
「……舞音って俺のこと好きだったのか?」
「不可解です。どうしてそうなるです?」
「どうしてそうならないです……?」
ちっとも似た者同士ではない
俺が高校入学と同時に家を出るまで、6年も同じ家に住んでいたのに、舞音が何を言っているかさっぱり分からない。
まあ、俺の前で口を開いてくれるまでに1年を要したから、無理もないんだろうけど。
「その理屈で言うと、この留学への参加者は全員がお兄ちゃんのことを好きということになるですよ。本当にそんなことあると思うですか」
「それは、たしかに……」
そもそもオーディション応募者のほとんどが俺の家柄や立場目当てなはずなのだから、通過者の6人だって同様に、俺への好意がない可能性の方が高いに決まっている。
無意識のうちに、ずいぶんと思い上がった発言をしていたらしい。
俺は恥をかき消すように咳払いをして、最初の質問に戻る。
「それじゃあ、舞音は? どういう目的で参加したんだ?」
「マノンは、今の環境を変えるわけにはいかないのです。そのためには、平河家の人に養っていただく必要があります」
舞音は、自分のことを名前で呼ぶ。
その名前だけが実の両親からもらったものだから、だそうだ。
ちなみに、そのことを教えてくれるまで3年かかった。
「マノンは、自分のためだけに好きなことだけをしていい、という条件で平河家の養子になりました。これは平河家との契約とも言えます。でも、真之助お父さんが社長や会長を退任するのはそう遠いことではありません」
「それは、そうだな」
定年退職という概念があの男にも通じるのかはわからないが、父はもうすぐ還暦だし、退職せずとも、人の命には限りがある。
「だから、その時までには、お兄ちゃんと結婚しなければいけないと思っていたのです」
「そうまでして舞音がやりたいことって、なんなんだ?」
実は、出会ってから6年半かかっても聞き出せていないのが、それだった。
「マノンは……」
だからダメ元ではあるが、結婚するかもしれないというこの段においては重要なことでもある。
言うかどうか迷っていたその唇は、それでも、「秘密ですよ?」と前置きをして、初恋の相手を兄にだけ教えてくれるようなナイショの声音で、俺の耳元に届けてくれた。
「マノンは、お人形さんが作りたいのです」
「へえ……!」
その言葉に胸元になんとも言えない華やかな心地が広がる。
「不可解です。どうしてそこで嬉しそうな顔をするですか」
「いやあ……舞音のそういうの、初めて聞けたなあって思って。そっか、そういうのが好きなんだな……」
「す、好きとかじゃないですし! と、突然、お兄ちゃん
舞音はその色白な顔をほんのり桃色に染めていく。銀髪と純白のドレスに映えて綺麗だ。
『好きとかじゃないですし!』と、自分の夢にツンデレをかましてるのもなんだか微笑ましい。
「じゃあ、髪を切ったのも、この留学に向けて?」
「ええ、そうですけど……。やっぱり似合わないです?」
舞音は肩の上あたりで切り揃えられた自分の毛先を見て、顔をしかめる。
以前は床につきそうなほど長かったのだ。かなりバッサリ切ったようだ。
中高一貫の、リモートでの通学が許されている私立校に通っている舞音は、ほとんど引きこもりだったため、髪を伸ばしっぱなしにしていたし、服にも無頓着だった。
それでも、きっと親譲りであろうその髪だけは綺麗に保っていたので、ごくたまに3階の自室の窓を開けて街を見下ろす時、たまたま通りがかった人々がその姿を見て、『銀髪のラプンツェル』だなんてあだ名をつけていたことがあるくらいだ。
「いや、切った髪もよく似合ってるよ。高校デビューなのかと思った」
身内
「高校デビュー? マノンが、なんのためにそんなことをするですか?」
「いや、知らないけど……。高校でモテたりするためにするんじゃないか?」
「不可解です。マノンが高校の誰かに好かれようとする意味が分かりません。だって、」
そして、我が妹は、こともなげに言い放つ。
「マノンの高校には、お兄ちゃんはいませんよ」
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